2012年07月11日

「橋下現象」を巡る朝日新聞記者の嘆きを読んだ感想

 朝日新聞のWEB RONZAで同社大阪社会部の稲垣えみ子記者が「橋下現象」に引きずられて読者基盤を掘り崩している朝日新聞の現状を憂いて嘆く記事が載っていた。僕もここ2年以内に朝日新聞の購読を止めてせいせいした人間なので、この記事について思うところを書きたい。まあ、稲垣さんがこのページを見るかは分かりませんが。
 原文はこちら↓
「世の中が見えていたのは橋下氏」朝日新聞大阪社会部デスクの嘆き
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/special/2012070900007.html

1 朝日新聞は橋下の政策を前提にした批判すら(十分に)していない
(1)内在的批判という考え方
 稲垣記者は、一度、橋下氏を肯定した上で、批判するのが重要だと気付いた、という。これを「内在的批判」といい、橋下氏の言動を法廷での証言だと仮定すると「自己矛盾供述」という。相手の供述を自己の主張の正当性を基礎づける資料に使う場合は「対人立証」ともいう。いずれにせよ、弁護士が準備書面を書いたり、証人尋問をしたりするときは多用する技法だが、僕としては朝日新聞の記者がこの技法を使おうと思わなかったこともいささか衝撃だ。
(2)橋下氏の政策不履行は問題とされてこなかった
 それはさておき、橋下氏は大阪府知事の頃から、政策的にはポカを繰り返しているし、自らが掲げた政策を何回も反故にしたり、不履行してきた。
 大阪府知事選挙のときに掲げた政策は、当選後に本人が「無理だと分かりました」みたいな軽いノリであらかた反故にしたが、朝日新聞を含めたメディアはほとんど問題にしなかった。
 橋下氏が「大阪府を財政再建した」というのも何の根拠もない真っ赤な嘘だったが、朝日新聞を含めたメディアは橋下氏の粉飾まがいな決算を「財政再建」と書き続け、最後までまともな検証をしなかった(※)。多くの大阪府民は、今でも橋下氏が大阪府を財政再建したと信じているのではないだろうか。そういえば松井知事になってからの大阪府の決算も報道されていない。
 また、橋下氏が高速道路建設などの大型プロジェクトを断行し、またWTCを買い取ることで大赤字を作ったこともほとんど問題にされてこなかった。
(3)メディアが検証しなかった結果できあがった虚構の「デキる政治家」像
 当選した政治家の資質がもっともよく分かるのは、自らが掲げた政策をしっかり履行しているか否かの検証の場面でだろう。もちろん、政策がすぐの実現するとは限らないから、僕はマニフェストに数値目標を掲げるのは愚かだと思っている(イギリスでもそんなアホなことはしない)。ただ、少なくとも、政治家が自らの掲げた目標に向かって努力しているかどうかは検証可能だ。そして、この検証はその政治家の存在を百パーセント肯定してもできるし、弁護士が法廷で多用するように実に強力な批判なのだ。
 この点、稲垣記者の記事は橋下氏が府知事当選直後に選挙公約をあらかた放擲したことについて何も批判しておらず「思えば当時の橋下サンは愛らしい存在だったなあ! 当選直後から聖域なき財政再建を打ち出し、文化施設や私学への助成金、市町村への補助金など誰も踏み込まなかった支出の大幅見直しを主張して物議をかもしていたが、議会や庁内に味方は少なく、物事は一筋縄では動かなかった。市町村長との会合では、四面楚歌のなか感極まって涙を流す場面すらあったのである。いま思えば100年くらい前のことのようだ。」と懐かしむばかりだ。これがすでにアウトなのだ。そして、上記のように、橋下氏の大阪府知事時代は「財政再建」を含めたその後の政策も結局不履行でおおかた失格点なのに、朝日新聞を含めたメディアは橋下氏の粉飾を見逃してきた。そしてそのような結果出来上がった虚構の「デキる政治家像」が一人歩きして肥大化すると、ついにはそれにあらがえなくなってしまった。

※橋下氏が大阪府を財政再建したと喧伝していたころ、僕が大阪府のホームページで府債の投資家向けに出している資料をもとに、ツイッターで橋下氏にリプライを送りながらそのウソを指摘すると、しばらくして府のページからその資料自体が消えたことがあった。因果関係は不明だが、少なくとも朝日新聞よりは鋭い内在的批判をしたと思っている。

