2011年03月31日

危険な福島第一原発で働く人の保護を

 超久しぶりにブログを更新する。最近、発信したいことは大抵ツイッターで済ませてきたのだが、やはり、情報量が多くなるとブログの方が向いている。
 なんでブログを更新する気になったかというと、福島第一原発で決死の復旧作業をしている方々があまりに劣悪な環境で作業に従事している情報が次々に入ってくるからだ。僕は、15〜16年前に『週刊金曜日』の記事で、原発労働者が作業中の放射線量を量る「線量計」を外して仕事をする実態を読んだことがある。外すのは、もちろん、付けたらすぐ限界値に達してしまい、作業にならないから。当時、とても衝撃を受けて鮮烈に覚えていたので、今回の事故後に真っ先に心配になったのは現場で働く人たちの健康だった。そして、事故後に漏れ聞こえてくる情報を総合すると、今の福島第一原発で実際の危険な作業に当たっている作業員の多くは「協力会社」というヘンテコな名前の付いた下請け会社の従業員。「原発ジプシー」と言われる究極の非正規労働者もいるようだ。こういう人たちが危険な原発で黙々と働き、多量の放射線を浴びて健康を害する状況を放っておくのは耐えられない。

労働者の大量被ばく・放射線管理の不徹底
 厚生労働省は、東電原発事故後の3月15日、現場の労働者の年間の放射線被ばく制限値を100mSvから250mSvに引き上げた。もちろん、緊急事態を受けたもので厚労省は「被曝した作業員の健康管理には万全を期す」と言っていた。
被曝線量の限度引き上げ…福島第一の作業員限定(2011年3月15日22時31分 読売新聞)
 放射線の専門家でつくる「国際放射線防護委員会」が示す国際基準では、緊急作業時の例外的な被曝線量の限度は約500ミリ・シーベルト。厚労省によると、250ミリ・シーベルト以下で健康被害が出たという明らかな知見はないといい、同省は「被曝した作業員の健康管理には万全を期す」としている。

 しかし、その後に流れてくる情報は「万全を期す」とはほど遠い、というか、東電が高放射線が出ていることを下請会社に教えず、現場でもアラームを無視したり、そもそも放射線量を量ってすらいないことが次々に明らかになった。
福島第1原発:作業員被ばく 線量計警報、故障と思い無視(毎日新聞 2011年3月25日 11時42分)
 東京電力福島第1原発3号機で作業中の作業員3人が被ばくした問題で、東電は25日、線量計は正常に警報が鳴ったものの、3人は線量計の故障と思って作業を続けていたと説明していることを明らかにした。

東電、2号機の高放射線量を事前把握 作業員らに伝えず(朝日新聞2011年3月26日18時32分)
東京電力福島第一原子力発電所(福島県大熊町、双葉町)3号機のタービン建屋内で起きた作業員3人の被曝(ひばく)で、3人が作業に入る6日前の18日、2号機のタービン建屋地下で、通常時に比べて異常に高い放射線量を確認しながら、東電は作業員に注意喚起をしていなかったことがわかった。東電は「情報共有が早ければ被曝を防げた可能性がある」と認め、謝罪した。

一部作業員の被ばく量量れず(NHK2011年3月31日 19時8分)
 東電福島事務所によると、6日前の18日、2号機のタービン建屋地下1階で放射線量を測定したところ、作業員の被曝線量の上限(250ミリシーベルト)を上回る毎時500ミリシーベルトだった。
東京電力では、被ばく量を量るのに必要な線量計の多くが地震で壊れたとして、一部の作業グループでは代表者にしか持たせず、作業員一人一人の被ばく量の管理ができていないことが分かりました。

