今、漫画雑誌『ヤングアニマル』に森恒二の『自殺島』という漫画が連載されている。この漫画の主人公・生(セイ)は人間社会の中で「食われる」立場にいて自殺をくり返していた(連載当初、注目してなかったので実はよく知らない)。そして、政府の力で自殺常習者が集められた「自殺島」に送り込まれる。そこで自然界に放り出された生は野生で生きる力を収得し、弓矢と猟犬で鹿狩りをしながら、他の元「自殺常習者」たちとの連帯や軋轢をはらんだつかず離れずの生活を始める、という内容だ。
これだけ書くと僕は全く読んでない『バトル・ロワイヤル』の劣化コピーみたいな内容だが、僕の中ではかなり面白い漫画だ。自分が自然界の中で生きていく自信がないだけに、人間社会の中でとても弱い存在だった人間が、野生生活の中でたくましく生きる力を獲得していく姿にあこがれているのかもしれない。
ネタバレになるが、今、話は、自殺島からの脱出が政府の監視によって困難であることが明かされる一方、人間集団の中で、漁労、採集にまじめに従事する者と仕事をさぼってリターンだけ得る者の軋轢が生じ始め、一触即発の状態になっている。自分の不満を暴力によってはらそうとする者もいる。そういうなかで、唯一、弓矢という圧倒的な兵器を持つ生がどういう行動に出るのか、期待が高まる。
この物語は、最近、現代社会の中で突如として原始共産制社会を作り出してしまい、1+1=3という人間関係を作らなければ共同体のメンバー全体が生きていけないような状態を描き出しつつあるように思う。社会の中で連帯して生きる術を知らない現代の若者たちが圧倒的な自然環境の中でどうやって生きる道を探していくのか、また、共同体の中での秩序はどうやって維持するのか(単に力のある者による統治なのか、それ以外の答えが出てくるのか)。作者の傾向を見ると、一筋縄では行かない展開を見せてくれそうだ。これからが楽しみな作品だ。