追※橋下氏が提起する問題について、鋭い問いかけが含まれているものがあることは否定しない。例えば、市役所がぐるみで現職候補を応援する風景は全国各地で見られるが、これは適法、違法、グレーゾーンに関わらず問題が多い。しかし、その問題は以前から提起されてきた。朝日新聞をはじめとするメディアがまじめにこの問題を取り上げ、しかるべき批判してきたらここまでひどくはならなかったかもしれないし、橋下氏がそれを利用して職員いじめをする余地もなかったのではないだろうか。

2 名前が出るほど人気が上がるね ぽぽぽぽ〜ん
 ここで僕もちょっとした対人立証を試みてみよう。「週刊朝日」に山藤章二さんの似顔絵塾のコーナーがある。このコーナーの投稿ハガキをまとめた本を読んだことがあるのだが、その中で、自民党の政治家だった渡辺美智雄(ミッチー。渡辺喜美の親父だ)のエピソードがあった。ミッチーを墓場のお化け提灯に似せた似顔絵を掲載したら、ミッチーが山藤さんのところに電話してきて、「後援会の新聞に載せるから絵を貸してくれ」という趣旨のことを言ってきたそうだ。政治家というのは、深刻な批判でなければ、メディアに名前が載るほど有名になるし、結局は人気が高まる種族なのだ。これは、つまらない芸人でも、テレビに出ているだけで人気者のように感じることにも通じる。
 この間、朝日新聞を含めたメディアは、橋下氏周辺が何かを言うと、小学生の戯れ言のレベルの発言でも垂れ流してきた。稲垣記者の記事の全体のトーンも「橋下現象について一生懸命報道してきた」というもののように見える。これが失敗なのだ。橋下氏は最初からメディア対策をしていたし、メディアを利用して戯れ言レベルの突拍子もない発言を発信すればするほど自分に注目が集まり、支持が高まる事を知っていたのだ。その一方で、深刻な批判をされると記者を恫喝することも厭わなかった。朝日新聞も完全にこの術中にはまり、しかも橋下氏の発言の「その後」を真面目に検証しないから、ますます虚像の人気が膨れあがることに手を貸してしまったのだ。この点については、稲垣記者は特ダネ主義の弊害という形で自己批判をしているが、いかにも検証が浅いように思える。
 なお、橋下氏は弁護士だが、彼が展開している法律論はテレビタレントだった時代からトンデモが多く、実際、最近も大阪市職員の思想調査問題で大失態をやらかした。それらしい肩書の人間が自信満々に法律っぽいことを言ったときに、記者が現場で反論できる力をもっていないことも問題だと思う。

3 まとめ
 稲垣記者が朝日新聞の「存亡の危機」ともいうべき事態を感じているのは悪いことではないし、橋下を無批判に持ち上げてきた責任を反省するのは大いに結構なのだが、いかんせん遅すぎた。その結果、押しても引いても読者が減る状況を朝日新聞が作ってしまったのではないのか、と思う。これを自業自得という。仕方ないので、せいぜい苦しんでもらいたい。
 あと、朝日新聞の読者が離れていくのは、橋下問題がきっかけになっていても、それだけには到底止まらない問題があることも指摘したい。消費税増税にしろ、TPPにしろ、朝日新聞の読者を含む国民の多くが反対していて、客観的には他にも選択肢が存在するのに、朝日新聞はこれらを無理矢理国民に押しつける役回りを率先して果たしてきた。そういうことでわき上がったぬぐいがたい朝日不信が、橋下問題をきっかけに噴出して朝日新聞の購読を止めているのだ。今、朝日はそういう問題をあちこちに抱えていて、記事を書く度に読者を減らしているのではないか。僕もそういう元読者の一人だ。僕はもう手遅れだと思ったので購読を止めたが、手遅れでないというのなら、内部で、それこそ、死にものぐるいで改革して頂きたい。
posted by ナベテル at 20:47| Comment(1) | TrackBack(0) | 社会・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
このページを私のFaceBookタイムランに紹介させていただきました。ところで2月7日の朝日の夕刊(大阪版)に、民間から登用した公募区長を持ち上げている記事にびっくりしたのですが、この区長の中にはずいぶん問題を抱えた人物がいることが指摘されている(別冊宝島最新刊など)のに、ま、なんと朝日の脳天気な記事かと驚きました。メディアの公権力を検証するとい姿勢がないのですね。
Posted by 谷川 眞 at 2013年02月09日 23:40
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