2015年02月17日

残業代ゼロの旗手・八代尚宏教授の論理破綻(あるいは公開討論の申し入れ)

 ここのところ、Yahoo!個人記事をはじめ、ネット上の様々なところで、政府が国会への提出に向けて作業を進めているホワイトカラーエグゼンプション法案(労働時間規制除外法案)について、残業代ゼロ法案、過労死促進法案として批判する言論がなされている。それぞれの言説が結構な数のアクセスを集めている(ように見える。ツイート数などを見るに)。筆者もYahoo!個人ページを持っており、この件について何回か書いている。
(佐々木亮)<残業代ゼロ・過労死促進法案>他人事ではない!〜年収1075万円は絶対に下げられる5つの理由
(佐々木亮)<残業代ゼロ制度>「時間でなく成果で評価される」という大ウソ〜ただのブラック企業合法化制度
(佐々木亮)政府が提案する「残業代ゼロ制度」(『定額¥働かせ放題』制度)についてのQ&A
(嶋崎量)簡単!残業代ゼロ法が成果主義賃金とは無関係である理由
(今野晴貴)新聞各社の誤報について 「残業代ゼロ」
(拙稿)「年収1075万円以上」の陰で拡大が懸念される営業職の残業代ゼロ
(拙稿)派遣法改悪の歴史が示す残業代ゼロ制度の未来
(拙稿)拙稿労働時間規制除外を「時間でなく成果」と誤報する風潮について

 それを意識してか、しなくてか、経済学者の八代尚宏氏が「「残業代ゼロ」法案=過労死法案の誤解を解く」と題して、これらの言説に対する反論文ともとれる文章をダイヤモンドオンラインにものして(筆者の周りで)凄く話題になっている。なぜなら、八代氏は政府の規制改革会議のメンバーであり、労働時間規制除外制度の代表的な推進論者だからである。

八代氏の言論の要旨
 筆者が勝手に要約したところによると以下の通りになる。
a.国際的にみて長過ぎる日本の労働時間は、労働者の健康を損ね、時間当たり労働生産性の向上を阻害するとともに、仕事と家庭の両立を図る働き方への大きな 障害となっている。この背景にあるのが、事実上、残業労働に割増賃金を義務付ける労働時間制度だ。
b.そのために米国類似の制度を導入するのが今回のWE法案である。
c.WEに欧州型の労働時間の上限を規制する仕組みと組み合わせることで、労働者の健康確保を担保する措置を図る。その措置とは、(1)仕事を終えてから翌日の仕事開始まで、例えば11時間の休息時間を設定、(2)実際の労働時間よりも幅広い在社時間等の健康管理時 間の制限、(3)例えば年間104日の休業日数を与える使用者の義務等、多様な基準での労働時間の上限を法律で制限することである。
d.法律で労働時間を規制することの本来の目的は、労働者の健康管理であり、賃金を増やすことではない。WE法案はそれを防ぐために、労働時間の上限を定める規制に改革するもので、本来は「過労死防止法案」と呼ぶべきである。
e.今回の改革案に対して「残業代ゼロ法案」とレッテル を張る論者は、「残業代さえ払えば、事実上、際限なく労働者を働かせても良い現行制度の方が望ましい」ということに等しい。
f.WE法案はもともとの長谷川試案では@1000万円以上の年収を稼ぐ社員であれば、企業との交渉力も高く、意に反した残業 を強制される可能性は小さい、A年収水準はそれほど高くなくとも、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する職種であれば、自分で労働時間 を管理することが容易なので@Aの両方にWEを導入すべしとしていた。また対象職種はネガティブリスト(禁止職種だけ指定)とすべきである。
g.WEで、専門職の内でも、短時間で効率的に働く社員の報酬が増える半面、長時間労働で仕事の質の低さを補ってきた社員の報酬が抑制される可能性は否定できない。
h.いくら労働基準監督署の機能を強化しても、法を守らない事業者はあとを絶たないので、労働者を保護するためには「労働条件の悪い企業を辞める権利」を確保すべきであり、そのためには雇用の流動化(筆者註:解雇規制の緩和?)が必要である。WEと雇用の流動化がセットになって「労働時間の短縮化を含む労働者の保護」を実現できる。

突っ込み所満載
 上記a〜gのどれもが突っ込み所満載で、例えば、なぜ労働時間に関する規制を除外して雇用を流動化させると労働時間が短くなるのか、経済学者であれば数式や模式図で説明できそうであるが、筆者は不勉強なのでそういう言説を見たことが無い。逆に、法律により正式に残業代ゼロ職場になっている公立学校の教員は超長時間残業が社会問題になっていることは知っている(拙稿「公立小学校の先生を減らしちゃダメです」参照)。
 また、ダラダラ残業は企業(使用者)がやらせなければいいだけのことなのでWEとは何の関係もないだろう。ダラダラ残業の防止でなぜ効率よく働く人の報酬が増えるのか、これも模式図で説明して欲しいものだが、できないのか、制度の推進論者なのに「可能性がある。」などとえらく弱気なことを仰る。
 また、過労死防止法案だというが、cの健康確保担保措置は3つのうち一つをやればよく、ほとんど過労死の歯止めにはならない(この点について佐々木亮「過労死を促進させる「残業代ゼロ」法案を「過労死防止法案」と呼ぶべきとする珍論について」参照)。

単純な論理破綻
 しかし、それ以上に、八代氏の言論は深刻な論理上の問題を抱えている。すなわち、八代氏の論理によれば、今の労基法の労働時間規制では過労死を防げないが、WE法案は過労死防止法案だ、ということになる。
 ところが、今回のWE法案では、例えば使用者が(3)の健康確保担保措置を怠って制度導入が違法となった場合、八代氏が「残業代さえ払えば、事実上、際限なく労働者を働かせても良い現行制度」と貶める現行制度に戻るだけなのだ。つまり、八代氏がいうところの「過労死防止法」を使用者が破ろうとすると、法律による強力なバリアが働く訳でも、使用者がただちに刑務所にぶち込まれるわけでもなく、労働者には、現実の過労死が発生する職場によくある単なるサビ残地獄が待ってるだけなのである。結局、八代氏の論理を前提にして過労死防止法たるWE制度が導入されても、使用者がそれを脱法して労働者に長時間労働させると過労死を防止できない現行制度に戻るだけで結局過労死を防止できない。
 こんな言葉をネット上でも現実世界でも使ったことはほとんど無いんだけど、あえて言っちゃおうと思う。
はい論破。


公開討論を申し込む!
 しかし、安倍政権がこの制度の本質をまともに説明しようとしない中、推進派の中心人物が一定かみ合った議論を仕掛けてきたことは重要だと思う。この際、WE制度について、ニコニコ動画とかで中継して、ブラック企業対策弁護団VS八代尚宏教授の公開討論を行ったらどうだろう。まあ、当面はダイヤモンドオンラインでも良いので、八代氏がさらに意見を陳述することを期待したい。
posted by ナベテル at 19:27| Comment(2) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お前が残業代払えば。
Posted by 渡辺輝人 at 2015年02月25日 04:43
先生に聞いてみたところ、「ルールを守らない前提で言えばどんな制度も破綻するじゃないか。労働基準監督署の強化はWEに関係なく必要。また、その人員はハローワークを民営化して充てればよい。」とおっしゃていました。
Posted by at 2015年06月16日 10:28
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