ヤツが墓場から甦る!長いが新聞報道を引用する。長いのでこの項目は読み飛ばしてもよいです。
「残業代ゼロ」一般社員も 産業競争力会議が提言へ 朝日新聞2014年4月22日
政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は、労働時間にかかわらず賃金が一定になる働き方を一般社員に広げることを検討する。仕事の成果などで賃金が決まる一方、法律で定める労働時間より働いても「残業代ゼロ」になったり、長時間労働の温床になったりするおそれがある。
民間議員の長谷川閑史(やすちか)・経済同友会代表幹事らがまとめ、22日夕に開かれる経済財政諮問会議との合同会議に提言する方向で調整している。6月に改訂する安倍政権の成長戦略に盛り込むことを検討する。
〜中略〜
対象として、年収が1千万円以上など高収入の社員のほか、高収入でなくても労働組合との合意で認められた社員を検討する。いずれも社員本人の同意を前提にするという。また、当初は従業員の過半数が入る労組がある企業に限り、新入社員などは対象から外す。
2 もう一度残業代の基礎をおさらい
我が日本国は、労働基準法により、労働者の労働時間を週40時間、一日8時間に限定している。意外と知られていないが、これを超えて働かせるのは刑罰が定められた犯罪である。
これを超えて労働者を働かせることができるのは、災害など臨時の必要がある場合か、職場で残業時間の上限を定めた適法な三六協定(さぶろく協定。労基法36条で定められているのでそう言う。)を定めたなど限定された場合であり、これも意外と知られていないが、政府の基準では月あたりの法廷時間外労働の上限時間は45時間である(リンク先はPDFなので注意。「時間外労働の限度に関する基準」。ただし強制力がないので実際は長時間残業が野放しになっている)。
そして、あまり語られない残業代の最大の特徴は、月給制だろうとなんだろうと、法所定の計算により1時間当たりの時給単価(基礎時給)を割り出し、基礎時給に割増率を掛けた金額との関係で法定外残業時間に正比例して支払われるということである。しかも、基礎時給計算から除外される賃金も厳しく制限されている。
基礎時給の計算方法については、以前、ワタミの賃金を例にとって解説したことがあるので、興味がある人はそちらをご覧頂きたい。→「離職率は高くないというワタミの新卒賃金を考える」
残業代の未払ももちろん犯罪であり、労働者が訴訟を提起した場合は、裁判所は使用者に懲罰的な付加金を命じることができる。労基法の付加金制度は日本の法制度の中では裁判所が民事的な制裁金を科せる珍しい制度である。
このように、使用者が脱法できないように何重にも規制がかけられているのが法定外残業、深夜早朝労働、法定休日労働なのであり、それでもサービス残業が横行しているのが今の日本の現状なのである。
今でも、「管理監督者制度」という法定時間外割増賃金を払わなくてよい制度があるが、適用要件は非常に厳しい。このブログを読んでいるほとんどの人には適用できないと思って差し支えない。感覚的には「マクドの店長くらいでは適用されない」と覚えておけば良いだろう。企業の中間管理職になった途端、残業代がつかなくなり、手取りが減る話はよく聞くが、ほとんどの事例で違法だと思って良い。
また、「裁量労働制」という制度もあるが、この制度も適用要件が非常に厳しい上、あくまで労働時間を「みなす」制度であり、みなされる労働時間が法定労働時間を超える場合は、当然、残業代が支払われる。この制度も脱法的運用が疑われており、疑念がある人は、一度、日本労働弁護団の弁護士に相談した方が良いだろう。
3 一度は葬られた「残業代ゼロ法案」
このように、払わなければならない残業代を払ってこなかったのが日本の経営者たちであり、その総本山が日本経団連である。日本経団連はそれでも飽き足らず、2005年に「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」を発表して以降、場合によっては年収400万円以上の労働者について適用される残業代ゼロ法案を強力に推進し、第一次安倍政権のときに、ついに法案化まで漕ぎ着けた。彼らの王道楽土(労働者の地獄)が訪れようとしていた・・・(このあたりの経緯は手前味噌ながら『POSSE』
この残業代ゼロ法案の凄まじさは、労働時間を「みなす」制度すら放棄し、一定以上の年収がある労働者について、賃金と労働時間(残業時間)の対応関係を完全に切り離そうとする点にあった。この法案が「残業代ゼロ法案」であることはもちろんだが、「過労死促進法案」の異名があったのは周知の事実である。
