2015年02月26日

安倍政権のメディア対策とそのほころび

 思えば、第二次安倍政権は、発足前から現在に至るまで、メディア対策の痕跡があちこちに見える政権だ。安倍晋三といえば、持病の過敏性大腸症候群が祟ったこともあり第一次の政権を放り出した経緯がある。当然、就任前から「おなかが痛くて政権を放り出したような人間を再登板させても良いのか」という批判があちこちから吹き上がった。これに対してはネットなどで「病気をあげつらうのは人格攻撃」などという強力な反撃が巻き起こり、いつの間にかその種の批判を聞かなくなった。しかし、内閣総理大臣は日本の政治の最高責任者であり、自衛隊の最高司令官でもある。原発事故が起きたときも全国民の命と諸外国に対する説明責任を背負って不休不眠の対応が求められる。ひと言で言えば、体力的にも精神的にも超人的な能力が求められるのである。そのような内閣総理大臣について、執務に影響する可能性がある病気(しかもそれも影響して一度は政権を放り出している)を問題にするのは至極真っ当な問題意識であるように思われる。「病気をあげつらうのは人格攻撃」が反論になっているようで実は全くなっていないことは自明だろう。しかし、一般人のレベルではこの「人格攻撃」という反論は極めて分かりやすいし、安倍晋三に対する同情を誘いやすい。あの上手い反論を考え、大量に流布させたのは一体誰なのだろうか、と今でも思う。それとも、自然発生的なものなのだろうか。

メディア首脳との会食
 安倍晋三は政権に就くと、マスコミ首脳との会食を繰り返し、今に至っている。これは政治的には一種の談合であるが、内閣総理大臣という我が国最大のニュースソースをマスコミ首脳に頻繁に接触させ懇親を深めることは、政権側から見ればこの上ないメディア対策になると思われる。そして、NHKの運営を「お友達人事」で政権側に引き寄せ、「政権が右と言えば右」の報道をさせているのは割と有名なことである。

政策の打ち出しに用いるキャッチフレーズ

 安倍政権の政策もキャッチフレーズで彩られている。アベノミクスと言われる経済政策の概要は「三本の矢」という至極簡潔な言葉にまとめられた。アベノミクス自体がアナウンスメント効果を狙ったものだという指摘があるが、実際、「やるぞ、やるぞ。景気浮揚するぞ。」という感じだけは沢山出ていた。閣議決定の名前は「日本再興戦略 Japan is back」であり、あまりに内外のメディア向けのタイトルで、筆者は「スターウオーズ帝国の逆襲 The Empire Strikes Back」からとったのか、とすら思った(今まで、閣議決定のタイトルに英語が使われたことはあったのだろうか)。
 一方、実際の日本経済は消費税増税による経済の落ち込みが酷い訳だが、新聞各紙の報道からは、景気が悪いという事実さえ、ストレートには伝わらない状態になっている気がしてならない。新聞各紙は軽減税率の恩恵に飛びつきたいのか、消費税増税強行に早々に賛成した。
 集団的自衛権容認の閣議決定に向けた地ならしとして開催した記者会見では子どもや女性の絵を描いたパネルを用い、情緒に訴える方法を取った。パネルの一番左側(安倍首相側)にそういう絵が描いてあるのは実に上手くできている(首相官邸のホームページで閲覧可能)。
 その他も、例えば第一次安倍政権で国民の総スカンを食らって敗れ去った残業代ゼロ法案は「高度プロフェッショナル制度」などという装いで登場した(これは完全にスベっているが)。それでも、メディア向けには「時間でなく成果」という法案の上でも何の根拠も無いフレーズを繰り返し発信して、朝日を除く全新聞社の見出しを奪取することに成功した(この点について拙稿「労働時間規制除外を「時間でなく成果」と誤報する風潮について」)

不祥事に対する強引な火消し
 歴代内閣の命取りになってきた大臣の不祥事についても、第二次安倍政権の対応はとても素早い。小渕優子経産大臣の首を一瞬で切り落とし、選挙をはさんだこともあり、いつの間にか不起訴になってしまった。女性登用が売りだったはずなのに、女性閣僚が次々に問題を起こし、今やそのフレーズすらどこかへ行ってしまった。最近の西川農相の辞任についても、西川氏本人が「説明できる。違法性はない。」という弁明をしているのに辞任し、安倍首相自身が国民に向かって謝罪したが、一体何を謝罪したのかも分からないまま、現在進行形で幕引きを計ろうとしている(この点については拙稿「西川農相の辞任で幕引きできない」)。

