2014年12月22日

最近はやりの残業代不払い手段−裁量労働制

 裁量労働制とは、実際の労働時間数に関わりなく、労使協定または労使委員会の決議で定められた時間数労働したものと「みなす」制度です。「専門業務型裁量労働制」と、「企画業務型裁量労働制」があります。あくまで「みなす」制度なので、みなされる労働時間について、労基法が定める休憩、休日、時間外・休日労働、深夜早朝労働についての規制が適用されます。

専門業務型裁量労働制導入の要件
 今回はネット上で脱法的な導入がよく言われる専門業務型裁量労働制を取り上げます。
裁量労働制導入の要件は厳格です。まず、対象となる業務について
(1)労基法施行規則およびその委任を受けた大臣指定による「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な業務」に限定されています。対象となる業務は厚生労働省のホームページで確認できます。よく聞くのはシステムエンジニアと偽って、実際はプログラマー業務をやっている人に裁量労働制を導入する例ですが、もちろん違法です。
 これに加えて(2)対象業務に従事する労働者のみなし労働時間の決定、(3)対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこと、(4)労働者の労働時間状況に応じた健康および福祉を確保するための措置、(5)苦情処理手続の明示、の以上5点に関して事業場の過半数組合ないし過半数代表との間で、労使協定を締結し、労働基準監督署に提出しなければなりません。手続を違えた場合は、裁量労働制は違法となります。
 現行の裁量労働制は、労働の量、期限は使用者が決めることになるため、労働者が長時間労働を押しつけられ、かつ、労働に見合った正当な対価を請求することができないという根本的な問題点があります。

裁量労働制が無効にされた例は実際にある
 また、対象業務ではない業務を行っている場合や、労働者に業務遂行に関する高い裁量がないなど、実際には適用不可能な労働者に脱法して導入して、裁判所で違法とされた事件もあります(エーディーディー事件。地裁判決全文を裁判所ホームページで読めます。筆者個人的には友人の塩見卓也弁護士が奮戦した事件で、会社の労働者に対する不当請求を厳しく退けた事件でもあります。ただで読めるし、面白いのでぜひ読んでみてください。)。
 この事件では、裁判所は下記のように述べ、プログラマーについて違法に専門業務型裁量労働制を違法に導入していた使用者に対して、残業代を一から払いなすように命じました。
確かに,前記事実関係からすると,労働者Aにおいては,発注者C社からの発注を受けて,カスタマイズ業務を中心に職務をしていたということはできる。
しかしながら,本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは,システム設計というものが,システム全体を設計する技術者にとって,どこから手をつけ,どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに,発注者C社は,下請である使用者Bに対しシステム設計の一部しか発注していないのであり,しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると,下請にて業務に従事する者にとっては,裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。また,使用者Bにおいて,労働者Aに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは,使用者Bがそれを損害として請求していることからも明らかである。さらに,使用者Bは,前記認定のとおり,F部長から発注者C社の業務の掘り起こしをするように指示を受けて,発注者C社を訪問し,もっと発注してほしいという依頼をしており,営業活動にも従事していたということができる。

残業代請求できる
 裁判所のホームページでは認容金額が消されていますが、刊行されている判例集に掲載された高裁判決によると、未払残業代、付加金(制裁金)、安全配慮義務違反の損害賠償で計900万円以上の大金の支払いが命じられています。このように手続、実態の両面から、裁量労働制が違法となる事例では、すでに述べたように一から残業代を払い直させることができます。IT業界はもともと転職も多い業界なので、「貰えない」と諦めないで請求することが重要ですね。
 そして、裁量労働制がおかしいと思ったら、残業代請求の始まりです。一度、『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?−ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ』に目を通してみてください。損はしないはずです。本日、いよいよ発売です。

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2014年12月19日

固定残業代の見破り方・請求法

 固定残業代とは、労基法で定められた時間外勤務割増賃金、法定休日勤務割増賃金、深夜早朝勤務割増賃金(以下まとめて「残業代」)をあらかじめ決められた固定額の賃金で支払うものです。基本給に残業代相当額が組み込まれるタイプ(組み込み型)と独立した手当として一定額支給される場合(手当型)があります。
 固定残業代が支給されていても、それで引き当てられる時間を超える労働がある場合、使用者は残業代の計算をして支給しなければなりません。固定残業代が支払われているからといって使用者の給与計算の手間が省けるわけではないです。
 しかし、実際には、固定残業代が横行しています。これらの固定残業代には上記とは別の意味があります。すなわち、@見かけの賃金を高くすることで労働者を誘引する、A残業代の時給単価である「基礎時給」に算入される賃金(「基礎賃金」)を少なくすることで残業代単価を切り下げる、B一方で固定残業代の額を多くすることでいわゆる過労死ライン近くやそれ以上の残業をしても別途の残業代が発生しない仕組みにするのです。そして固定残業代を導入する事業所はそもそも労働時間の計算をしていない場所も多いですね。そして、労働者側が追及するとC固定残業代で残業代は支払済み、と言い訳をして労基署の介入を抑制し、支払いを拒絶し解決を先延ばしにすることで労働者の請求を諦めさせようとすします。ここに固定残業代制度運用の現代的な意味があり、病理があります。

