大阪市の調査の問題点、大阪府労委の命令については、3月25日に書いた「橋下市長、反省だけならサルでもできるのですぞ」をご参照頂きたい。
橋下市長の言い訳語録
全文を確認したい方は大阪市のホームページをどうぞ。以下、強調点は筆者がしたものです。
読売新聞 木下記者
この点でもう1回ちょっと確認なんですけれども、市長はこの命令が出た直後はですね、きちんとした第三者機関が判断したことなのでルール違反があったということであれば受け入れると。
市長
そうですね。
読売新聞 木下記者
で、その時点ではそのご発言からすると違法性の指摘について受け止められたというふうにこちら受け取ったんですけれども、そのあとその組合側の態度振る舞いが問題なので不服申し立てをすると。そうすると当初はその違法性についての認識は一定程度受け入れるというお話だったのが、組合の態度いかんによってはその態度を変えるということのその整合性と言いますか、対応ということにちょっとこう違和感を感じるんですけれども。
市長
そんなことないですよ。だってそれは本来であれば違法性のね、認識の問題というものがあったとしても、それは最終の所まできちんと手続きを踏むってのが本来の原則ですから。だって今回は労働委員会のその仕組み、僕も頭に入ってないのでわかりませんけども、何回か不服申し立てができる中でね、そういう手続きの権利を与えられてる訳ですね。でもその権利を放棄するかどうかっていうのは、これは労使の問題な訳ですから相手方の態度振る舞いも影響されるのは当然じゃないですか。だって相手の方が僕がね、これあそこ謝罪命令も何にもでてないのに僕が謝罪やって不服申してもしないって言ってるのに追及の手は緩めないとか今までやってきたことが全部間違いだって言うんであれば、やっぱりきちんと僕の持ってる不服申し立て権を使ってね、その事実については明らかにしないと、そらあんな労使関係なにも改善しないじゃないですか。
筆者の周りでは、橋下市長が最初に大阪府労委の命令を受け入れる旨の発言をしたことについて「中労委に再審査申立が出来ることや、大阪地裁に取消訴訟を提起できることを知らなかったのではないか」という噂が流れた。大阪府労委自体は大阪府の組織なので、府知事をやっていた橋下氏は府労委の人件費とかそういうものを目にしているはずだ。だから、府の人事委員会の決定のように、大阪の内で完結してしまう手続だと思っていた可能性があるのだ。そして、どうやらそれは本当だったようだ。そして、この発言自体にも誤りがあり「再審査」自体は中労委に1回できるだけで、その命令に対して地裁に取消訴訟を提起できる。最初の性急な受け入れ発言自体がいかに迂闊かが理解できる。
読売新聞 木下記者
その判断の内容についての事実誤認があるからとか、そういうことではなくて、あくまでも労働組合の態度について問題があるから不服申し立ての権利を使うと、こういうことですか。
市長
それは事実誤認とかそうでなくも、事実誤認とかそういうことがね、事実誤認でなくてもその最終の判断、評価の部分についてはやっぱりここは争っておかないと組合がああいう態度だったらもう丸っきし不服申し立て権使わずにあのままそうですって訳にはいきませんね。その事実を認めてルールはきちんと守らなきゃいけないってことは分かりましたけれども、そのあそこまでの救済命令が必要なのかね。どうなのかっていうところは争うべきだと思いますね。そうじゃないと他のもう組合のあの弁護士なんてもうその辺り何にもわかってないから学生運動のノリで、この労使の関係ってものをどう作っていくのかなんていうのは組合のあっちの弁護士ってのは権力者相手に戦えばいいっていうね、どうしようもない弁護士集団ですから。あれは組合ね、ちょっと考えないと本当に労使をきちんとね、労使関係を適正にしようと思ったら自分たちのつける弁護士ってのを選ばなければいけないですね。あんなことやって労使関係なんかうまくいく訳ないじゃないですか、そんなの。