総選挙に向かう過程でのメディア対策
 昨年12月の解散総選挙に向かう過程もメディア対策が見え隠れした気がしてならない。総選挙については、安倍政権が北朝鮮による拉致問題で成果をあげ、それを勲章にして一気に選挙になだれ込む計画がかなり早い段階から決まっていた、とも言われている。あの頃のNHKのニュースは異様というほか無く、1mmも前進していない拉致問題に関する日朝交渉について、さも壮大な成果が出たかのように繰り返し報道していた。結局、拉致被害者の解放はかなわず、いつの間にか拉致に関する報道はしぼんでいった。
 それに引き続く解散総選挙でも、安倍政権はメディアに対して「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」という文書を発し、政権に対する批判を牽制した。自民党は議席を減らしたのに新聞では「与党圧勝」の見出しが躍った。民主党は議席を増やしたのに、「実質的な敗北」という総括をする始末である。
 総選挙で「与党が圧勝」というあまり根拠の無い既成事実ができたことで、消費税増税後の景気落ち込み対する批判はトーンダウンし、小渕優子氏もみそぎが済んでしまった。

人質事件に関する情報修正
 「イスラム国」による人質事件についても、当初、政府は「イスラム国」が後藤さんの妻に宛てたメールを把握していた旨の報道がされたが(1月22日朝日新聞「後藤さん妻に20億円要求 「イスラム国」側がメール」)、破局を迎えた後に「政府は1月20日になって初めて湯川氏、後藤氏を拘束していたのが「イスラム国」だったと把握した」という報道がされた(ように見える)。朝日新聞の2月6日の検証記事「政府対応、浮かぶ論点 拘束把握は12月/首相「私の責任で演説決定」 邦人人質事件」にも下記のような表があり、把握が1月20日とされている。
AS20150206000301_comm.jpg
 しかし、これはいくらなんでもあり得ない話だろう。これは単に「イスラム国」が正式にアナウンスしたことを捉えて「その時、正式に知った」と強弁しているに過ぎないように思われる。把握が遅くなるほど、「対応しようがなかった」という言い訳ができるのである。
 また、後藤氏の殺害直後には世耕官房副長官がBSフジの番組でわざわざ以下のような発言をし後藤氏殺害の責任が政府に降りかかってこないように予防線をはっている。しかし、政府高官が、政府が個別の国民に対してした対応をあとから一々公表するのは大きな問題ではないだろうか。
後藤健二さん:世耕氏「外務省が計3回、渡航中止を要請」 毎日新聞 2015年02月02
世耕弘成官房副長官は2日、BSフジの番組で、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)に殺害されたとみられる後藤健二さんに対し、外務省が昨年9〜10月に計3回、シリアへの渡航をやめるよう要請していたことを明らかにした。

裏工作を公然と口にする首相
 このようにメディア対策を堂々と行う政権なので、安倍首相自身が、世間の高評価はメディアへの対策で得られるものだと思い込んでいる節がある。ちょっと長いが引用する。
日銀・黒田総裁、安倍首相に財政健全化に本腰入れるよう強く求める FNN 02/18 11:56
関係者によると、2月12日に行われた経済財政諮問会議で、日銀の黒田総裁は、民間の格付け会社が、2014年、日本の国債の格付けを引き下げたことによって、国債を保有する日本の銀行の経営に対する影響に懸念を示したうえで、状況は、極めてリスキーと指摘した。
これを受け、安倍首相は、格付け会社に働きかけるのが重要との考えを示したが、黒田総裁は、格付け会社のトップと話した際に、格付けを変えることはできなかったとしたうえで、安倍首相に対し、財政健全化に本腰を入れるよう強く訴えた。
 この報道に接したとき、筆者は下線を引いた部分について仰天してしまったが、これを問題視する報道はほとんど無いようだ。しかし、一国の首相が、国の財政に関して民間の格付け機関が独自に作成している指標を、政策による財政の好転ではなく、格付け機関に対する裏工作によって打開しようとしているのは大問題ではないだろうか。
 現在の株高についても、経済の好転を反映したものではなく、年金資金の大量投入による官制相場であることが曝露され始めている(「「株高」の正体はただの「官制相場」:「GPIF」改革見送りの問題点」)。安倍首相は経済指標について「株価は一番分かりやすい」と言っているらしいが、それをそのまま、政府資金で実現させている疑いがある。実際、株価の上昇についても、主要メディアは皆上昇した事実だけを報道しており、政府系の資金が大量投入されて株価がつり上げられている可能性についてはあまり報道されていない。

