【月収】24万2326円と書いてあります。この金額を単純に比較すれば、他の日本を代表する企業の大卒初任給と比べてもなかなか高額です。
(http://wfs.hr-watami.net/recruit/index.html 2014.12.5現在)
一方、日本銀行の初任給はどうでしょうか。これもホームページで求人の募集要項を公表しており、
大卒 総合職 20万5410円と書いてあります。もちろん、職業に貴賎なしと言われます。しかし、社会一般の感覚として、ワタミの大卒初任給が日本銀行の大卒初任給より高くなる、ということはないでしょう。
特定職 20万0400円
一般職 19万5390円
短卒 17万5350円(※コースによる違いはありません)
(http://www.boj.or.jp/about/recruit/fresh/information/requirement.htm 2014.12.15現在)
なぜこのようなことが起こるのか。概略を記すと、日本銀行の大卒初任給は「月平均所定労働時間数」(労働基準法施行規則19条1項4号)に対応するものです。いわゆる所定労働時間に対するものです。これに対して、ワタミの「月収」には、「月平均所定労働時間数」に対応する賃金に加えて、残業や深夜早朝の労働を前提にして、労働基準法で定められた時間外割増賃金、深夜早朝割増賃金があらかじめ織り込まれています。いわゆる「固定残業代」です。
「月平均所定労働時間数」に対応するワタミの賃金は、同社のホームページの記載を前提にすれば、基本給のうち16万円のみです。結局、月平均所定労働時間数に対応するワタミの大卒初任給は、日本銀行の短大卒初任給17万5000円よりも低いことになります。
そして、この「月平均所定労働時間数」自体、
ワタミ>日本銀行
しかし、このような賃金水増しの求人広告は必ずしも禁止されていません。一方で、学校教育で労働基準法を教える機会がなく、それどころか大学の法律科目で労働法を選択しても一般的な大学教授はこんなことは教えてくれないので、日本の労働者は水増しを見破るための知識がありません。
必要なのは残業代を計算する知識
この水増しを見破るのに必要な知識は要するに残業代を計算するための知識です。残業代については125%という割増率はよく知られていますが、何に対する125%なのか、という点は実はほとんど知られていません。残業代は時給制で計算するので、元の賃金体系が時給制の場合は直感的に分かりやすいですが(実は時給制でもプラスして月給の精勤手当などが出ている場合はその分を加算する必要があります)、日本で広く普及している月給制の場合、正確な計算方法を知っている人はほとんどいないのではないでしょうか。そして、自分の給料について、残業代の計算をすることで、労働時間や休日など、自分の労働条件全般を把握することにもなるのです。
そこで本を書きました
そこで『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?−ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ』という本を書きました。12月22日発売です。もうAmazonでも買えます。下の写真をクリックしたらリンク貼ってます。タイトルはこんなんで、実際、ワタミの賃金のカラクリも詳しく述べていますが、本の内容はそれに止まりません。一冊の本で残業代をめぐる社会情勢、名ばかり管理職や固定残業代など残業代不払いの温床となる制度の打ち破り方、残業代の前提となる「労働時間」の考え方、証拠の集め方、残業代の計算方法、残業代の請求方法までを網羅した本です。一言でいえば「残業代を通じて社会と会社を分析する本」です。筆者も「何で?」と思うのですが、今まで一般向けのこういう本はなかったんですよね。自分のみを守るためにも、是非手に取っていただければと思います。
あと、セルフ出版記念ということで、今週金曜日(12月19日)に固定残業代について、来週月曜日(12月22日)にニセ裁量労働制についてもエントリを書きます。労働現場でも役に立つお思いますので、あわせてそちらもお読み下さい。