専門業務型裁量労働制導入の要件
今回はネット上で脱法的な導入がよく言われる専門業務型裁量労働制を取り上げます。
裁量労働制導入の要件は厳格です。まず、対象となる業務について
(1)労基法施行規則およびその委任を受けた大臣指定による「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な業務」に限定されています。対象となる業務は厚生労働省のホームページで確認できます。よく聞くのはシステムエンジニアと偽って、実際はプログラマー業務をやっている人に裁量労働制を導入する例ですが、もちろん違法です。
これに加えて(2)対象業務に従事する労働者のみなし労働時間の決定、(3)対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこと、(4)労働者の労働時間状況に応じた健康および福祉を確保するための措置、(5)苦情処理手続の明示、の以上5点に関して事業場の過半数組合ないし過半数代表との間で、労使協定を締結し、労働基準監督署に提出しなければなりません。手続を違えた場合は、裁量労働制は違法となります。
現行の裁量労働制は、労働の量、期限は使用者が決めることになるため、労働者が長時間労働を押しつけられ、かつ、労働に見合った正当な対価を請求することができないという根本的な問題点があります。
裁量労働制が無効にされた例は実際にある
また、対象業務ではない業務を行っている場合や、労働者に業務遂行に関する高い裁量がないなど、実際には適用不可能な労働者に脱法して導入して、裁判所で違法とされた事件もあります(エーディーディー事件。地裁判決全文を裁判所ホームページで読めます。筆者個人的には友人の塩見卓也弁護士が奮戦した事件で、会社の労働者に対する不当請求を厳しく退けた事件でもあります。ただで読めるし、面白いのでぜひ読んでみてください。)。
この事件では、裁判所は下記のように述べ、プログラマーについて違法に専門業務型裁量労働制を違法に導入していた使用者に対して、残業代を一から払いなすように命じました。
確かに,前記事実関係からすると,労働者Aにおいては,発注者C社からの発注を受けて,カスタマイズ業務を中心に職務をしていたということはできる。
しかしながら,本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは,システム設計というものが,システム全体を設計する技術者にとって,どこから手をつけ,どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに,発注者C社は,下請である使用者Bに対しシステム設計の一部しか発注していないのであり,しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると,下請にて業務に従事する者にとっては,裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。また,使用者Bにおいて,労働者Aに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは,使用者Bがそれを損害として請求していることからも明らかである。さらに,使用者Bは,前記認定のとおり,F部長から発注者C社の業務の掘り起こしをするように指示を受けて,発注者C社を訪問し,もっと発注してほしいという依頼をしており,営業活動にも従事していたということができる。
残業代請求できる
裁判所のホームページでは認容金額が消されていますが、刊行されている判例集に掲載された高裁判決によると、未払残業代、付加金(制裁金)、安全配慮義務違反の損害賠償で計900万円以上の大金の支払いが命じられています。このように手続、実態の両面から、裁量労働制が違法となる事例では、すでに述べたように一から残業代を払い直させることができます。IT業界はもともと転職も多い業界なので、「貰えない」と諦めないで請求することが重要ですね。
そして、裁量労働制がおかしいと思ったら、残業代請求の始まりです。一度、『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?−ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ』に目を通してみてください。損はしないはずです。本日、いよいよ発売です。