1 基礎的な力関係を前提に見ないと意味がない
(1)内閣支持率
世論調査で一番安定性が高いのはNHKの「政治意識月例調査」だと思っているが、この調査では、内閣支持率は42%(不支持率は39%)。まだ、安倍内閣は国民に支持されている。中間選挙は現政権に対する中間評価的な意味合いを持つことが多いとされるので、基本的には与党有利なのである。ただし、北海道は沖縄、福島などと並んで内閣支持率が高い地域ではある。
(2)政党支持率
自民34.9%
公明 4.1%
合計39%
民進 9.1%
共産 4.8%
社民 0.5%
合計14.4%
与党がダブルスコア以上で勝っている。北海道の場合、新党大地の票がこれに上乗せされる。今回の場合、与党についたようである。
(3)選挙区
ウィキペディアで見る限り、亡くなった自民党の町村信孝氏が、1996年の小選挙区制導入後、ずっと議席を押さえてきたいわゆる「保守王国」であり、番狂わせが起きたのは2009年の総選挙のみ。このときは民主党が政権に就いたときの選挙であり、地滑り的な勝利であった。ああいう情勢にならない限りは自民党が勝つ選挙区なのである。
(4)小括
基本的には自公が「勝って当たり前」の選挙区であり、寄り合い所帯の野党共闘でいきなり勝利したら、永田町には激震が走り、安倍政権が参院選後に退陣する可能性がゴールデンウィーク前に現実味を帯びてくる展開だっただろう。
一時、池田まき候補が優勢と伝えられたあとの与党の票固めはかなり激しかったと思われる(最終盤でこれをやれるのは自民党の底力でもある)。負けたらマジでやばかったのである。
2 無党派を巻き込み互角の戦いに持ち込んだ意味
今回の選挙結果を見る限り、野党共同候補の池田まきさんは、前回総選挙(2014年12月)の民主党と共産党の票を足したくらいの票を取っている。この点、今の民進党の支持率は当時の民主党の支持率(11.4%)より大分低い。民主党は、前回総選挙で完膚なきまでに負け、潰走寸前だったわけで、踏みこたえて「前回並み」まで持ち込んだのは非常に大きいだろう。民進党の足腰が弱い状況で互角の戦いに持ち込めたのは、もちろん、無党派層の動向と、共産党の全面的支援である。
また、選挙を取り巻く状況も、決して野党有利では無かった(というか僅か数ヶ月前までひたすら「安倍一強」と言われ続けていた)のに、ほぼ互角の戦いに持ち込んだことの政治的な意義は決して少なくないと思う。実際、安倍政権は、もちろん熊本のことなどもあるだろうが、解散総選挙を見送った、と言われる。自公政権はこれから「勝った、勝った」「野党共闘は機能しなかった」と宣伝するわけだが、実際のインパクトは、政権の行動が表しているのである。
いずれにせよ、奮闘したいけまきさんは、比例復活まで含めれば、次回の総選挙で議席を得られる可能性は大分高まったんじゃないだろうか。今後も野党共闘の枠組みの中で、懐の深い政治家として成長して頂きたい。
3 野党共闘の効果をどう見るか
(1)1+1=2となった意味
野党共闘に対する民進党内や支持組織におけるネガティブな議論の根拠は「共産党と組むと票が逃げる」であった。しかし、今回の選挙で、池田まきさんは、民進党支持層、共産党支持層の票を固めきり、投票に行った無党派層の多数票も得た。このことが、野党共闘内部での不協和音を打ち消すのに与える影響は極めて大きいだろう。
その象徴が民進党の前原誠司と、共産党の穀田恵二が同じ場所で街頭演説に立ったことだと思う。この二人は、ともに京都に基盤を置く政治家であり、前原誠司は数ヶ月前まで共産党を「シロアリ」と呼んでいた、野党共闘消極派の急先鋒である(あった)。京都にいる筆者からすると、この二人は「不倶戴天の敵」であり、同じ場所で同じ候補を推すために街宣をするなど、考えられないことなのである。
前原さんと穀田さんというまさに歴史的ツーショット。しかも肩組んでいる!
— 石沢のりゆき (@noriyuki_ishi) 2016年4月23日
ものすごい勢いで野党共闘が発展しているな。 pic.twitter.com/yvhUzaxwD2
そして、この「1+1=2」が成立してしまったことは、永田町にとっては恐怖なのである。なぜなら、この単純な数式が成り立つことを前提に、前回総選挙の結果から次期総選挙の結果を予測すると、自民党が単独過半数を割りかねないからである。それは、この間、いくつかの週刊誌が報道したとおりである。野党にちょいとばかりの風が吹けば、自公は一気に下野することになる。
(2)共産党へのネガティブキャンペーンが効かない
「1+1=2」が成り立ってしまったことに関連するが、北海道5区では、共産党を民進党や市民から分断するために、古色蒼然たる「暴力革命政党」宣伝もされたが、それもあまり効かなかったようである。自公にとっては、15年くらい前まではそれなりに効いていたこの種の宣伝方法が、もはや国民に響かなくなっているのも、脅威であろう。
4 目標との関係で結果を見る必要(安倍政権一発退場へはまだハードルが高い)
このように、北海道5区の野党共闘がそれなりに機能し、もはや「安倍一強」ではない政治情勢であることが明らかになったのは、参院選を前にした政治情勢としてはとても重要である。投票に向かった無党派層が野党共闘を支持しているのも重要である。
しかし、一方で、参院選で自公を完膚なきまでに叩きのめし、安倍政権を一発退場させるには、まだ、パワーが足りないのも事実だろう。そういう意味で、市民+野党共闘の枠組みが、より訴求力のある政策を打ち出す必要を感じるのである。すでに述べたように、この選挙で、野党共闘の基盤は固まってきたと思うので、共通政策の打ち出しなど、検討して欲しい。