2016年06月28日

高度P制(残業代ゼロ)法案は参院選の重要争点です

 7月10日が投票日の参議院通常選挙の選挙戦もいよいよ佳境に入ってきましたね。筆者は労働弁護士を名乗っているので、その観点から、労働者の生活全般に大きな影響を与える可能性がある争点を指摘したいと思います。
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法案は継続審議で参院選後に動き出す
 現在、国会に係属中の法案で、今後の労働者の働き方に大きな影響を及ぼす可能性があるのが、政府が国会に提出した「労働基準法等の一部を改正する法律案」です。政府・与党(自民党・公明党)の説明によると労働時間と賃金を切り離した「高度プロフェッショナル制度」などの導入をする法案であり、野党の説明によると「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」とされます。労働弁護士の界隈では「定額¥使い放題」法案とも言われています。
 この法案、今年の通常国会では審議されませんでしたが、廃案になったわけではなく、現在、衆議院で「閉会中審査」の対象となっています。

概要その1(裁量労働制の拡大)
 この法案、実は、主に二つの制度から成り立っています。一つは「裁量労働制」の拡大です。これは労使で一定の手続を経ると、現場で労働者がどんなに働いても、事前に決められた労働時間だけ働いたことになる制度です。厳密には労働時間のみなし制度なので、筆者や他の労働弁護士などは「定額¥使い放題」制度と呼んでいます。
 この法案ではこの裁量労働制の拡大が盛り込まれており、特に現場への影響が懸念されるのは
法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売又は役務の提供に係る当該顧客との契約の締結の勧誘又は締結を行う業務

への対象の拡大です。いわゆる「提案型営業」ですが、法人相手の営業マンの多くは、日本語の字面ではこの要件に該当しますね。また、法律上厳密には該当しなくても、隣接する労働者に脱法的に適用されてきたのが労働基準法の常です。現在の法制度では、営業マンなど外勤の労働者に残業代を支払わないのはほとんどの事例で真っ黒な違法(従って是正可能)ですが、現場では残業代を支払わない実態が横行しています。そういうブラック企業が、この制度に飛びつく可能性があります。裁量労働制には「年収1000万円以上」などの年収要件がないため、この法案が成立すれば、外勤の労働者にこの制度が脱法的に導入され、ますます規制が難しくなるのが大きな懸念材料です。

概要その2(高度プロフェッショナル制度)
 二つめは「高度プロフェッショナル制度」と言われ、年収1075万円程度以上の労働者について、一定の要件の下、労働基準法の労働時間規制を撤廃するものです。労働時間規制には残業代による規制も含まれるため、これを指して政府は「労働時間と賃金のリンクを切り離す」といい、読売・日経などは「脱時間給」といい、野党は「残業代ゼロ法案」と言うのです。
 一方、拙稿「残業代ゼロ法案を図示するとこうなる」で指摘したように、この法案が成立すると、対象となる労働者は、いわゆる“過労死ライン”をはるかに超える労働を慢性的に強いられる可能性があります。この法案が「過労死促進法」の異名をとるのはそのためです。当面、この法案が想定するのは年収が1075万円を超える労働者だけですが、労働者派遣法など他の法制の拡大経過や上述の裁量労働制の拡大の経過を見る限り、将来、年収要件が引き下げられ、適用が拡大される可能性は十分あります。

正真正銘・アベノミクスの一部である

 この「高度プロフェッショナル制」などの導入は、安倍政権の経済政策である「アベノミクス」の最初の三本の矢のうち、3つめの成長戦略の中に明確に位置づけられていました。首相官邸のホームページにも今でも以下の文言が残っています。
時間が人を左右するのではなく、人が時間を左右する働き方へ!
時間ではなく成果で評価される働き方をより多くの人が選べるようになります。
政府の主な取組
一定の年収要件を満たし、高い能力・明確な職務範囲の労働者を対象に、労働時間と賃金のリンクを切り離した働き方ができる制度を創設します。
「首相官邸ホームページ人材の活躍強化 〜適した仕事を選べます〜」より