ほころび始めたメディア対策
 しかし、直近のところでは、塩崎厚生労働大臣と世耕弘成官房副長官が、年金資金の株等への投入に関連して、お互いにメディアを使って罵り合う展開になっているようだ(ビジネスジャーナル 2015年2月25日 06時07分「塩崎厚労相と世耕官房副長官、低レベルすぎる誹謗中傷合戦で潰し合い 塩崎氏更迭必至か」)。世耕氏は安倍政権のメディア対策の中心メンバーとも思われるので、今後どういう展開になるのか注目だ。
 また、西川農相を事実上更迭したことによる火消しも、今のところ必ずしも上手くいっていない。それどころか、週刊文春が安倍首相の盟友とされる下村文科大臣の不正献金を曝露し始めた(「下村博文文科相 「無届け後援会」で政治資金規正法違反の疑い」)。
 そろそろ、安倍政権によるメディア対策にも限界が出てきているように思われる。さて、安倍政権は次はどのような手を使って、国民の目をそらそうとするのだろうか。筆者のような素人が眺めているだけでも、露骨なメディア対策が見えてしまうような政権は本当に嫌なので、失敗することを願うばかりであるが。
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2015年02月17日

残業代ゼロの旗手・八代尚宏教授の論理破綻(あるいは公開討論の申し入れ)

 ここのところ、Yahoo!個人記事をはじめ、ネット上の様々なところで、政府が国会への提出に向けて作業を進めているホワイトカラーエグゼンプション法案(労働時間規制除外法案)について、残業代ゼロ法案、過労死促進法案として批判する言論がなされている。それぞれの言説が結構な数のアクセスを集めている(ように見える。ツイート数などを見るに)。筆者もYahoo!個人ページを持っており、この件について何回か書いている。
(佐々木亮)<残業代ゼロ・過労死促進法案>他人事ではない!〜年収1075万円は絶対に下げられる5つの理由
(佐々木亮)<残業代ゼロ制度>「時間でなく成果で評価される」という大ウソ〜ただのブラック企業合法化制度
(佐々木亮)政府が提案する「残業代ゼロ制度」(『定額¥働かせ放題』制度)についてのQ&A
(嶋崎量)簡単!残業代ゼロ法が成果主義賃金とは無関係である理由
(今野晴貴)新聞各社の誤報について 「残業代ゼロ」
(拙稿)「年収1075万円以上」の陰で拡大が懸念される営業職の残業代ゼロ
(拙稿)派遣法改悪の歴史が示す残業代ゼロ制度の未来
(拙稿)拙稿労働時間規制除外を「時間でなく成果」と誤報する風潮について

 それを意識してか、しなくてか、経済学者の八代尚宏氏が「「残業代ゼロ」法案=過労死法案の誤解を解く」と題して、これらの言説に対する反論文ともとれる文章をダイヤモンドオンラインにものして(筆者の周りで)凄く話題になっている。なぜなら、八代氏は政府の規制改革会議のメンバーであり、労働時間規制除外制度の代表的な推進論者だからである。

八代氏の言論の要旨
 筆者が勝手に要約したところによると以下の通りになる。
a.国際的にみて長過ぎる日本の労働時間は、労働者の健康を損ね、時間当たり労働生産性の向上を阻害するとともに、仕事と家庭の両立を図る働き方への大きな 障害となっている。この背景にあるのが、事実上、残業労働に割増賃金を義務付ける労働時間制度だ。
b.そのために米国類似の制度を導入するのが今回のWE法案である。
c.WEに欧州型の労働時間の上限を規制する仕組みと組み合わせることで、労働者の健康確保を担保する措置を図る。その措置とは、(1)仕事を終えてから翌日の仕事開始まで、例えば11時間の休息時間を設定、(2)実際の労働時間よりも幅広い在社時間等の健康管理時 間の制限、(3)例えば年間104日の休業日数を与える使用者の義務等、多様な基準での労働時間の上限を法律で制限することである。
d.法律で労働時間を規制することの本来の目的は、労働者の健康管理であり、賃金を増やすことではない。WE法案はそれを防ぐために、労働時間の上限を定める規制に改革するもので、本来は「過労死防止法案」と呼ぶべきである。
e.今回の改革案に対して「残業代ゼロ法案」とレッテル を張る論者は、「残業代さえ払えば、事実上、際限なく労働者を働かせても良い現行制度の方が望ましい」ということに等しい。
f.WE法案はもともとの長谷川試案では@1000万円以上の年収を稼ぐ社員であれば、企業との交渉力も高く、意に反した残業 を強制される可能性は小さい、A年収水準はそれほど高くなくとも、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する職種であれば、自分で労働時間 を管理することが容易なので@Aの両方にWEを導入すべしとしていた。また対象職種はネガティブリスト(禁止職種だけ指定)とすべきである。
g.WEで、専門職の内でも、短時間で効率的に働く社員の報酬が増える半面、長時間労働で仕事の質の低さを補ってきた社員の報酬が抑制される可能性は否定できない。
h.いくら労働基準監督署の機能を強化しても、法を守らない事業者はあとを絶たないので、労働者を保護するためには「労働条件の悪い企業を辞める権利」を確保すべきであり、そのためには雇用の流動化(筆者註:解雇規制の緩和?)が必要である。WEと雇用の流動化がセットになって「労働時間の短縮化を含む労働者の保護」を実現できる。