 東電が現場の労働者に高放射線のゾーンをあえて教えず、現場では下請会社が放射線量を計らず、計っても無視したら、放射線量の基準なんてあっても意味がない。

体力を回復できない劣悪な作業環境
 放射線で傷ついた遺伝子(DNA)は健康な人については休息(睡眠)を取ることで回復する。しかし、十分な睡眠や食事を取れず、体力の回復を図れない状態が続けば、規定以下の放射線でもDNAはダメージを受けやすくなる。そして、現場の人たちが置かれている状況は正にそういうものだ。
東電「決死隊」1日2食の劣悪環境 一時は水も1・5リットルのみ(産経新聞3月28日(月)15時13分)
横田氏<渡辺註:原子力安全・保安院の横田一磨統括原子力保安検査官>は作業状況などの確認のため、22〜26日に福島第1原発を視察。現場では新たな水、食糧などが入手困難な状況で、一時は1日あたり1人に提供される水の量は「1・5リットル入りペットボトル1本」だったという。
 水に関しては、その後改善されたが、食事は朝、夜の1日2食で、朝食は非常用ビスケットと小さなパック入り野菜ジュース1本、夕食は「マジックライス」と呼ばれる温かい非常用ご飯1パックと、サバや鶏肉などの缶詰1つだけだという。
 マジックライスは「ワカメ」「ゴボウ」「キノコ」「ドライカレー」の4種類から選べるという。
〜中略〜
 下着など衣服も不十分で「着替えも難しい」(同)ほか、免震棟内は暖房が入っているとはいえ、夜間は毛布1枚づつしか与えられず、底冷えする中で眠っているという。

 この記事では、労働者の環境に対して責任を持とうとしない原子力安全・保安院の担当者の「協力したいが基本的には事業者(東電)の問題。大変厳しい環境で作業に必要なエネルギーを得られていないと思う」という発言も特徴的だ。そして、こういう作業環境は偶然に生まれたものではなく、どうも現場の感覚がそういう風になっている気がしてならない。
福島第二原発で勤務する労働者のブログ
所長の言葉:「福島第一、第二原子力発電所所員に『人権』なし!!」

 今、福島第一原発では、圧力容器の中にあったはずのウラン燃料が水を通して直接外気に放出される状態になっていて、あちらこちらで超高濃度の放射線が計測されている。このような極めて過酷な環境下で、不健康な労働者が勤務すれば、健康を害す可能性は非常に高くなるだろう。

強引な労働者募集・生活のために辞められない労働者

 しかも、下請業者の労働者たちは、もともと、好きで働いているわけではなく、生活のためにやむなく危険な仕事をしている。今、福島第一原発での仕事を拒否すれば、職を失う不安を抱えているのだ。
福島第1原発:英雄でも何でもない…交代で懸命の復旧作業(毎日新聞2011年3月21日 13時41分)
 それでも現場行きを決めたのは「原発の仕事をしてきた職業人としてのプライドより、沈静化した後のこと」だという。「これからもこの仕事で食べてい きたいという気持ち。断ったら後々の立場が悪くなるというか。今の会社で、またこういう仕事を続けていきたい気持ちなんで、少しでも協力し、会社の指示に できることは従って(やっていきたい)」と淡々と話した。
 現在、現場で作業に携わっているのは東電と子会社の東電工業、原子炉メーカーの東芝、日立のほか、鹿島、関電工やそれらの関係会社など。電源復旧 では送電で4社、変電で5社、配電で3社という。地震発生直後に約800人いた作業員は15日の4号機の爆発による退避で一時約50人まで減ったとされる が、それ以降は300〜500人で推移。18日に米軍に借りた高圧放水車で3号機に放水したのも、東電工業の社員2人だった。
 また、一度現場を離れた労働者たちも、高額の日当で頼み込まれて現場に戻っている状況がある。

 危険な環境で作業する労働者たちの募集は命の値段としてはあまりにも安いが、生活する上では相当高額な日当だ。
下請け会社職員原発に戻る覚悟 日当8万円で復帰の同僚も(スポニチ2011年3月31日 06:00)
 福島県双葉町の町民が集団避難しているさいたまスーパーアリーナには、東電が「協力企業」と呼び、福島第1原発で復旧作業を続ける下請け会社の職員も避難。40代の男性は社長から「手伝ってくれないか」と懇願され、近く第1原発に戻るつもりだ。「覚悟はしている。仲間が現場で戦い、交代を待っている。今 すぐにでも行ってやりたい」と話した。別の男性によると、日当8万円という条件で既に職場に戻った同僚もいるという。

