2010年07月15日

郵便労働者の正社員化、大いに結構!

 日本郵政の非正規社員が大量に正社員登用されることになった。

日本郵政の非正規社員の正社員登用試験への応募、3万4000人超
7月14日13時41分配信 産経新聞

 日本郵政は14日、非正規社員を対象に6月に募集した正規社員への登用試験について、グループ5社合計で3万4098人の応募があったと発表した。応募は勤続3年以上で週の労働時間が30時間以上などの採用条件を満たした約6万5000人のうち半数以上に上った。

 グループ会社ごとの応募の内訳は日本郵政が56人、郵便事業が2万8585人、郵便局が4442人、ゆうちょ銀行が736人、かんぽ生命保険が279人だった。応募者に対して面接などの採用試験を実施し、合格者は今年11月頃に正社員として採用する。採用予定数は現段階で未定。

 日本郵政グループの社員は計約43万人で、非正規社員は2009年10月時点で20万3669人と約半分に上るが、正社員とほぼ同様の業務に携わっている非正規社員も少なくなかった。このため日本郵政は非正規社員の雇用の安定と正社員との格差是正のため、非正規社員の正社員への大量登用を推進する。

 正社員の増員は今後10年間の平均で1人当たり年200万円の人件費増につながる。最終的な合格者数によっては経営の圧迫要因となる可能性もあり、効率化などでカバーできるかが課題となる。

大量の非正規社員によって支えられる日本の郵便

 言わずとしれたことだが、日本の郵便は超優秀だ。郵便物はかなりの遠隔地でも翌日には到着する。速達がほとんど意味ない(これはこれで問題だと思うが・・・)くらい早いのだ。統計的なデータをもってないが、外国にいる知人とかの話を聞くと、郵便事故の率も諸外国に比べるとかなり低いのではないだろうか。難しい住所を探し当てて郵便物を到達させる能力も民間の配送サービスの比ではない。
 上の記事にあるように、日本の郵便を支える労働者の半数が非正規労働者だった、ということは、日本の超優秀な郵便の半分は非正規労働者によって支えられていた、ということなのだ。ウチの周辺に郵便配達に来てる配達員も、実は非正規労働者のかもしれない。
 優秀な郵便はその収益性と優秀さに目を付けられ、小泉政権下で民営化されることになった訳だが(実際に黒字を出しているのはゆうパック等を含めた「郵便事業」らしいが)、このニュースで分かることは、結局、その収益性が非正規社員に対する収奪の上に成り立っていた、ということなのではないだろうか。同じ仕事をする正社員とアルバイト職員がいれば、後者を使った方が使用者は儲かるのだ。


郵便事業の黒字は誰のものなのか

 仮に郵便事業の黒字全額が正規労働者と非正規労働者の賃金の差額から発生していると考える(従って全員が正社員化すると黒字がゼロになる)。
 郵便事業を民営化する、ということは、会社化して株式を公開し、利益を株主に配当するということだろう。その場合、郵便事業の黒字は、会社の所有者たる株主のものとなる。つまり、黒字は株を買える財力を持った人だけのものになるということだ。これをAとする。
 一方、株の公開を止め、非正規労働者の待遇を改善し(正社員化し)、賃金アップした場合、黒字は賃上げされた非正規労働者たちのものになる。黒字は正社員化された人だけのものになる、とも言える。これをBとする。
 古くて新しい議論だが、どちらの選択をするのが正しいのだろうか。

正社員化、どんどんやるべきじゃないのか
 これについて、絶対の正解は存在しないだろう。どちらの選択をするかはその人の価値観が大いに反映する。
 ただ、一つ指摘されるべきなのは、今、日本で高収益を上げている多くの企業は、Aを選択している、ということだろう。よく指摘されることだが、日本の企業は、正社員をリストラし、派遣社員や有期社員などの非正規労働者に置き換えることで賃金を抑制し、利益を出してきた。しかし、その結果、ワーキングプアがはびこり、ものが売れなくなった。「若者の車離れ」とか言われるが、そもそも車を買うお金が若者にないのだ。
 もともと郵便事業は国が責任を持って行う事業だ。クロネコヤマトに言わせると国が宅配便をやるのはずるい、という言い分なのだろうが、全国一律の郵便サービスを維持するために、同じ郵便のシステムを用いて収益を上げることは、あながち、ずるいとは言えないと思う。むしろ、公的な制度で上がった利益を、株を買う資産をもった私人だけで分配する方がよほど不公平に見える。
 一方、国の事業である以上、株主に配当するような利益を上げる必要はないのではないか。その利益が非正規労働者に対する収奪から発生しているのなら、正社員化してそこに利益を還元して、その人たちの生活を安定させるのは大いに結構なのではないか、それによって日本経済が少しでもてこ入れされれば、なお結構なのではないか、と思うのだ。

 なんか、いつにもまして落書き的エントリだが、激震が走った選挙後の復帰第一弾ということで。
posted by ナベテル at 01:35| Comment(5) | TrackBack(0) | 労働問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
株式を公開しなくても、利益は配当として株主に還元されると思います。

AとBがそもそも相反していないので、対比して考察できないのではないでしょうか。

Posted by yamada kazuya at 2010年07月15日 22:24
>yamada kazuyaさん
コメントありがとうございます。

日本郵政の株式を公開しないことは、当初の民営化案では想定されて無かったのでは?亀井大臣になって以降、この件も含めて様相が変わっていますが。

もちろん、両方を中間的にやる方法は理論上はあり得るでしょう。僕は「どちらかを選択するなら」と単純化した前提で記事を書いたつもりです。

また、引用した新聞記事で「経営の圧迫要因になる可能性」と書かれていて、自民党時代の郵政民営化議論で非正規職員の正規化の話なんてどこにもなかったように、実際の議論としてAとBは両立していなかったのもまた事実です。正規化を打ち出した亀井大臣時代は株式公開を止めるような話まで出てましたよね。
Posted by ナベテル at 2010年07月16日 01:07
わかりました。ありがとうございます。文章が読み易く、いいブログを発見しました。これからも読ませて頂きますね。
Posted by yamada kazuya at 2010年07月16日 14:00
私も長いこと携わってるので正社員になりたいです。

ただ、昔の郵政からの正社員って職務怠慢。

ムカつきますよ。

おかげで職務怠慢の正社員がやらんから全部うちらに仕事丸投げ…

そういう方々にはバイトに格下げして欲しい( ̄ー ̄)
Posted by 通りすがりの郵便事業の期間雇用契約社員 at 2010年09月11日 11:18
今年の期間社員から正規への年間登用者数は約3000人です。

弁護士さんへ

全員社員化=一生無理です。

同業他社の運送業や銀行業を見てください。どれだけ非正規がいてるか。

将来上場する予定がある中で、まず無理だな。

Posted by 記事から6年経ちました。 at 2016年05月21日 11:43
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