突っ込み所満載
 上記a〜gのどれもが突っ込み所満載で、例えば、なぜ労働時間に関する規制を除外して雇用を流動化させると労働時間が短くなるのか、経済学者であれば数式や模式図で説明できそうであるが、筆者は不勉強なのでそういう言説を見たことが無い。逆に、法律により正式に残業代ゼロ職場になっている公立学校の教員は超長時間残業が社会問題になっていることは知っている(拙稿「公立小学校の先生を減らしちゃダメです」参照)。
 また、ダラダラ残業は企業(使用者)がやらせなければいいだけのことなのでWEとは何の関係もないだろう。ダラダラ残業の防止でなぜ効率よく働く人の報酬が増えるのか、これも模式図で説明して欲しいものだが、できないのか、制度の推進論者なのに「可能性がある。」などとえらく弱気なことを仰る。
 また、過労死防止法案だというが、cの健康確保担保措置は3つのうち一つをやればよく、ほとんど過労死の歯止めにはならない(この点について佐々木亮「過労死を促進させる「残業代ゼロ」法案を「過労死防止法案」と呼ぶべきとする珍論について」参照)。

単純な論理破綻
 しかし、それ以上に、八代氏の言論は深刻な論理上の問題を抱えている。すなわち、八代氏の論理によれば、今の労基法の労働時間規制では過労死を防げないが、WE法案は過労死防止法案だ、ということになる。
 ところが、今回のWE法案では、例えば使用者が(3)の健康確保担保措置を怠って制度導入が違法となった場合、八代氏が「残業代さえ払えば、事実上、際限なく労働者を働かせても良い現行制度」と貶める現行制度に戻るだけなのだ。つまり、八代氏がいうところの「過労死防止法」を使用者が破ろうとすると、法律による強力なバリアが働く訳でも、使用者がただちに刑務所にぶち込まれるわけでもなく、労働者には、現実の過労死が発生する職場によくある単なるサビ残地獄が待ってるだけなのである。結局、八代氏の論理を前提にして過労死防止法たるWE制度が導入されても、使用者がそれを脱法して労働者に長時間労働させると過労死を防止できない現行制度に戻るだけで結局過労死を防止できない。
 こんな言葉をネット上でも現実世界でも使ったことはほとんど無いんだけど、あえて言っちゃおうと思う。
はい論破。


公開討論を申し込む!
 しかし、安倍政権がこの制度の本質をまともに説明しようとしない中、推進派の中心人物が一定かみ合った議論を仕掛けてきたことは重要だと思う。この際、WE制度について、ニコニコ動画とかで中継して、ブラック企業対策弁護団VS八代尚宏教授の公開討論を行ったらどうだろう。まあ、当面はダイヤモンドオンラインでも良いので、八代氏がさらに意見を陳述することを期待したい。
posted by ナベテル at 19:27| Comment(2) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月07日