この法案は、首相・アベちゃんの下で法案化され、国会提出直前まで行ったが、国民世論の激しい反発に遭い、結局、国会で審議すらできずに葬られ「成仏」した。
4 死の会議・産業競争力会議
(1)トップはまたしてもアベちゃん
しかしここへ来て、成仏したはずの残業代ゼロ法案を冥界から呼び戻そうとする人々がうごめきはじめた。主導している「産業競争力会議」は歴とした政府機関である。会議の名簿を政府のHPから取得してこのエントリの最後に付けておいたが、またしても、トップはアベちゃんである。この人、本当に懲りないね。産業競争力会議は、残業代ゼロ法案の他にも、今、国会に提出されている労働者派遣法改悪法案の主導するなど(この法案も要注意である。詳細は佐々木亮弁護士の「派遣労働の不安定さの理由と派遣法改正案が持つ危険性」参照)、この間の国民世論の反発でやっと(ほんの少しだけ)まともになった労働法制を、ふたたび地獄に引きずり落とそうとする「死の会議」である。
(2)口火を切ったのは「アリナミンでおなじみの武田薬品」社長
今回、残業代ゼロ法案議論の口火を切ったのは武田薬品工業社長の長谷川閑史である。この会社は先日、糖尿病の薬「アクトス」の発ガン性リスクを隠していたことで、米国で6200億円の巨額賠償を命じられたばかりだが、一般消費者向けの主力商品は言わずと知れた「アリナミン」である。そうか!労働者が残業代ゼロ法でヘトヘトに疲れれば、アリナミンが沢山売れるかもしれない。さらに疲労が増せば、消費者がグレードアップしてEXゴールドにしてくれるかもね!
筆者は栄養ドリンクが苦手なのでもともとほとんど買ったことはないが、上記報道に接し、アリナミンだけは絶対に買うまいと固く誓った。もうすぐ5月1日のメーデーだが、連合も、全労連も、全労協も、今年のスローガンは「万国の労働者は団結してアリナミンを不買せよ」でいいんじゃないだろうか。
(3)学者の皮を被ったパソナ会長の竹中平蔵
政府作成の産業競争力会議の名簿では、竹中平蔵は慶応大学教授となっているが、政府にしろ、マスコミにしろ、この御仁をいつまで学者として扱う気なのだろうか。竹中は2009年に人材派遣会社のパソナの取締役会長に就任しており、少なくともその後、辞任したという報道はない。パソナは、残業代ゼロ法案が成立すれば、主力商材たる派遣社員の賃金を大幅にカットできる可能性がある。バリバリの利害関係者である。生身の人間を中間搾取して儲けている会社の関係者が残業代ゼロ法案を推進する会議の議員をやっているなんて、どういうブラック・ジョークなんだろうか。
5 まとめ
ところで、アベちゃんも、賃金が上がらないと景気回復しないって、言ってなかったっけ?アベちゃんは、賃金を切り下げ、労働時間を増やすような法律作って、景気が回復すると本気で思っているのだろうか。こういう矛盾することを、政府にごり押しして自分たちだけ儲けようとするのが、今の財界中枢であり、日本経団連である。しかも、前回で懲りず、むしろ、適用される労働者を大幅に拡大しようとしているようである。最大限の批判を加えて、労働者派遣法改悪案に加え、残業代ゼロ法案をもう一度「成仏」させ、選挙でも自民党にお灸を据え、二度と甦らないようにする必要があると思う次第。
産業競争力会議 議員名簿(平成25年1月23日現在)
議長 安倍 晋三 内閣総理大臣
議長代理 麻生 太郎 副総理
副議長 甘利 明 経済再生担当大臣兼内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
副議長 菅 義偉 内閣官房長官
副議長 茂木 敏充 経済産業大臣
議員 山本 一太 内閣府特命担当大臣(科学技術政策)
議員 稲田 朋美 内閣府特命担当大臣(規制改革)
議員 秋山 咲恵 株式会社サキコーポレーション代表取締役社長
議員 岡 素之 住友商事株式会社 相談役
議員 榊原 定征 東レ株式会社代表取締役 取締役会長
議員 坂根 正弘 コマツ取締役会長
議員 佐藤 康博 株式会社みずほフィナンシャルグループ取締役社長 グループCEO
議員 竹中 平蔵 慶應義塾大学総合政策学部教授
議員 新浪 剛史 株式会社ローソン代表取締役社長CEO
議員 橋本 和仁 東京大学大学院工学系研究科教授
議員 長谷川 閑史 武田薬品工業株式会社代表取締役社長
議員 三木谷 浩史 楽天株式会社代表取締役会長兼社長