国家公務員法
(本人の意に反する降任及び免職の場合)
第七十八条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 その他その官職に必要な適格性を欠く場合
四 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
今回の処分は国家公務員法78条1項4号に基づく免職処分で、誤解を恐れずに言えば、民間の整理解雇に相当する。しかし、過去数十年にわたって、この条項が発動された例はなく、国家公務員については1964(昭和39)年に姫路城保存工事事務所と憲法調査会事務局の閉鎖にともないそれぞれ3人が分限免職されたのが最後といわれている。同様の規定がある地方公務員を含めても、余り前例のない措置だと言える。
整理解雇は、労働者に全く責任がないにもかかわらず、その収入源を奪う重大な不利益な行為だ。民間の企業が整理解雇を行う場合は、その前提として、解雇を回避するための努力、すなわち人員削減以外の経営努力、配置転換による解雇の回避、自主退職の募集、一時休業等を行うことが求められる。経営者がこれらの措置をとるべき義務を解雇回避努力義務という。これは判例法理により確立してきたものであり、現在では、解雇回避努力義務を尽くしていない解雇は労働契約法16条違反で無効とされる。
労働契約法
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
公務員の分限免職処分の場合、分限免職処分を行うための条件について、明文規定はない。しかし、分限免職処分は公務員の職を奪う重大な不利益処分である点は民間の整理解雇と全く一緒なのだから、民間労働者との均衡上、当然、分限免職処分を回避するための措置が必要といえる。
判例上は、1968(昭和43)年に市立病院の職員が、経営再建のために、国家公務員法78条1項4号と同趣旨の地方公務員法28条1項4号に基づいて分限免職された例で、福岡地方裁判所昭和57年1月27日判決が「地公法二八条一項四号による分限免職処分は、同項一号ないし三号の場合と異なり、被処分者になんらの責に帰すべき事情がないにもかかわらず、その意に反し任命権者の一方的都合により、被処分者及びその家族の生活の基盤を根底から破壊するものであり、また、地方公務員については、現行法上争議行為が禁止され、私企業におけるのとは異なり人員整理に対する労働者側からの重要な対抗手段を欠いていることを考えると、任命権者が、必要やむをえず地公法二八条一項四号に基づく免職処分をしようとする場合においても、処分対象者の生活の維持に配慮し可能な限り配置転換その他免職処分を回避するための措置を講ずべきである。そして、配置転換等が比較的容易であるにもかかわらずこれを考慮しないで直ちに分限免職処分をした場合には、その処分は、手続上の合理性を欠き裁量権の濫用として違法となるものと解するのが相当である。」と述べて、分限免職回避のための努力義務を尽くさない場合には分限免職が違法であるとし、実際に一部の者に対する分限免職処分を取り消す判決を出している。
他にも、事例は異なるが、地方公務員である学校の校長が適格性を問題として分限免職された例で、最高裁判所は昭和48年9月14日の判決で「分限処分が降任である場合と免職である場合とでは〜中略〜降任の場合は単に下位の職に降るにとどまるのに対し、免職の場合には公務員としての地位を失うという重大な結果になる点において大きな差異があることを考えれば、免職の場合における適格性の有無の判断については、特に厳密、慎重であることが要求される」と述べており、分限免職処分が公務員としての地位を失う重大な処分であることに鑑み、特に厳密、慎重な判断が求められる旨判示している。
裁判所が、分限免職処分を、公務員の職(すなわち生きる道)を奪う究極の手段と捉え、抑制的な態度をとっているのは明らかだろう。
今回の分限免職処分がなされるに際して、分限免職を回避するための措置が真面目に行われた形跡はほとんどない。年金業務を引き継ぐ日本年金機構については1000人以上も外部から新規雇用する一方で社保庁職員の雇用を拒み、厚労省や他省庁を含めた配転のための措置もほとんど取られていない。今回の分限免職処分をめぐる法的論点は、その他にも多数にのぼるのだけど、僕は、この一点を捉えても、今回の分限免職処分は、全体として、違法であり、取り消されるべきだと思う。
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千葉県流山市消防本部に消防士として採用された女性(25)が、体力不足などを理由に6カ月の条件付き採用期間が終わる際に免職処分とされたことを不服として、同市に処分の取り消しを求める訴えを千葉地裁に起こした。同市は「免職とした行為は正当な処分」と争う方針。
女性は、市の消防士(救急救命士)の試験に合格し今年4月、採用された。消防署に勤務しながら訓練を受け、現場にも出動していたという。だが、条件付き採用期間が終わる9月末、「体力的な面で救命活動に1隊員として行動ができず、消防職員としての適性がない」などを理由に、免職処分となっていた。訴状では「消防士としての適格性を否定しなければならないほど体力が劣っていた事実はない」などと指摘。市の対応は違法としている。
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細かい事実関係がわからないとなんとも言いようがないだろうけども。
「適性がない」なら仕方がない?それとも、
「オンナが邪魔」だから?
「民間では良くあること」?
女性側が訴えているようなんで、どうなりそうなのかの予想も含めてコメントをどーぞ。
地方公務員法
第二十八条 職員が、左の各号の一に該当する場合においては、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
〜省略〜
三 前二号に規定する場合の外、その職に必要な適格性を欠く場合
条件附採用期間中の分限免職処分は分限免職に際しての任用権者の裁量の幅が広い、というのが最高裁の判例。新採教員の事例では僕も関わってうちの事務所がやった事件の高裁判例がリーディーングケースになっている。体力の場合、テストすればかなり客観的に出てくるだろうから、まずそういうテストをちゃんとやっているかどうかが一つめのポイント。あとは「消防士に必要な体力」をどこに線引きするかなんだろうね。これは裁判所次第。
あと、体力はあるのに、人間関係で上手く行かなかったのを体力を口実にして免職にしたらアウトだろうね。
権利では認められてるけども、実際行使が難しい・・とか。