<大阪府労委>職員調査は「不当行為」 橋下市長が謝罪
毎日新聞 3月25日(月)12時34分配信
大阪市が昨年2月、全職員を対象に実施した政治・組合活動に関するアンケートは、労働組合法が禁止する不当労働行為に当たるとして、大阪府労働委員会は25日、今後はしないとの誓約文を組合側に渡すよう市に命令した。府労委は、橋下徹市長が組合活動に否定的な見解を表明している状況で強制力を背景にアンケートを実施したとして、「組合活動に対する支配介入だった」と違法性を指摘した。
橋下市長は記者団に「大変申し訳ない。法に基づいた行政運営をしていく」と謝罪し、不服申し立てをしない意向を表明した。
命令書によると、府労委は組合加入の有無や加入のメリットなどをアンケートで尋ねたことについて「組合員に動揺を与え、加入していない者にも加入をためらわせかねない」と指摘し、不当労働行為に当たると認定した。
市側は調査主体は第三者チームと主張したが、府労委は同チームは市の影響下にあり、調査主体は市だったと判断。また、市は「不適切な組合活動の解明が目的」などと正当性を主張したが、府労委はアンケート自体が支配介入に当たるとして、市の主張を退けた。
アンケートは昨年2月、市特別顧問らで作る第三者チームが実施。組合加入の有無や選挙活動への関与など22項目を尋ね、橋下市長が「業務命令」として回答を義務付けた。市職員約2万8000人が加入する市労働組合連合会(市労連)が救済を申し立て、府労委は同月、「支配介入に該当する恐れがある」として中断を勧告。市は4月、収集したアンケートを廃棄した。
市労連など複数の組合が昨年、組合の団結権や思想・信条の自由を侵害されたとして、市などに損害賠償を求めて大阪地裁に提訴。府労委の命令が影響を与える可能性がある。
橋下市長は、11年の市長選で労組が現職候補を支援したことを問題視し、第三者チームを設置。アンケートの他、職員の公用メールを調べるなどした。
記者会見した市労連の上谷高正・執行委員長は「橋下市長はアンケート以外にも、組合への不当な介入を続けている。市はすぐ謝罪し、健全な労使関係を築く努力をすべきだ」と話した。市労連は今後、アンケートの経緯の検証や、再発防止を市に求める方針。【原田啓之、茶谷亮、津久井達】
不当労働行為、支配介入行為とはなんぞや
基本的な用語を確認しておくと、労働法の最も基本的な法律の一つである労働組合法に以下のような規定がある。
(不当労働行為)
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法 (昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。
意外に知られていない事実だが、戦後の日本の労働法制の制定の歴史を紐解くと、労働基準法よりも労働組合法が先に作られている。これは、使用者と労働者との「労使自治」によって労働基準が作られていくことが原則とされたからでもある。後に作られた労働基準法は、法律の一番最初に書いてあるとおり、あくまで労働条件に関する最低基準を強制的に定めたにすぎず、それを超える労働環境は、使用者と労働組合が話し合いして決めてね、というのが我が国の労働法制の基本中の基本なのである。(蛇足だが労働組合を嫌う労働者の労働条件が悪化するのもこの法制度からすればある意味必然なのである)
そして、そのような正常な労使関係を作る上で最も基本になるのは、立場の弱い労働者が労働組合を作ったり運営したりすることについて、使用者から差別を受けたり、使用者にコントロールされたりしてはならない、ということである。労働組合からの話し合いの申し入れ(団体交渉の申し入れ)について使用者が拒んではならないことは言うまでも無い。上記労働組合法7条はこの大原則を定めたもので、これらをまとめて「不当労働行為」という。日本国憲法の直接の委任によって作られた根本的な法である労働組合法の中でも最も重要な条文の一つである。「支配介入行為」とはこのうち7条3号の「労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」をいう。これらが禁止されるのは、言うまでもなく使用者からの労働組合への影響力行使(団結権侵害)を排除し、労働組合の自主性を保持するためである。しかし、支配介入が現実に労働組合の結成・運営に影響を及ぼしたかどうかは問題ではなく、客観的に支配介入の意味を持つ行為がなされれば、不当労働行為が成立しうる(『労働組合法 第2版』西谷敏 2006年11月30日 有斐閣p198)。