固定残業代の特徴と見破り方
 以下、筆者が担当した外国人向け高級ホテルのフロントスタッフに関するトレーダー愛事件(京都地判平成24年10月16日)を元に一般化した事例を検討します。なお、この事件では固定残業代は違法とされ、固定残業代とされた手当を基礎賃金に算入して残業代を一から計算し直し、約300万円の残業代を払いなおさせました。
 固定残業代を導入しているケースでは、例えば「月給28万円保証」と募集広告を打ち、応募をすると入職の段階で労働契約書や覚書などに署名押印させられたり、あるいはそれすらなく給与明細で事後的に、「基本給14万6000円、業務手当13万4000円(時間外手当見合い)」などと書かれていたりします。この14万6000円という数字は地域の最低賃金(大阪府では2014年10月5日以降は838円)に週40時間制を前提とした「月平均所定労働時間数」(労基法施行規則19条1項4号)の上限値である173.8時間をかけた金額の近似値であったりします(この上限値先にありきで計算しており事業場の年間所定休日が書いてなかったりする)。
この事業場における時間外割増賃金の基礎時給は840円、2割5分増しの時間単価は1050円となり、業務手当13万4000円はなんと127.6時間分もの固定残業代となってしまいます。月平均の所定労働時間173.8時間と合わせると、300時間超の労働時間に対する賃金がたった28万円で支払済みになってしまうのです。
 この説例が典型的ですが、基本給を173.8で割ると地域(近くに大都市がある場合はそちらの場合も)の最低賃金になっていたり、趣旨不明な手当が支給されることになっていたり、賃金が1円単位や10円単位で定められている場合などは固定残業代と疑った方が良いでしょう。

判例状況と闘い方
 しかし、裁判所は会社側が主張する固定残業代には総じて冷ややかです。様々な裁判例が公表されていますが、否定された例の方がずっと多いです。固定残業代が否定される理由には以下のようなものが見られます。
  • 固定残業代とされる賃金の額、引き当てられる残業時間が明確ではない(時間外割増賃金と法定休日割増賃金を混ぜて計算ができない場合も)
  • 固定残業代とされる賃金で引き当てられる残業時間を超過しているのに超過分の残業代を清算していない(払いきりの賃金になっていて残業代の実態がない)
  • 残業代なのに手当の額が成果に連動して決定されたりするなどして残業代の実態がない
  • 後付けで口で言ったり給料明細に書いているだけで労働契約の内容になっていない、あるいは今までは普通の手当だったものがいつの間にか固定残業代にされており説明がほとんどない
  • 固定残業代をあとから導入していて労働条件が勝手に不利益変更されている

 固定残業代が無効とされた場合、その賃金は残業代の単価を計算するための基礎賃金に算入され、一から残業代を払いなおすことになるので、実は使用者側のリスクもとても大きいです。労働者から見た場合「固定残業代は訴訟をやれば案外勝てる」ということです。

対策の検討
 このように訴訟になると使用者が負けることも多い固定残業代ですが、やはり社会全体で規制する必要があります。まずは、労働者募集時に所定労働時間外の賃金を固定残業代で表示するような方法を止めさせることが重要です。これは、公共職業安定所にしろ、民間の就職サイトにしろ、厚生労働省の監督が及んでおり、現行法下でも政治がやるきになれば改善が可能です。職安についてはすでに固定残業代を規制する内部通達を出していますが、政治にやる気がないので十分に機能していません。さらに、リクナビやマイナビなどの民間の就職サイトの表記を是正するよう要求していくことが必要でしょう。
 また、より根本的には、他の詐欺的な労働者募集方法とあわせ、労働者募集時の表記の仕方を規制する法律が必要なのではないかと思われます。

自分で請求しよう
 また、それぞれの労働現場では、使用者に抗議して固定残業代を止めさせることも(できるなら)重要でしょう。訴訟をやれば勝てる場合も多く、その場合、獲得できる残業代は高額です。同僚と一緒に、または職場を去るときに残業代請求するのも手です。
 今回発売する拙著『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?−ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ』は、その辺の残業代請求の実践について詳細に書いてあります。残業代を請求したいのなら、これを読んで勉強してみてください。