 ここにある「労働時間と賃金のリンクを切り離した働き方ができる制度」が高度プロフェッショナル制のことを表しています。結局、この法案は明確に、安倍首相が選挙争点にしている「アベノミクス」の一部なのです。なお、政府は、この法案について「時間ではなく成果」で賃金が支払われる制度と言いますが、法案には、成果による賃金支払を義務づける部分も、成果測定の一般原則も、何も決まりがありません。

野党の対応
 野党は、この法案には反対しており、昨年の国会で審議されたものの、この法案はまだ成立していません。
 また、労働者全体にインターバルの導入(前日の労働とその次の日の労働の間に一定の休息時間の導入を義務づけ)、使用者による労働時間把握義務の強化(罰則の導入)などを求める労基法改正法案を国会に提出、係属しており、他の争点はともかく、この争点での与党と野党の対立軸は明確になっています。すなわち労働時間の規制緩和(与党)と労働時間の規制強化(野党)が争点です。
2016/4/19時事通信「長時間労働規制法案を提出=上限設定など求める−野党4党」
法案はこちら→「労働基準法の一部を改正する法律案」

政治はあなたを待ってくれない
 大手のメディアが詳しく報道しなくても、選挙争点の報道がピンぼけしていても、選挙後の政治は、あなたを待ってくれません。安倍政権が掲げる「時間ではなく成果による賃金」という成長戦略を信頼して与党に一票を投じるのか、その本質を「定額使い放題」「残業代ゼロ」だとする野党を信じて一票を投じるのか、有権者の判断が待たれています。
Yahoo!より転載。http://bylines.news.yahoo.co.jp/watanabeteruhito/20160627-00059313/
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2014年12月17日

ワタミの大卒初任給はなぜ日本銀行より高いのか

 近年、“ブラック企業”と批判され、社会情勢のなかで売上が減少して、2014年3月期の連結決算ではついに赤字に転落してしまったワタミ(ワタミ株式会社)ですが、この企業は新卒の労働者募集においても大きな特徴を持っています。同社の100%出資子会社で居酒屋などを経営するワタミフードサービス株式会社(以下「ワタミ」)の大卒求人の募集要項をホームページで見ると、「店長候補」の初任給は
【月収】24万2326円
http://wfs.hr-watami.net/recruit/index.html 2014.12.5現在)
と書いてあります。この金額を単純に比較すれば、他の日本を代表する企業の大卒初任給と比べてもなかなか高額です。
 一方、日本銀行の初任給はどうでしょうか。これもホームページで求人の募集要項を公表しており、
大卒 総合職 20万5410円
特定職 20万0400円
一般職 19万5390円
短卒  17万5350円(※コースによる違いはありません)
http://www.boj.or.jp/about/recruit/fresh/information/requirement.htm 2014.12.15現在)
と書いてあります。もちろん、職業に貴賎なしと言われます。しかし、社会一般の感覚として、ワタミの大卒初任給が日本銀行の大卒初任給より高くなる、ということはないでしょう。
 なぜこのようなことが起こるのか。概略を記すと、日本銀行の大卒初任給は「月平均所定労働時間数」(労働基準法施行規則19条1項4号)に対応するものです。いわゆる所定労働時間に対するものです。これに対して、ワタミの「月収」には、「月平均所定労働時間数」に対応する賃金に加えて、残業や深夜早朝の労働を前提にして、労働基準法で定められた時間外割増賃金、深夜早朝割増賃金があらかじめ織り込まれています。いわゆる「固定残業代」です。
 「月平均所定労働時間数」に対応するワタミの賃金は、同社のホームページの記載を前提にすれば、基本給のうち16万円のみです。結局、月平均所定労働時間数に対応するワタミの大卒初任給は、日本銀行の短大卒初任給17万5000円よりも低いことになります。
 そして、この「月平均所定労働時間数」自体、
ワタミ>日本銀行
なので、一時間当たりの賃金単価はさらに差がつき、日本銀行の労働条件のほうが労働者に有利になります。つまり、ワタミの賃金はいわば水増しされたものなのです。
 しかし、このような賃金水増しの求人広告は必ずしも禁止されていません。一方で、学校教育で労働基準法を教える機会がなく、それどころか大学の法律科目で労働法を選択しても一般的な大学教授はこんなことは教えてくれないので、日本の労働者は水増しを見破るための知識がありません。

