2013年11月27日

親愛なる川田龍平さんへ

 特定秘密保護法案が衆議院で強行採決された。この法案の危険性については「何が秘密?それは秘密」というひと言に集約されている。

すでに政府の秘密による被害は出ている
 日本では、本来、国民の共有財産であるはずの政府が保有する情報について、私物化する傾向が非常に強い。今回の法案でも、その当たり前の事実すら前提とされていない。そういう行政実態が端的に表れているのが刑事事件の際の検察、警察の証拠隠しであり、それによって被害を受けた国民は数知れない。再審無罪となった布川事件の櫻井さんらは厚い秘密の壁を破って真実に到達した希少な例なのである。
 これも刑事事件絡みの話題だが、現在、刑事訴訟法で、証拠の「目的外使用」が禁止されており、法の専門家である弁護士ですら、捜査機関の不法な捜査実態を世間に知らしめることに躊躇せざるをえない現状がある。このことが端的に表れたのが、法廷で再生されたDVD影像(被告人の取り調べ影像で、取り調べ後に完成した供述調書と内容が食い違っていた。)をNHKに提供した弁護士について、検察が懲戒請求した事件だ。詳細は下記産経新聞の記事「「真実発見」に支障? 「公益性あれば証拠の裁判外使用を」刑訴法改正求める声…NHKへの取り調べ映像提供問題」に譲るが、明らかな捜査機関の違法な取り調べ実態の証拠すら、それを公表することでプライバシー侵害を受ける元被告人本人がOKしているにも関わらず、検察が弁護士を懲戒請求をしたのである。自分に都合の悪い情報を隠すためなら、憲法が保障する国民の知る権利など無視して(無視するのが司法試験を通った検察官の集団であるところの検察庁であるのがまたイタイ)、自分が持っているあらゆる手段を行使して、突き進むのが行政であり、弁護士ですら公表を躊躇せざるを得ない。これは特定秘密保護法ができた後の社会のあり方を明確に示す。

防衛産業と自衛隊幹部の癒着すら秘密になる可能性がある
 「特定秘密保護法に反対している連中は、何かやましいことでもあるのか?スパイか?」という頓珍漢な意見も目にする。しかし、特定秘密保護法が成立すると、安全保障の分野についての秘密が一番多くなりそうだ。そして現在、防衛産業と防衛省の癒着は激しく、ぐるみで国民の税金を浪費している疑いすらある。その一端が現れたのがしんぶん赤旗の下記記事。リード部分だけ紹介する。
水増し請求で処分の三菱電機 指名停止中、1340億円受注 防衛省は開き直り
中距離地対空誘導ミサイルなど防衛装備品の水増し請求(過大請求)で、指名停止処分を受けた三菱電機が、指名停止中にもかかわらず、防衛省から昨年末までの11カ月間に、241件、1340億円もの受注をしていたことが19日までに分かりました。日本共産党の井上哲士参院議員への防衛省提出資料で判明したもの。同省は13日、同社から水増し請求額に違約金などを加えた約495億円が返納されたとして、同日、指名停止を終了しましたが、指名停止が骨抜きになっていたことを浮き彫りにしました。

 指名停止措置すら無視して発注をするのを癒着と言わずして何と言うのだろう。また、防衛省は、手前で設定した秘密書類の大半を勝手に破棄していたことでも名を馳せた官庁だ。
防衛秘密、6年間で4万件を破棄 半数超に相当 政府答弁書で判明 日経新聞2013/11/26 12:51
 防衛省が自衛隊法で規定している「防衛秘密」の管理に関して、2007〜12年の6年間で約4万2100件の秘密を破棄していたことが、政府が26日決定した答弁書で明らかになった。同省は06年から12年までに約7万4300件を指定している。民主党の長妻昭氏の質問主意書に答えた。
 防衛秘密は防衛上特に秘匿することが必要な情報を防衛相が指定する。漏洩した場合は最高5年の懲役を科される。特定秘密保護法案が成立すれば特定秘密に移行する。防衛秘密は歴史的文書を国立公文書館などで保存することを定めた公文書管理法の対象外。保存期限が過ぎた場合は同省幹部の判断で破棄が可能だ。
 防衛省はこのほか「省秘」約30万件中27万件、日米相互防衛援助協定(MDA)秘密保護法で米国から提供を受けた「特別防衛秘密」約2500件中700件も廃棄していたことも明らかになった。

 今後は、防衛産業と自衛隊幹部、官僚の癒着が起こったときに、癒着をした当人たちの手によって秘密と指定され、アクセスしようとすれば犯罪となり、癒着の証拠は闇から闇に葬られる可能性すらあるのだ。これが特定秘密保護法ができた後の世界であり、「公務員の守秘義務」どころの話ではないのだ。

親愛なる川田龍平さんへ

 薬害エイズ問題も、厚生労働省が血液製剤の危険性について検討した結果を記録した「郡司ファイル」を隠していたのが、公開されたことで、解決に弾みがついた。あの頃、病身を押して杖をつき(まだ薬の精度も今ほど高くなかったはず)、差別に立ち向かい、名前を公表して闘い、秘密を暴いて、自ら道を切り開いた川田龍平さんは、輝いていた。
 ときは変わって、川田さんは、なぜか、特定秘密保護法案を推進しようとする愚かな“野党”党首が主催する「オレの党」に所属している。正直、その事実に失望していた。
 しかし、すべては巡り合わせなのだろう。今、あなたは渦の中心にいるし、かつての輝きを放つことができる位置にいる。今のあなたに、この悪法を止める役割を期待する国民が浜の真砂の数ほどいることを、胸に刻んでいただきたい。
 そして、薬害エイズ問題に命をかけたように、参議院で必ず、この悪法を止めていただきたい。
posted by ナベテル at 10:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月01日

