NHK理事10人全員「辞表出した」 国会で次々答弁 朝日新聞 2014年2月25日11時16分
NHKの籾井勝人会長が就任後、10人の理事全員に日付欄を空白にした辞表を提出させていたことが25日、わかった。この日午前の衆院総務委員会に参考人として招かれた理事10人が提出を認めた。理事の任期満了前も罷免(ひめん)できるようにし、会長の人事権を強める狙いがあるとみられる。
衆院総務委で福田昭夫氏(民主)の質問に理事10人が辞表提出を認めた。籾井氏は当初、人事案件を理由に答えなかったが、理事の答弁後は「各理事は事実をそのまま述べた。それはそれでけっこう。私がどう思うかは別問題」と述べた。
NHKの役員の役割
上記の記事だけでは分かりにくいので、NHKの会長と理事の関係を調べた。NHKの業務執行体制は端からは非常に分かりにくいのだが、経営委員会が
放送法
(役員)
第四十九条 協会に、役員として、経営委員会の委員のほか、会長一人、副会長一人及び理事七人以上十人以内を置く。
(理事会)
第五十条 会長、副会長及び理事をもつて理事会を構成する。
2 理事会は、定款の定めるところにより、協会の重要業務の執行について審議する。
(会長等)
第五十一条 会長は、協会を代表し、経営委員会の定めるところに従い、その業務を総理する。
2 副会長は、会長の定めるところにより、協会を代表し、会長を補佐して協会の業務を掌理し、会長に事故があるときはその職務を代行し、会長が欠員のときはその職務を行う。
3 理事は、会長の定めるところにより、協会を代表し、会長及び副会長を補佐して協会の業務を掌理し、会長及び副会長に事故があるときはその職務を代行し、会長及び副会長が欠員のときはその職務を行う。
4 会長、副会長及び理事は、協会に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに、当該事実を監査委員に報告しなければならない。
日本放送協会定款(リンク先はPDFなので注意)ホームページで経営委員の顔ぶれを見ると(こちらを参照)、ほとんどがいわゆる「有識者」であるのに対し、より業務に近い理事の顔ぶれを見ると(こちらを参照)、生え抜きばかりであることが分かる。
(理事会)
第43条
会長、副会長及び理事をもって理事会を構成する。
2 理事会は、次の事項を審議する。ただし、定例に属する事項及び会長が軽微と認めた事項については、この限りでない。
(1) 第13条第1項第1号に掲げる経営委員会が議決する事項
(2) 第66条第2項の規定により経営委員会の同意を得る事項(第67条第2項において準用する場合を含む。)
(3) 理事会の運営に関する規程
(4) その他会長が特に必要と認めた事項
会長は理事を罷免できるのか
まず、理事の任命に関しては放送法52条3項で「副会長及び理事は、経営委員会の同意を得て、会長が任命する。」とされており、そもそも、会長の一存で任命できるものではない。そして、理事の罷免については放送法で以下のようになっている。
第五十四条 経営委員会又は会長は、それぞれ第五十二条第一項から第三項までの規定により任命した役員が同条第四項において準用する第三十一条第三項各号のいずれかに該当するに至つたときは、当該役員が同項第六号の事業者又はその団体のうち協会がその構成員であるものの役員となつたことにより同項第六号又は第七号に該当するに至つた場合を除くほか、これを罷免しなければならない。要するに、会長が理事を罷免できるのは、(1)理事が下記の放送法第31条3項各号(一部読み替え規定あり)に該当する場合、(2)理事が職務執行の任にたえないと認めるときもしくは理事たるに適しない非行があるときに経営委員会の同意を得て罷免する場合だけであり、逆に言えば、それ以外の場合に、会長が理事を勝手に罷免できないのである。これを裏返せば(追記:理事の側から見れば)、会長との関係で、理事はそれだけ身分を保障されている、ということになる。
第五十五条 1項略
2 会長は、副会長若しくは理事が職務執行の任にたえないと認めるとき、又は副会長若しくは理事に職務上の義務違反その他副会長若しくは理事たるに適しない非行があると認めるときは、経営委員会の同意を得て、これを罷免することができる。