だからそれは他の訴訟とか手続きとか、もっと言ったら僕がやってきたことを全否定しにきてる訳ですから。そうであればやっぱりあの救済命令についてはね、しっかりこっちが主張してあの救済命令あそこまで踏み込まれないようにやっぱり防御しないとね。そうじゃなくて組合の方もこちらのメッセージもわかってもらってね、これまで1年間組合も頑張ってくれたところを僕は評価するところを評価してた訳ですから。そういうところはやっぱり労使の関係の中で、やっぱり組織の問題なんでね。どうも公務員の労働組合ってのは市長のことを自分の組織のトップというよりも批判の対象だっていうものを思ってる節もあるみたいなんでそういうところはやっぱり正さなきゃいけないですよ。
前回のエントリに書いたことにも関わるが、使用者が不当労働行為をやらず、労働組合と誠実に協議、団交することこそ「適正」な労使関係だ。しかし、橋下氏の手にかかると、不当労働行為の是正を徹底的に追及する労働組合の態度が問題だ、ということになる。
読売新聞 木下記者
そうするとルール違反の指摘については受け入れる部分もあるかもしれないけれども、誓約書じゃないですけども、もうしませんみたいなものを出す出さないという部分については争いの余地があると。
市長
ルール違反のところについても全部認める必要もないでしょうからね。もっと精査して僕がある意味政治的にね、トップとしてもう全部飲み込んで全部認めようという話とね、行政的に全部チェックをして本当にそういうルール違反があったのかどうなのか、こういう事実があったのかってことをきちんとチェックする話ってのは別ですから。僕はもう、もういいかなと、全部飲み込んでもそこまでチェックしなくてもね、これで新しい新年度を迎えるにあたってもう全部飲み込んでしまえばいいのかなと思ったんですけれども。どうも大阪市の公務員の組合ってのはその辺りがわかってないっていうかね。変な弁護士つけちゃって可哀そうだと思いますけどもね。全部ぐじゃぐじゃにしましたね、あの弁護士が。
でも弁護士を選ぶのも本人たちの責任ですから、どういう弁護士を選んだのかっていうのもね、本人たちの責任なんで仕方ないです。この1年くらいで25年度お互いにやっぱりそこは主張し合うところは主張し合いながらでも、うまく大阪市政きりもりできるような労使関係になるのかなっていうか、そういうことをめざしたつもりの最大のメッセージを送ったのに、あの弁護士に任してたらぐじゃぐじゃになっちゃいますよ。
なんつーか、ここまで来ると、吉本新喜劇で、喧嘩でボコボコにされた後に「今日はこれくらいにしといたる!」と負け惜しみを言うレベルですな。ださー。
司会
他にご質問ございますでしょうか。
市長
あれは弁護士が悪いんです、あれは。組合の委員長の発言は全部文言を文字起こししたやつ僕の所に来ましたけども、いろいろ考えてるところがあるのかもわかりませんが、弁護士がいただけない。あれ何のために弁護士あれ入ってるのか、揉めさせるためにと言うか、市長相手に勝訴の判決を勝ち取るためになんかあの弁護士集団やってるとしか思いませんね。本当にうまく労使の関係をまとめるということが目的なんじゃなくて、権力相手に訴訟とか裁判手続きをやって勝つことが目的になってるっていうね。まさに勝利至上主義のなんか弁護士集団じゃないですか。労使関係をきちんと適正化することを目的に掲げるんじゃなくて、勝つことだけを目的にすればいいって。あんなことやったらそんなの労使なんてうまくいく訳ないじゃないですか。大体僕の性格知ってたらあんなこと言われたらそれは僕は言い返すに決まってるんだから。でもそういう弁護士を選んでしまったのもこれはやっぱり組合の責任な訳ですから、いくら委員長がそこまで発言してないって言ってもそういう弁護士選んだのはあなたでしょってことになってしまうんでね。仕方ないですね、これは。ちょうど僕がアンケート調査やった時だってそういう調査部隊を選んだのは僕なんだからってことで今回、労働委員会からそういう指摘をされてしまった訳ですから。やっぱり、選んだ責任ってものはあるんでしょうね。
