2013年07月19日

ていうか、軍靴の音、聞こえてきません?

 ネット上の同世代近辺の議論では、自衛隊の軍事的な膨張を心配する議論に対して「軍靴の音が聞こえますねw」的にニヒルな対応をするのが一つの型になっている。しかし、最近の自衛隊周辺の増長、それを利用・奨励する政治家の言動は目に余るものがあると、個人的には感じている。

22DDH「いずも」は航空母艦
 今、日本国は、数千億円の予算を掛けて「22DDH」という“護衛艦”を作っている。この船は最近、艦名が「いずも」になることが自衛隊のミスでばれてしまったことでも話題になったが、しかし、その姿や、大きさは、立派な航空母艦だ(この点については2年半ほど前のエントリ「軽空母22DDHはF-35B等の固定翼戦闘機を運用可?」もご参照を)。この船が固定翼の戦闘機を運用できるかどうかは、軍事マニアの間ではホットな話題だったが、最近、有名軍事ブログがその可能性に言及して話題になっている。そして、政府は、B型ではないが、F−35を自衛隊に導入することをすでに決めている。
 自衛隊は「専守防衛」を旨とする組織だったはずだが、いつのまにか、最新鋭の戦闘機を登載し、海外遠征もできる強力な空母を持つようになってしまったのだ。こういう兵器の導入で、中国等の他国が激しく刺激され、更なる軍拡競争に繋がることはいうまでもない。

水増し請求で入札指名停止になっても契約を取れる三菱電機
 今年になってから、しんぶん赤旗に気になる記事が掲載された。「水増し請求で処分の三菱電機 指名停止中、1340億円受注 防衛省は開き直り」という記事だ。詳しくはそちらを読んで貰いたいが、三菱電機が、自衛隊の装備品納入で水増し請求をしたことで、1年間の入札指名停止になったにも関わらず、防衛省が指名停止を無視して随意契約で三菱電機に1340億円もの業務を発注しており、会計検査院が、「ペナルティーが機能していない」と指摘する事態になっている。
 この記事は、共産党周辺でもほとんど注目されたかったと思うが、防衛省と軍需産業が癒着し、国民の税金を食い荒らしていることを象徴的に示している。不正の規模は違約金も含めて495億円と、生活保護の“不正受給”どころのものではないが、それでもマスコミが書かない、書けない状態がすでに出来上がっているのだ。

景気刺激のための防衛費増額
 さらに気になったのが、昨年末の自民党政権発足後の補正予算で、防衛省が「緊急経済対策」として、1805億円もの予算を獲得したことだ。詳しくは「経済対策でPAC3、戦闘機改修も 防衛省が補正に計上」(2013年1月9日朝日新聞)を読んで貰いたいが、「防衛省は今年度補正予算案の緊急経済対策として1805億円を要求し、地対空誘導弾PAC3ミサイルの購入やF15戦闘機の性能向上のための改修といった防衛装備品の整備を盛り込んだ。」とある。
 経済対策で軍需産業から武器を購入するというのは本当に驚きだ。日本の軍需産業が、いつか、トヨタをはじめとする自動車産業のように大きな顔をして「エコカー減税」だの「エコカー補助金」よろしく税金をむさぼる時代が、すぐそこまで来ているのではないだろうか?

武器輸出三原則の緩和
 上記のF−35戦闘機の開発に絡んで、今年の3月、政府が武器輸出三原則の緩和を発表した。日本の戦後の産業発展については、一定の時期までは大企業が戦前の軍需産業に関する技術者を保持し続けていたといわれる。しかし、日本自身が戦争を放棄し、海外への武器輸出も事実上禁止されてきたため、軍需産業が発展せず、大企業も軍需部門に傾斜する方針を捨てた。
 しかし、戦前の零戦や、戦後のトヨタの自動車に象徴されるように、日本の工業力を軍需部門に投入すれば、世界に冠たる優秀な兵器を製造できることは疑いないだろう。武器輸出三原則の緩和は、日本の軍需産業が“世界に羽ばたく”道を開くものであり、軍需産業が国内でもますます増長する伏線になるだろう。

防衛省内での背広組の駆逐
 そこへ飛び込んできたのが「自衛隊運用、制服組に移管 来年度にも、文官部局は廃止」(2013年7月18日朝日新聞)というニュースだ。防衛省には、長らく、自衛隊組織の幹部(制服組)とは別に、文官の背広組が勢力を持っており、背広組が制服組を牽制する役割を担ってきた。今般、自衛隊の運用に関して、この背広組の部局を廃止し、制服組の統合幕僚監部に一本化することになったのだ。これは省令で決めるのだろうから、大臣をはじめとする政治家のOKなしにはできない。
 そこで気になるのは、自衛隊員出身で、防衛政務官を務めている佐藤正久議員(ヒゲの佐藤)である。この人物は、イラク戦争時に派遣された自衛隊の幹部として名をはせたが、初当選の2007年の参院選前に、近隣で活動しているオランダ軍が紛争に巻き込まれたらわざと駆けつけて自衛隊員の「正当防衛」の状態を作り出し、戦闘に参加するつもりだった旨を述べている。
 イラクへの自衛隊派兵は、そういう危険がない建前で行われていたのに、ヒゲの佐藤氏はわざと法律を破るような事態を作り出し、憲法9条以下の規制をぶち壊そうとしていたのである。
 今、こういう政治家の存在を背景に、防衛省自体が変質し始めているのだ。