放送法31条
(中略)
3 次の各号のいずれかに該当する者は、委員となることができない。
一 禁錮以上の刑に処せられた者
二 国家公務員として懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三 国家公務員(審議会、協議会等の委員その他これに準ずる地位にある者であつて非常勤のものを除く。)
四 政党の役員(任命の日以前一年間においてこれに該当した者を含む。)
五 放送用の送信機若しくは放送受信用の受信機の製造業者若しくは販売業者又はこれらの者が法人であるときはその役員(いかなる名称によるかを問わずこれと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。以下この条において同じ。)若しくはその法人の議決権の十分の一以上を有する者(任命の日以前一年間においてこれらに該当した者を含む。)
六 放送事業者、第百五十二条第二項に規定する有料放送管理事業者、第百六十条に規定する認定放送持株会社若しくは新聞社、通信社その他ニュース若しくは情報の頒布を業とする事業者又はこれらの事業者が法人であるときはその役員若しくは職員若しくはその法人の議決権の十分の一以上を有する者
七 前二号に掲げる事業者の団体の役員
脱法行為許すまじ
そうであるにも関わらず、会長が理事に対して日付空欄の辞表を書かせることには、どういう意味があるのか。
これは、会長からは罷免できないものを「理事が勝手に辞めた」という体裁をとることで、脱法的に離職に追い込むことにある。もちろん、実際にそのようなことが実際に可能かは疑問がなくはないし、勝手に辞めさせられたことになった理事が裁判でも起こせば、大いに論点になるだろう。しかし、理事たちは、自分で辞表を書いてしまった負い目があるのに、訴訟までやって理事の座を守ろうとするだろうか?それは、まず、ないことだろう。日付白紙の辞表を預かるということは、そのように、法的に争われたら効果に疑問があるが実際には法的に争うことなんか(ほぼ)できない実態を前提に、「オレが辞表を預かっていて、いつでも「〜〜理事は自らの意思で辞任しました」と発表できるんだから、オレの言うこと聞けよ」という露骨な恫喝なのであり、放送法の仕組みを脱法する悪質な行為だ。朝日新聞がいうような「会長の人事権を強める狙い」などという生やさしい話ではないのである。
そして、籾井勝人が就任時に「「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない。国際放送にはそういうニュアンスがある」と言ったことは公知の事実であり、実際の現場の職務により近い理事の独立性を脱法的に奪うことで、放送現場に介入していくことは想像に難くないのである。
こんな暴挙は、絶対に、許してはならない。
2014.2.25追記
毎日新聞で下記のような記事を見つけた。筆者は、個人的には抗議しようと思う。
NHK:半沢直樹より面白い!? 籾井会長の“剛腕”ぶり 毎日新聞2014年02月25日15時17分(最終更新 02月25日 15時33分)
「今直ちに電話とファクスで籾井会長解任を求める声をNHKに集中しよう。これから1〜2週間で何万人もにやってもらいたい。声が力になる。声の民主主義だ」。東京都内で22日に開かれた、市民の立場からNHK問題を考える緊急集会で醍醐聡東大名誉教授が訴えた。集会には全国から市民団体や放送関係者ら約200人が参加。醍醐氏がNHK窓口電話(0570・066・066)を紹介すると、拍手がわき起こった。
2014.2.26追記
今日は下記のごとき発言をしたらしい。ソレナンテブラック企業?しかも、民間で勝手にやってるのと、それが放送法で縛られたNHKでもやっていいかどうかは全く別次元の話であるはずだが・・・・。
辞表提出の要求「一般社会ではよくある」 NHK会長 2014/2/26 11:21 日経新聞(共同通信配信)
籾井勝人NHK会長は26日の衆院予算委員会の分科会で、理事に辞職届を書くよう求めたことについて「辞表を預かったことで萎縮するとは思わない。一般社会ではよくある」と述べ、問題はないとの認識を示した。