ここで重要なのは、政府見解を出す直前まで、安保法制の合憲性根拠について、政府の中でも見解を統一できておらず、出先のドイツにいた安倍首相のところまで、翌日の政府見解の骨子すら伝えられていなかった、ということだろう。政府がこの問題で動揺し、慌てていたことがこのことに現れているように思う。
そのような火消しにも関わらず、安倍首相の記者会見も、翌日の政府見解も、マスコミを含めた国民世論の激しい反発に遭い、直近の日本テレビの世論調査では、安倍政権の支持率が発足後最低となり、支持・不支持がかなり拮抗する状態になっている。
実は安倍首相はその後、安保法制について公に口を開いていない。最高裁がどうとか、最高裁なんかどうでも良いとか、過激な発言をしているのは主に高村正彦、稲田朋美、谷垣禎一など「政府・与党」という場合の与党側の人間だ。政府側では菅官報長官、中谷防衛大臣が矢面に立つ形にして、安倍首相は言及しないようにしているようにも見える。安倍首相がこの問題で失言すれば内閣支持率に直結するはずなので、容易に発現できない状態になっているのではないだろうか。
橋下市長との密談と野党分断の謀略
そして、そのような安倍首相が次に放った手は、謀略だった。昨日、安倍首相は大阪市の橋下徹市長と都内で会食し3時間も話をしたという。その途端、橋下氏は今日ツイッターで以下のように述べた。
維新の党は民主党とは一線を画すべき。自民党と国の在り方について激しく論戦できる政党を目指すべき。維新はイデオロギーにとらわれず、既得権に左右されず、現実的合理性を重視する。空理空論の夢物語りだけでは行政運営はできない。責任ある立場での現実的合理性を重視する。民主党とは決定的に違う
— 橋下徹 (@t_ishin) 2015, 6月 15
しかしこの橋下市長の突然の「民主斬り」の発言は、「現場を知らないくせに」「選ばれた政治家じゃないくせに」などと手前勝手な理屈で論敵を罵倒し続けた橋下市長の過去の発言からすれば、明らかに一貫性がない。なぜこんな発言を今さらするのか。
謀略の政治家・橋下徹
橋下市長は、5月17日の「大阪都構想」の住民投票について、実施そのものについても、創価学会の本部と取引をしたと言われている。大阪の公明党は住民投票実施自体に反対だったが、昨年の総選挙後に「鶴の一声」で、実施には賛成する方針に無理矢理転換させられた。その陰には橋下−菅−創価学会本部というラインがある、と言われる。また、住民投票での劣勢が報道されると、橋下市長は5月5日(住民投票の運動期間中)に東京に詣で、また創価学会幹部と接触したと言われる。その際かどうかは分からないが、住民投票後に読売新聞が報道したところでは、橋下市長は「大阪都構想」が実現した場合には、新しい「区」の区長のいくつかを公明党に「譲ってもいい」と創価学会幹部に伝えていた、とされる。このように、橋下市長という人は、表向きの顔とは事なり、終始、駆け引きと政治謀略の人なのだ。
橋下市長は大阪市長であって国政との関係では一国民だし、国会内部の細かい情勢も直接は知らないはずだからだ。そして、謀略をもって政治信条とする橋下市長が、安倍政権に対して無償の協力をするはずはないと推測する。
結局、橋下市長と安倍首相の間で、何か取引がされた可能性がある。筆者の関心は、むしろ、安保法制で容易に発言もできない状況に追い込まれた安倍首相が一体どのようなお土産を持っていったのか、という点にある。
6月17日の党首討論が直近の山場になる
そのように、自らの口で国民に理解を求めるのではなく、謀略による野党切り崩しで安保法制の活路を見いだそうとしている安倍首相だが、直近の時期で絶対に避けて通れないのが、6月17日の党首討論だ。ここで、民主党岡田代表、共産党志位委員長の論戦は、特に注目すべきだろう、と思っている。攻撃の材料は揃っている。政治謀略は脇に置いておいて、政治家らしく、論戦で安倍首相を撃沈して頂きたいと切に願う。
ついでに言うと、国民世論を前によろめいている政府に対して、汚い手で協力する大阪方の維新の党は、もう「新撰組」に改名したらいいんじゃないかと思う。協力するなら、コソコソやらずに旗幟を鮮明にし、安倍政権と運命をともにすべきだ。