大阪府労働委員会の命令の重さ
大阪府労働委員会とは、労働組合法19条の12と大阪府の条例によって設置される大阪府の機関であり、上級機関は東京にある中央労働委員会(こちらは国の組織)である。府労委も中労委も、労働組合が不当労働行為を受けたときに「救済命令の申立」をしたのに対して、訴訟のような手続を経た後、「救済命令」という行政命令を出すことができる。これは使用者と労働者の権利義務関係を役所の命令で形成してしまうもので、強力な力を持つ(命令の是非について裁判所で争うことは、当然、できる)。今回、大阪府労委が大阪市に対して再発防止の誓約書を発行するように求めたのはこの権限に基づくもので「ポスト・ノーティス」と言われるものである。実は公務員は労働組合法の適用が除外されているのだが、現業職員については回り回って労働組合法の適用がある。今回の救済命令はそういう現業職員の組合に対するものであろう。
労働組合法に基づく歴とした公的機関による強制力のある命令が非常に重いものであることは言うまでもない。
市長、反省だけならサルでもできるのですぞ
橋下市長は、これ以上争っても勝ち目がないとみたのだろう。即日、負けを認める発言をした。橋下市長はそれで幕引きをしたいだろうが、市長、反省だけならサルでもできるのですぞ。労働組合法は、すでに述べたように日本国憲法の直接の要請に基づいて作られた法律であり、それを遵守すべきことは使用者の義務である。まして、憲法尊重擁護義務、法令遵守義務を負う大阪市長があえてそれに違反するようなことをしたことは極めて重大な問題なのである(橋下市長は職員に対する思想調査の指示書にわざわざ下手くそな直筆で署名している)。簡単な幕引きは到底許されない。
すなおに謝罪できない橋下市長に代わって、本来あるべき謝罪文言を考えてみたので、こういう方向で発言することを検討されたい。また、大阪市の思想調査については、別途、職員が慰謝料請求をする訴訟等も提起されており、まもなく山場を迎えると聞いている。こちらでどのような判決が出るかも注目である。
「本日、大阪府労働委員会で、私が直筆で署名した文書によって指示された大阪市職員に対する思想調査について、労働組合法が定める不当労働行為(支配介入行為)に当たるので、組合に対して再発を防止する誓約書を提出するように、命令を受けました。大阪府労働委員会の判断は大変重く、私としても、正面から受け止めなければなりません。そもそも、私は憲法と法令を遵守すべき大阪市長であり、法律の専門家である弁護士でもあります。そのような大阪市の法律的なマネジメントを預かる者として、憲法が定める思想良心の自由、憲法・労働組合法が定める労働組合活動の自由について、熟知しなければならない立場です。そのような私が直筆の署名までして憲法、法令に違反する思想調査を行ったことについては深く反省しており、私のマネジメント能力の欠如を指摘されても致し方ないものと考えます。関係各位にはご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。また、このような明白な違法行為をした以上、本日、潔く、大阪市長の職を辞する決意を致しました。」
追記。
なんつーか、この人、自分の前言を撤回して上訴するのまで他人のせいかよ。言ってて恥ずかしくならないのかな。僕の周りの邪推では、ひょっとして中労委(or地裁)に持って行けることを知らなかったんじゃないか説が有力に主張されております。
橋下氏「正義づらはおかしい」 アンケート問題で謝罪撤回、不服申し立ての意向
産経新聞 3月25日(月)22時2分配信
大阪府労働委員会が不当労働行為と認定した大阪市による職員へのアンケート問題について、橋下徹市長は25日、午前中にいったん不服申し立てを行わない方針を示したが、同日夜になって撤回した。
橋下市長は同日午前、「労働組合に対する不当介入ということであれば、大変申し訳なかったと思っている」と陳謝し、不服申し立てをしない意向を示していた。
だが、橋下市長は、府労委が命じた再発防止の誓約書以上の措置を求めていくなどとした組合側の記者会見を受け、方針を撤回。市役所内で記者団に対し、組合が選挙でビラ配りを行っていた実態などを指摘した上で「自らの非を全部棚に上げて、正義づらするのはおかしい。正すべきところは正していく」などと述べ、人事室に不服申し立てを行うよう指示したことを明らかにした。