そんな総理で大丈夫か

安倍首相.jpg
「大丈夫だ、問題ない」

と言うんでしょうな。ご本人は。しかし、最近、安倍首相の発言がますます大言壮語になり、現実離れしているように見える。

私に責任がある
 安倍首相は、ISISの日本人人質2名が殺害されたことについて、国会で「このような結果になったのは大変残念。その責任を引き受けるのは当然だ。すべからく国の最高責任者である私にある」と述べたそうである(2014.2.4読売)。しかし、菅官房長官は記者会見でISISと「交渉するつもりは全くなかった」と言い切っている(2014.2.2ロイター)。また、遺体の引き渡し交渉すら頭ごなしに否定した(時事2014.2.2)。
 一国の政府が、テロ集団に税金から捻出した身代金を払うことを正面から言えるはずはないのだが、それにしても、菅官房長官の発言は、最初から交渉する気もなく、これからも最低限の交渉をする気もないことを示している。実際、湯川氏、後藤氏がISISに拘束された後、政府はほとんど何も交渉しなかったようである。
 例えば、フランス政府はISISに人質となったジャーナリストを救出しており(陰で身代金を払ったとも言われる)、二人が拘束された後の日本政府の交渉が全体として稚拙またはやる気がなかった点は否めない。そもそも、中東歴訪自体、外務省からは反対意見が強かったという(週刊ポスト2015.1.26)。有り体に言えば安倍政権は人質を見殺しにしたのである。菅官房長官はそのことを公言している。そういう状況の下で、安倍首相が、自分が責任を引き受ける、みたいなことを言うのがとても、気持ちが悪い。大言壮語しているのに、この「責任」には現実の安倍政権の行動からして、何も中身がないからである。

罪を償わせる
 安倍首相の発言はまた、人質二人の殺害について「罪を償わせる」と発言し、世界を驚かせた。しかもこの文言は安倍首相自らが加筆したものだという(日刊ゲンダイ2015.2.2)。大言壮語の意味するところは不明であるが、日本の法律で彼らを裁くことがほぼ不可能なことだけは確かだし、自衛隊が報復攻撃する訳でもあるまい(常識的には)。なんでこんな発言を付け加えなければならないのだろうか。

アメリカが先制攻撃しても集団的自衛権行使可
 筆者は、安倍首相は頭の中では、人質問題を、国政上の大争点になっている集団的自衛権行使法制、また、憲法9条の改悪問題につなげたいのだと思っている。というか、実際、NHKの日曜討論でその手の発言をしているようだ(マスコミには載らない海外記事「人質問題を再軍備推進に利用する日本政府」)。
 そんな安倍首相は、ついに、同盟国(例えばアメリカ)が先制攻撃をし、それに相手国が反撃してきた場合も、日本がアメリカとの集団的自衛権を行使することが可能、とまで言い切ってしまった(2015.2.2日経)。この発言は極めて重大で、要するに、日本がアメリカの侵略戦争に堂々と参加できるということだ。平和憲法があるのに。憲法9条の文言解釈とかいうレベルではなく、日本が世界でも指折りの好戦国になれると宣言したようなものだ。昨年7月の閣議決定すら踏み越えてしまっているように見える。現に憲法9条があるもとで、それを国民投票に掛ける勇気も今のところないくせに、言葉だけはひたすら大言壮語を繰り返しているし、法治国家なのに憲法を無視して政治がその方向で動いてしまっている。

「経済は好循環」「アベノミクスはトリクルダウンではない」
 首相の大言壮語は外交・防衛方面だけかというとそうではない。今、消費税増税によって日本経済がガタガタになっているのは大方が同意するところだと思われる。筆者の足元でも、消費税増税後、法律相談自体が明らかに減っている。経済指標の数々も日本経済が安倍政権の失政によって冷え込んでいることを示しているように思う。そんなときに、安倍首相は「アベノミクスによって経済は好循環に入っている。雇用でも賃金でも、間違いなく経済は良くなっている」と述べたのである(2015.2.5毎日)。
 その一方で、国会論戦で野党に追及されると、アベノミクスはトリクルダウン理論とは異なるとまで言ってしまったようである(2015.2.2毎日)。え〜〜〜、アベノミクスって、金融緩和、財政出動、成長戦略(規制緩和)の3本の矢で企業活動を活発にし、トリクルダウンで国民経済を好転させる政策だったんじゃないのか〜〜。政府のホームページにも「投資によって生産性を高め、雇用や報酬という果実を広く国民生活に浸透させる」と明記されているんですが(内閣府「安倍政権の経済財政政策」)。

一番いいのを頼む・・・
 前から問題発言が多い安倍首相だったが、ここ1〜2週間の発言は一段と常軌を逸しており、もはや現実が見えないし、見ようともしていないように見える。しかし、経済問題一つ取っても、こちとら国民は安倍政権の失政で不景気のどん底に突き落とされているのに、「好循環」などと居直られるとたまったものではない。そろそろ、この首相にはご退場頂くべき時が来ていると思う(何度も言っている気がするけど)。
posted by ナベテル at 13:48| Comment(3) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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