情報保全隊による市民運動の監視
 このように、自衛隊が軍事的にも、権力的にも膨張していく一方、それに反対する勢力に対しては「情報保全隊」なる部隊を組織し、違法な情報収集をしている。これも以外と知られていないが、2012年3月26日、仙台地裁は、共産党議員の活動や街宣、市民の反戦ライブやビラ撒きまで、記録していたことについて、違法とし、国に対して慰謝料の支払いを命じた。詳しく知りたい方は裁判所のホームページで判決の原文をどうぞ→こちら
 (例え自衛隊に反対していたとしても)国民を守る使命を持っているはずの自衛隊が、事もあろうに、違法に国民を監視していたのだ。そして、裁判所に違法と言われたも、国民の監視活動を止めてはいないだろう。これなど、戦前の憲兵隊復活まであと一歩のところまで来ているのではないか?

集団的自衛権の緩和、恒久派兵法制定の動き
 その他にも、政府・自民党周辺では、憲法9条が集団的自衛権の行使を禁じていることから、それを緩和しようとする動きや、自衛隊を「〜特措法」がなくてもいつでも海外派兵できる法律を作ろうとする動きもある。

背後にある自民党の政治家の発言
 以上、米軍との関係や、体系的な政策との関係などは深く考えず、現象として見える点で覚えていることを羅列してみた。そして、このような自衛隊の膨張を背後で支えているのが、憲法9条改憲を主張する安倍首相や、司法権が及びにくくして、自衛隊を司法権から解き放とうとする「軍法会議」の設立を訴える石破幹事長ら、自民党の幹部政治家なのである。彼らは単に過激な発言をしてアドバルーンを上げるだけではなく、憲法9条を変える前から、現実世界を改憲後の世界に近づけるための“たゆまぬ努力”を、日々しているのだ。

はて、日本国民は軍隊の暴走を止める力を持ってたっけ?
 今や誰も見向きもしないが、民主党政権だった頃の政治スローガンは、「政治主導」「脱官僚政治」だった。しかし、この主張は結局上手く行かなかった。つまり、日本国民も、政治家も、憲法に「行政権は内閣に属する」と明記されているのに、文民の官僚組織ですらコントロールできなかったのだ。だから、憲法で「国務大臣は文民でなければならない」、と言ったところで、憲法に軍隊の存在を明記し、ヒゲの佐藤氏みたいに確信的に法律をやぶろうとする人が自衛隊や「国防軍」を除隊した後に大臣になれるのであれば、単体でどこまで抑止力になるかは心許ない。
 かつて日本国民は、一度、軍隊のコントロールに失敗して自滅した。陸軍の暴走により満州事変が起こり、盧溝橋事件後に日中戦争に突入していき、日米開戦も止めることができなかった。忘れてはならないのは、その暴走により、日本国民は多数の他国民を殺戮するとともに、自国内でも、苛烈な弾圧が行われ、表現の自由が奪われ、沢山の人々が亡くなったという事実である。極めつけは、すでに敗戦が決しているのに、軍人の政治家が国民を犠牲にする徹底抗戦を主張し、原爆を二発も投下されて、自国民が地獄の業火に焼かれるまで、戦争を終結することすらできなかった。国民生活は圧迫され、食べるものすら食べられないのに、鍋釜まで差し出さなければならなかった。諸外国を見ても、民主主義のお手本となるような幾分かの国を除けば、軍の膨張が国民の生活や命を圧迫する危険がどこにでもある。
 日本国憲法は、そのような反省に立って、戦争を放棄し、戦力を持たず、自立した軍隊の存在を認めず(従って司法権から自立した軍法会議の存在も認めず)、国務大臣に関する文民条項を置くなど、幾重にも軍隊を縛る規定を置いたのである。そして、それを実施する下位規範として、防衛庁を独立した「省」にさせず、武器輸出を禁止し、非核三原則を作り、防衛費GNP1%枠を設け、自衛隊を海外に出さないなどの厳しい規制を置いてきたのだ。
 いま、これら、軍隊を拘束する規制が抜け道だらけになってガタガタになっている。そういうなかで、日本国憲法は、軍隊の暴走を止めるための最後の砦になっている。最後の拘束具が外されたとき、官僚政治すら止められない日本国民は、軍隊の暴走を止められるのだろうか?大正デモクラシーを経た政治の強者たちが止められなかった軍隊を。私たちは北朝鮮の“裸の王様”をせせら笑うが、軍が暴走し、国民が餓死寸前で、不満分子は粛正される彼の国は、たかだか70年前の、自分たち自身の姿だったのではないのか?
 現に自衛隊が暴走しはじめていること、憲法9条がなくなれば軍隊を止める最後の拘束具がなくなり、止める根拠すらなくなることは、日曜日の選挙でも、その後の政治でも、今後、ずっと考えていくべきテーマだと思う。ていうか、自民党に入れるその一票に、軍靴の音、聞こえません?
posted by ナベテル at 13:09| Comment(25) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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