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2014年12月17日

ワタミの大卒初任給はなぜ日本銀行より高いのか

 近年、“ブラック企業”と批判され、社会情勢のなかで売上が減少して、2014年3月期の連結決算ではついに赤字に転落してしまったワタミ(ワタミ株式会社)ですが、この企業は新卒の労働者募集においても大きな特徴を持っています。同社の100%出資子会社で居酒屋などを経営するワタミフードサービス株式会社(以下「ワタミ」)の大卒求人の募集要項をホームページで見ると、「店長候補」の初任給は
【月収】24万2326円
http://wfs.hr-watami.net/recruit/index.html 2014.12.5現在)
と書いてあります。この金額を単純に比較すれば、他の日本を代表する企業の大卒初任給と比べてもなかなか高額です。
 一方、日本銀行の初任給はどうでしょうか。これもホームページで求人の募集要項を公表しており、
大卒 総合職 20万5410円
特定職 20万0400円
一般職 19万5390円
短卒  17万5350円(※コースによる違いはありません)
http://www.boj.or.jp/about/recruit/fresh/information/requirement.htm 2014.12.15現在)
と書いてあります。もちろん、職業に貴賎なしと言われます。しかし、社会一般の感覚として、ワタミの大卒初任給が日本銀行の大卒初任給より高くなる、ということはないでしょう。
 なぜこのようなことが起こるのか。概略を記すと、日本銀行の大卒初任給は「月平均所定労働時間数」(労働基準法施行規則19条1項4号)に対応するものです。いわゆる所定労働時間に対するものです。これに対して、ワタミの「月収」には、「月平均所定労働時間数」に対応する賃金に加えて、残業や深夜早朝の労働を前提にして、労働基準法で定められた時間外割増賃金、深夜早朝割増賃金があらかじめ織り込まれています。いわゆる「固定残業代」です。
 「月平均所定労働時間数」に対応するワタミの賃金は、同社のホームページの記載を前提にすれば、基本給のうち16万円のみです。結局、月平均所定労働時間数に対応するワタミの大卒初任給は、日本銀行の短大卒初任給17万5000円よりも低いことになります。
 そして、この「月平均所定労働時間数」自体、
ワタミ>日本銀行
なので、一時間当たりの賃金単価はさらに差がつき、日本銀行の労働条件のほうが労働者に有利になります。つまり、ワタミの賃金はいわば水増しされたものなのです。
 しかし、このような賃金水増しの求人広告は必ずしも禁止されていません。一方で、学校教育で労働基準法を教える機会がなく、それどころか大学の法律科目で労働法を選択しても一般的な大学教授はこんなことは教えてくれないので、日本の労働者は水増しを見破るための知識がありません。

必要なのは残業代を計算する知識
 この水増しを見破るのに必要な知識は要するに残業代を計算するための知識です。残業代については125%という割増率はよく知られていますが、何に対する125%なのか、という点は実はほとんど知られていません。残業代は時給制で計算するので、元の賃金体系が時給制の場合は直感的に分かりやすいですが(実は時給制でもプラスして月給の精勤手当などが出ている場合はその分を加算する必要があります)、日本で広く普及している月給制の場合、正確な計算方法を知っている人はほとんどいないのではないでしょうか。そして、自分の給料について、残業代の計算をすることで、労働時間や休日など、自分の労働条件全般を把握することにもなるのです。

そこで本を書きました
 そこで『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?−ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ』という本を書きました。12月22日発売です。もうAmazonでも買えます。下の写真をクリックしたらリンク貼ってます。タイトルはこんなんで、実際、ワタミの賃金のカラクリも詳しく述べていますが、本の内容はそれに止まりません。一冊の本で残業代をめぐる社会情勢、名ばかり管理職や固定残業代など残業代不払いの温床となる制度の打ち破り方、残業代の前提となる「労働時間」の考え方、証拠の集め方、残業代の計算方法、残業代の請求方法までを網羅した本です。一言でいえば「残業代を通じて社会と会社を分析する本」です。筆者も「何で?」と思うのですが、今まで一般向けのこういう本はなかったんですよね。自分のみを守るためにも、是非手に取っていただければと思います。
 あと、セルフ出版記念ということで、今週金曜日(12月19日)に固定残業代について、来週月曜日(12月22日)にニセ裁量労働制についてもエントリを書きます。労働現場でも役に立つお思いますので、あわせてそちらもお読み下さい。

posted by ナベテル at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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