記者から質問がないのに、怒りが収まらないのか、労働組合の代理人弁護士を執拗に攻撃している。橋下市長は「学生運動のノリ」というが、市長のノリこそ小学生の喧嘩で「お前の母ちゃんデベソ」というレベルに見えてならない。
謝罪発言と掌返しについての弁護士的評価
前回のエントリに引用した新聞記事で、橋下市長は「大変申し訳ない。」と明確に謝罪している。橋下氏長自体が記者会見で言っているが、本件は事実の(法的な)「評価」が問題となる。評価の前提となる事実関係は、マスコミに晒しながらやっているだけに争いがあまりないはずで、今回の思想調査についての市当局の行為と橋下市長の指示は客観面で見たら濃厚なクロだろう。それについて(法的な)「評価」に逃げ込んでおきながら、一方で弁護士である市長が「大変申し訳ない」と謝ったら、法的評価でもクロと認めたようなものだ。壮大な自爆である。筆者が大阪市の代理人弁護士だったら、ニュース報道に接するなり市長の秘書に電話してすぐに止めさせるようにどやすレベル。このように、いまさら記者会見で評価の問題と居直っても、挽回が難しくなる局面を自ら作り出しているのである。
また、橋下市長は今でも現役の弁護士である。弁護士には、弁護士職務基本規程というものがあり、下記のように定める。
第九章他の弁護士との関係における規律
(名誉の尊重)
第七十条 弁護士は他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護士(以下弁護士等という)との関係において、相互に名誉と信義を重んじる。
(弁護士に対する不利益行為)
第七十一条 弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れてはならない。
大阪市の職員の労働組合は(いくつかあるようだが)それぞれ数千単位の組合員がいるはずだ。全ての組合員が(というか多くの組合員は)自分の組合が選任している弁護士の素顔を知っている訳ではないだろう。そのような場面で、市長がマスコミの前で紛争の相手方の弁護士をそれこそ何の根拠もなく貶め、依頼者である組合との分断を計るような発言をすることは言語道断であろう。
再審査申立自体が不当労働行為かもしれないというオチ
使用者には、府労委の命令について、中労委に対して再審査の申立をする権利がある。しかし、橋下市長の再審査の理由は「自らの非を全部棚に上げて、正義づらするのはおかしい。」「「対立でいくなら、雇用の確保を僕にお願いされても困る。執行部は(労使関係の良好化の)チャンスを壊した。組合員は不幸だ」というものであり(3月26日付zakzak)、「これまでは雇用を守ってきたが、対立構造でいくなら分限免職適用について厳格にやっていく」などという脅かし文句も述べている。組合や代理人弁護士は不当労働行為を繰り返す橋下市長に対して「白旗をあげるだけでなく、(組合への対応を)是正することを求めていく」(3月30日産経新聞)と述べたのであり、それを足がかりにして、再審査手続や分限免職処分を組合との「対決構造」の手段に使うとなると、再審査の申立自体が不当労働行為になるという希有な事例になるのではないかという危惧を感じ、元々マスコミ頼みで売り出したのに露出が低下してオワコン化しつつある橋下市長の行く末を案じる今日この頃である。
2013.4.5追記
記者会見全体を読んでいると、ABCの記者が橋下市長におもねるような気持ちの悪い質問をする一方、読売新聞の木下記者が鋭く追及し、このエントリで言及した橋下市長の滅茶苦茶な供述を引き出しているのが印象的だった。直前に感じの悪い質問をされ、市長自身もキレて記者を攻撃する可能性がある中で、上記供述を引き出した木下記者は素晴らしいと思う。