山本太郎はおかしいが与党や自民党が騒ぐのはもっとおかしい件

 山本太郎議員の身辺が騒がしい。言うまでもなく、園遊会で天皇に手紙を渡したことが物議を醸しているのだ。

1 山本太郎の言動はおかしい
 言うまでもないことだが、日本国憲法の下では、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」(憲法第1条)。原発問題の処理という政治課題について、天皇に助力を求めることには何の意味もないし、中学レベルの社会科の授業を受けていれば、一応、そのことは分かるはず。福島第一原発事故の被害者救済は、山本太郎もその一員である国会の仕事であり、安倍晋三がそのトップを務める行政権の仕事である。安倍が被害者救済や福一で働く労働者の救済を「完全にブロック」しているためにことが進んでいないことはその通りだが、山本太郎がすべきなのは政府の追及であり、より大きな政治勢力の結集だろう。天皇にお願いすることではない。被害救済の先頭に立つべき国会議員がこの程度の認識なのは、正直、情けない。また、天皇の政治利用は右からでも左からでも極めて危険なのであって、絶対にやってはならないことだ。山本太郎には期待している面もあるので、猛省して頂きたい。
 田中正造と山本太郎を重ね合わせる意見もあるようだが、この点に関しては、何年か前に話題になった『敗北を抱きしめて』という本を書いて戦後の混乱期を描いたアメリカ人学者(ジョン・ダワー)が同書でした指摘を思い出す。この本では、終戦直後の混乱期(日本国憲法が出来る前の時期)に、共産党の指導者だった徳田球一が地元の住民と計って天皇に請願をしようとした話が紹介されており、読み返していないので正確な表現を忘れたが、ダワーは徳田の行動を錯綜したものとして評していた。この話を読んだときは正直びっくりしたが、筆者もそう感じた。まして、日本国憲法が完全に定着した現代において、住民(または選挙民)と相談したわけでもなく、スタンドプレーでやることは、ますます錯綜していると言わねばならないだろう。なお、筆者の以下のツイートのリツイートが100超したことだけご報告する。


2 じゃあクビにする必要があるのか?
 一部では、山本太郎の行動が不敬とかなんとか言いつのる人々もいるようだ。しかし、今の天皇は昭和天皇とは違って、発想自体がリベラルな人なので、本人は気にしていないだろう。また、封建制度の時代でもあるまいに、天皇に手紙を渡す行為が客観的に失礼なわけでもないだろう。
 山本太郎の行為を「請願法違反だ」と騒ぎ立てている人もいるが、請願法違反に罰則があるわけでもなく、提出先を間違ったときは、しかるべき窓口(本件の場合は内閣)に送付されるだけ。それ自体は、市役所で窓口を間違えたときに「5番の窓口に行ってください〜」と言われるレベルのことだ。
請願法
第三条  請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならない。天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない。
○2 請願の事項を所管する官公署が明らかでないときは、請願書は、これを内閣に提出することができる。

第四条  請願書が誤つて前条に規定する官公署以外の官公署に提出されたときは、その官公署は、請願者に正当な官公署を指示し、又は正当な官公署にその請願書を送付しなければならない。
 国会議員が法律知らないのはどうなんだ、という意見もあるだろうが、憲法を知らない人が現に総理大臣をやっているのだから、その点で山本太郎だけ責めるのは片手落ちだろう。
 懲罰は参議院が決めることだが、せいぜい、口頭注意か、戒告止まりの案件ではないかという感覚がする。それ以上をやる気なら、逆方向での天皇の政治利用と見るべきだろう。

3 天皇を政治利用したことがない者だけが石を投げよ
 大体、天皇や皇族の政治利用は、もともと自民党政権の十八番だ。今年も、我々戦後日本がアメリカに完全に屈服した旧安保条約の締結日に「主権回復式典」をやった恥知らずな総理大臣は、こともあろうか、その場に天皇を引っぱり出して恥知らずな式典を権威付けした上、退席する天皇に向かって「天皇陛下万歳」をやった。これほど露骨な政治利用はないだろう。また、(あるべき)右翼の立場からみれば、自分の祖父がやった国辱行為に天皇を巻き込む穢れた策謀と言ってもいいだろう。
 また、東京オリンピックの招致にも皇族が利用された。オリンピック招致は、その後の一部世論が経済効果云々で盛り上がっている一事を見ても、立派な政治問題だ。そういう問題に皇族を引っぱり出し、東京オリンピックのプロモーションをやったわけだ。これも皇族の露骨な政治利用だろう。
 現在進んでいる議論の構図は、
イエスは言った。「あなたたちの中で天皇を政治利用したことがない者だけが、山本太郎に石を投げなさい。」。しかし、自民党は、石を投げた。

という何の有り難みもなさそうな聖書のパロディーであり、漫画的ですらある。

まとめ
 与党は、山本太郎が逆ギレして、自民党による天皇の政治利用の数々を曝露しはじめる前に、適当なところで手を引くべきだろう。また、山本太郎が批判されるべきは、国会議員でありながら日本国憲法が定める国民主権をないがしろにし、戒められるべき天皇の政治利用に(故意か過失かはさておき)手を出したことなのであり、不敬とかそういう類の問題は存在していないということであろう。
posted by ナベテル at 15:15| Comment(45) | TrackBack(2) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする