2010年07月06日

ネット上の資料で証券優遇税制のひどさを考える

はじめに
 僕は、法律は専門だが、税金は今のところ専門ではない。このエントリは国税庁のホームページ等を参照して勉強しながら書いたものだ。もし、間違いがあったら、ご指摘願いたい。

累進課税で高額所得者が「損」をすることはない
 サラリーマンの皆さんは、自分の給与所得の所得税がどうやって計算されるかご存じだろうか。僕は子供の頃、「累進課税」というのは高額所得者が税金をたくさん取られて手元に残るお金が貧乏人より少なくなる制度だと思っていたし、だからこそ、高額所得者が制度に文句を言うのだと思っていた。
 しかし、大人になってから、そんなアホな話はないということを知った。下の図を見て欲しい。これは国税庁のホームページから引っ張ってきた所得税の税率の表だ。税率だけ見ると、課税所得が1800万円を超える人は40%の税金(例えば課税所得1801万円なら所得税720万4000円)を取られてしまう気がするが、そうではない。
 例えば課税所得1800万円の人の税額は1800万に33%を掛けた594万円から控除額153万6000円を控除した440万4000円であり、実際の所得税の税率は24.46%だ。そして、この440万4000円という金額は、440万4000円=195万×5%+(330−195)万×10%+(695−330)万×20%+(900−695)万×23%+(1800−900)万×33%という計算式によって得られる。課税所得が1万円上がって1801万円ならこれに1万円×40%=4000円をプラスした440万8000円になる。つまり、課税所得1801万円の人は195万円までの所得には5%、195万円から330万円までの所得には10%・・・という税金の払い方をして、40%の所得税を払うのは1800万円を超えた1万円分だけなのだ。こういう仕組みなので、課税所得額がAさん>Bさんのときに、税引き後の手元に残る所得がBさん≧Aさんとなることはない。所得が多くて税金が高くなることはあっても、他の納税者との関係で損をすることはないのだ(当然のことだが・・)。
タックスアンサー No.2260 所得税の税率
課税される所得金額      税率   控除額
195万円以下          5%       0円
195万円を超え330万円以下   10%     97,500円
330万円を超え695万円以下   20%    427,500円
695万円を超え900万円以下   23%    636,000円
900万円を超え1,800万円以下  33%   1,536,000円
1,800万円超          40%   2,796,000円

 実際には、所得から給与所得控除(サラリーマンのみ)、社会保険料控除をはじめ、様々な控除をした上で課税所得を算出して、上の計算式が適用されるのだが、いずれにせよ、所得は累進課税される、ということの意味はこういうことなのだ。

所得は総合課税されるのが原則

 そして、所得には色々な所得がある。サラリーマンのような給与所得。自営業者や会社経営者の事業所得。年金生活者の雑所得など。他にもアパート経営のような不動産所得、一時所得、山林所得、利子所得、配当所得、譲渡所得等がある。これらの所得の多くは「総合課税」といって、各分野の所得の金額を合計した金額で所得税を計算することになる。例えば、給与所得者として給与所得が500万円あり、同時にアパート経営で300万円の不動産所得があれば、全体として所得800万円に対する所得税を払うことになる。そうすると、当然、500万円と300万円に別個に累進課税したときよりも税率が高くなる。この「総合課税」が所得税のもう一つの特徴と言える。

証券優遇税制の正体

 本題に入るまでが長かったが、「累進課税」と「総合課税」の意味を分かっておかないと、証券優遇税制の意味はよく分からないのだ。
 現在、上場企業の株式や投資信託の譲渡所得(例えば株の売却益)や配当所得(例えば株の配当金)については、所得税の税率が国税と地方税あわせて10%になっていて、どんなに利益が上がっても株や投信の譲渡益・配当益について10%の税金を取られるだけで総合課税されない(これを分離課税という)。制度の詳細はこれまた国税庁のホームページをご参照いただきたい。

 給与所得で所得税率が10%というのは、独男(女)で言えば、大ざっぱに収入が額面で700万円(訂正)くらいの人だ。控除の問題があるから単純ではないが、株や投信については、どんなにもうけを出しても年収700万円くらいの人と同じ率の税金だけ払えば済まされてしまうのが、証券優遇税制の正体なのだ。他にも株←→投信の損益通算や3年にわたる損益通算など、様々な優遇があるんだけど、面倒なので今日は触れない。
 そして、この証券優遇税制は最初からあったものではない。国税庁のホームページによると2003年から導入されたことになっているし(国税庁ホームページ「証券投資がより身近になりました!〜 「貯蓄から投資へ」:証券市場の構造改革 〜」)、後述のしんぶん赤旗の記事によると、株式等の譲渡益については、2002年まで本則26%だった税率が03年から20%(国15%、地方5%)に優遇された上、2003年から2007年までこれを半減(10%)。07、09年度税制「改正」で優遇の期限を延長し、現在、11年末までが期限とされている。配当も同様に、20%の税率が10%に優遇されており、期限は11年末までとなっている。この「改正」がなされたのは、他ならなぬ小泉純一郎首相、竹中平蔵経済財政担当大臣のときだ。

証券優遇税制によって生じる税負担のゆがみ
 証券優遇税制をはじめとする所得税の分離課税と低税率の結果、日本は、高額所得者が所得に見合った税金をまともに払わない「金持ち天国」になっている。このことをとても鋭く指摘したのが、ちょっと前の「kojitakenの日記」さんの「日本の所得税制が超高所得者に有利な逆進課税になっている動かぬ証拠」というエントリだ。そこでも触れられている政府の「平成22年度税制大綱の資料(6/6)」の中のグラフを参照するとこうなっている。
所得階層別所得税負担率表.jpg

 所得が1億円を超える人たちの所得税負担率が下がりはじめ、所得が100億円を超える人たちでは税率が14.2%しかない。これは「所得税は累進課税。高額所得者は所得の半分近い高い税金を払っている」という僕の頭にすり込まれた「常識」ががらがらと崩れ始めた衝撃のグラフだった。このグラフは、必ずしも証券優遇税制だけの効果ではないだろうが、証券優遇税制が相当なインパクトをもっていることは間違いないだろう。

誰が得しているのか
 そして、証券優遇税制によって誰が得しているのか。単なるグラフ上の数字ではなく実体を追及したのが7月2日のしんぶん赤旗の「株で大もうけ 配当だけで1人1億円減税 この不公平なぜ正さぬ譲渡益優遇 6人に116億円も」という記事だ。
 試算によると、配当に対する優遇税制では、トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長が減税だけで1億1176万円となっているほか、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊名誉会長が1億825万円、京セラの稲盛和夫名誉会長が8167万円など、それぞれ巨額の減税を受けていることが分かりました。
 株式等の売買益に対する減税では、1人当たりの減税額は19億3398万円に達します。
 株の売買益にかかわる優遇税制は総額で約1212億円。合計所得100億円超の6人(0・007%)だけで全体の約10%の減税額を占めています。

 つまり、政府が国民に対しては財政破綻の危機を煽って消費税増税をちらつかせる一方で、こういう人たちを優遇してまともに税金も払わずにボロ儲けさせるのが証券優遇税制の正体なのだ。

どうすべきか

 この点については、しんぶん赤旗の意見にほぼ賛同する。まず、株・投資信託の譲渡益や配当については所得税を20%に戻した上、庶民の小遣い稼ぎの域を超えるものについては総合課税にして累進課税による所得税を取るのがいい。超高額所得者が資産をため込んでも、その分が消費に回るわけではない。さらに株などの投資に回り庶民から搾り取るための種銭になるだけだ。ここからどんどん税金を取って景気刺激に回せば、日本経済が少しでも上向く材料になるだろう。そして証券優遇税制を放置している現状は、「財政再建のためには消費税を増税するしかない」という議論がまやかしであることの、一つの根拠にはなるだろう。

2010.7.6 資料の挿入、字句訂正等の修正
posted by ナベテル at 00:32| Comment(5) | TrackBack(0) | 社会・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
確かにお金持ちがやたら優遇されると腹立たしいんですけど、
でもどういうもんでしょうかねぇ。
お金持ちは、そこそこ贅沢してお金を動かしてくれるわけですよ。
彼らに私のような貧乏人課税をしたら、
税金は霞ヶ関や永田町でムダな経費になっちゃうだけじゃないですか。
それよりも安心して贅沢してもらった方が、結果的には、庶民にお金が回ると思うんです。
それに「いつか、お金持ちになりたい」ってのは、庶民の素朴な夢じゃないですか?
それが社会の活力になってるとも思うんです。
「公務員の平均年収以上は全て税金」なんて世の中が来たら、
日本に新しいもは生まれにくいと思いますよ。
例外はあるにせよ、お金持ちの人たちは、
それなりの能力や仕事で稼いでるわけですし、
強引に庶民レベルに引きずり落とすことはないですよ。
多少のボーナスがあった方が、
世の中全体としては幸せになれるんじゃないでしょうか?
Posted by 哲夫 at 2010年07月08日 20:26
>哲夫さん
コメントありがとうございます。
今、世界的に、ごく一部の人に富が集中して、貧富の格差がどんどん拡大しています。
それが消費に回ってれば景気は良くなるはずですが、記事にも書いてあるように、さらに投資(投機)に回って、結局庶民からお金を吸い取るための種銭になってるのです。
消費に回らずに、自分が勝つギャンブルに回っている、と言い換えてもいいと思います。
後半については、僕は、稼いでる人間が稼いでない人間よりもさらに税金を払ってない状況を指摘しているのですが。
Posted by ナベテル at 2010年07月08日 23:52
グローバルに言えばそういう状況も確かにあるとは思います。
ただ「投機」自体もまた悪い側面だけではなく、
やはりお金が動けば人も動き、何らかの雇用や消費も生まれるものです。
やみくもに「マネーゲーム」という言葉で叩けば、
お金も人も日本とは全く関係ない方向へ流れて行きます。
私も今の状況が良いとはとてもいえませんが、
お金持ちを日本から追い出すような政策や税制を敷いては、
最終的にクビをくくるのは、私たち貧乏人だと思います。
たとえ、貧乏人が割合として沢山税金を払うにしろ、
お金持ちのふところがなければ、今の私たちは生きていけないどころか餓死です。
何とか生きていればチャンスも生まれます。
お金持ちや大企業は「グローバル」という名のもとに、
国境さえも玩具にできます。
しかし、私たち貧乏人は、日本人でいる他はないし、
三年後五年後の改革を待つほど余裕も無いのです。
たとえば日払いバイトで働いてる人は、
法律改正で雇用が無くなってしまえば
明日からどうやって食べて行くのか。
国が翌日から支えてくれるのか。
そんなすばやい対応ができる国だとは
とても思えません。
即時対応ができたとしても、
一ヶ月位のタイムラグは必至でしょう。
一ヶ月あれば人はラクに餓死します。
私の仲間もそうでした。
マジメな人ほどそうです。

株で何億儲けてもいいし、
一万円しか税金がかからないなら
それでもいい。
ただ、そのお金持ちが使う家電製品が車が
完全に海外生産になってしまったら
私たち貧乏人は骨になるしかないのです。
そのお金持ち自身が
シンガポールやリヒテンシュタインに永住してしまったら、
空が落ちてくるのを待つしかないのです。
Posted by 哲夫 at 2010年07月09日 01:18
2003年頃から退職金1000万を株式投資で運用
2006年あたりまで2000万近くになりましたが、そこから一時300万まで落ち込み
今はなんとか400万程度まで回復しました。
上昇期支払った税金が100万かと思うと
半分でもいいから返して欲しい気持ちです。
今度当初の資金まで回復したらさらに100万取るつもりと聞けば腹がたちます。
そんなに俺が金持ちなのかという気分です。
Posted by かず at 2010年10月29日 13:10
なぜ税金を取れば景気刺激になるのかわからない。今まで散々増税してきたのに、一度だって役人が有効に税金を使えた試しがあるだろうか。

消費税は全額社会保障に回すなんて詭弁は1年と立たずしてそれが詭弁であることがわかってしまった。

いくら官僚に税金を与えても有効活用できないのはもう明白でしょうが。金持ち増税しても金をもつのが官僚になるだけで何も変わらないのでは。むしろ金持ちの消費や投資が冷え込めば、割を食うのは金持ちの企業に雇用されているひとや取引先では?

むしろ所得が何千万〜何億〜の人には消費特別枠みたいなのを作って、消費をすればその額は非課税にしますが溜め込めば税金にしますよ〜なんて強制的に消費に回せるような制度を作ったほうが良いのではないか
Posted by at 2014年11月05日 14:10
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