 菅首相は福島第一原発からの撤退はあり得ない、と明言した。言うまでもないが、菅首相は民主的に選ばれた僕らの代表だ。僕は、当初、「安全」な原発の上にあぐらをかいて快適な生活をしてきた自分がこの人たちを無理矢理働かせる側にいることに戦慄したが、誰かがこの「汚れ役」を引き受けないと、日本全体、人類全体が生物学的に重大な危機にさらされることも自明だ。今は、安全圏にいる日本国民全体が「殺す側」に回っていることの自覚とその立場を引き受ける覚悟も必要だと思う。

労働者の健康管理の徹底と長期の医療・生活補償を
 国、東電が「安全だ」と言い続けた結果の今回の事故だ。その尻ぬぐいを経済的や社会的な状況から不本意ながらやらされる労働者を、国が責任をもって手厚く保護しなければならないのは言うまでもない。しかし、そもそも、国、東電は、今、福島第一原発で働いている下請労働者たちの氏名を把握しているのだろうか。今のような無茶苦茶な環境で働かせれば、将来、健康を害する労働者が出てきてもおかしくない。国と東電に求められるのは、今働いている労働者の健康管理の徹底と、将来にわたる医療補償、健康を害したときの生活補償だと思う。
 実際、医療関係者から、生涯にわたる医療補償の提言がなされている。

「英雄」ではない「被害者」である原発事故作業員に、生涯にわたって医療補償を
有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
木村 知
2011年3月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 この問題、現場の深刻さに比べて、まだまだ社会的な関心が集まってないように思う。多くの人が声を上げて、政府が対策を取ることを願う。
(2011.4.1追記)

資料編
原発で勤務していた労働者の現場の実態についての証言
http://www.iam-t.jp/HIRAI/pageall.html#page2

日本の原発労働者の実態についての調査番組(イギリス・チャンネル4放送)
http://ow.ly/4eVny
http://ow.ly/4eVnz
http://ow.ly/4eVnA
 
原発労働者の安全衛生に関する厚労省のパンフ
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-4a.pdf
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-4b.pdf
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-4c.pdf
posted by ナベテル at 22:26| Comment(5) | TrackBack(0) | 労働問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
拙稿、お読みいただき有難うございました。
まさに、ひとりでも多くのひとにこの問題を認識してもらいたいと思います。
一刻も早く超党派での議論を開始し、政府には適切で迅速な対応をして頂きたいと思います。

Posted by きむらとも at 2011年04月01日 10:50
はじめまして。
私は会社と労働問題でトラブルが起きていて悩んでいる労働者なのですが
労働問題等で検索していてこちらのブログに参りました。
メールアドレスに「お気軽にどうぞ」という文字が沿えてあったのですが
さすがに法律相談のメールなどは受け付けていただけませんよね?
大変失礼なことを書き込んで申し訳ありません。メールで少しでもアドバイスを下さる弁護士さんを探していたもので…
ご無礼な書き込みをお許し下さい。
Posted by トト at 2011年04月01日 22:04
>きむらとも様
今日はきむらさんにリツイートして頂いたのがきっかけで爆発的に来場者が増え、1000人以上の人が記事を読んでくれました。こちらこそ、ありがとうございました。

>トトさん
最寄りの日本労働弁護団所属の弁護士にご相談ください。ホームページに事務所一覧が載ってます。法テラスの無料相談が使える事務所も多いですよ。
Posted by ナベテル at 2011年04月02日 00:59
想像はしていましたが、それ以上でした。年収300万円の労働者にとっての日勤8万円と、権力者・富める者にとっての8万円とは、一光年からの差があります。文字通り生命を削って働かされている。
ただ、この事実に対しての非難は、この危険な作業に従事していない全ての人が受けなければいけない。無論私も含めてです。
私に出来る、いやしなくてはいけないのは、この事実を一人でも多くの人に伝えて、作業された方の今後を出来る限り支えていく事です。情報ありがとうございました。
Posted by Sannrennv at 2011年04月02日 10:03
以下のコメント削除します。このエントリと関係ない。
・貴方の22DDHのブログでの発言が物議を呼んでますよ。 at 2011年04月12日
・まやかしの人は善人気取り at 2011年04月13日
Posted by ナベテル at 2011年04月18日 22:00
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