必要なのは残業代を計算する知識
 この水増しを見破るのに必要な知識は要するに残業代を計算するための知識です。残業代については125%という割増率はよく知られていますが、何に対する125%なのか、という点は実はほとんど知られていません。残業代は時給制で計算するので、元の賃金体系が時給制の場合は直感的に分かりやすいですが(実は時給制でもプラスして月給の精勤手当などが出ている場合はその分を加算する必要があります)、日本で広く普及している月給制の場合、正確な計算方法を知っている人はほとんどいないのではないでしょうか。そして、自分の給料について、残業代の計算をすることで、労働時間や休日など、自分の労働条件全般を把握することにもなるのです。

そこで本を書きました
 そこで『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?−ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ』という本を書きました。12月22日発売です。もうAmazonでも買えます。下の写真をクリックしたらリンク貼ってます。タイトルはこんなんで、実際、ワタミの賃金のカラクリも詳しく述べていますが、本の内容はそれに止まりません。一冊の本で残業代をめぐる社会情勢、名ばかり管理職や固定残業代など残業代不払いの温床となる制度の打ち破り方、残業代の前提となる「労働時間」の考え方、証拠の集め方、残業代の計算方法、残業代の請求方法までを網羅した本です。一言でいえば「残業代を通じて社会と会社を分析する本」です。筆者も「何で?」と思うのですが、今まで一般向けのこういう本はなかったんですよね。自分のみを守るためにも、是非手に取っていただければと思います。
 あと、セルフ出版記念ということで、今週金曜日(12月19日)に固定残業代について、来週月曜日(12月22日)にニセ裁量労働制についてもエントリを書きます。労働現場でも役に立つお思いますので、あわせてそちらもお読み下さい。

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2011年03月31日

危険な福島第一原発で働く人の保護を

 超久しぶりにブログを更新する。最近、発信したいことは大抵ツイッターで済ませてきたのだが、やはり、情報量が多くなるとブログの方が向いている。
 なんでブログを更新する気になったかというと、福島第一原発で決死の復旧作業をしている方々があまりに劣悪な環境で作業に従事している情報が次々に入ってくるからだ。僕は、15〜16年前に『週刊金曜日』の記事で、原発労働者が作業中の放射線量を量る「線量計」を外して仕事をする実態を読んだことがある。外すのは、もちろん、付けたらすぐ限界値に達してしまい、作業にならないから。当時、とても衝撃を受けて鮮烈に覚えていたので、今回の事故後に真っ先に心配になったのは現場で働く人たちの健康だった。そして、事故後に漏れ聞こえてくる情報を総合すると、今の福島第一原発で実際の危険な作業に当たっている作業員の多くは「協力会社」というヘンテコな名前の付いた下請け会社の従業員。「原発ジプシー」と言われる究極の非正規労働者もいるようだ。こういう人たちが危険な原発で黙々と働き、多量の放射線を浴びて健康を害する状況を放っておくのは耐えられない。

労働者の大量被ばく・放射線管理の不徹底
 厚生労働省は、東電原発事故後の3月15日、現場の労働者の年間の放射線被ばく制限値を100mSvから250mSvに引き上げた。もちろん、緊急事態を受けたもので厚労省は「被曝した作業員の健康管理には万全を期す」と言っていた。
被曝線量の限度引き上げ…福島第一の作業員限定(2011年3月15日22時31分 読売新聞)
 放射線の専門家でつくる「国際放射線防護委員会」が示す国際基準では、緊急作業時の例外的な被曝線量の限度は約500ミリ・シーベルト。厚労省によると、250ミリ・シーベルト以下で健康被害が出たという明らかな知見はないといい、同省は「被曝した作業員の健康管理には万全を期す」としている。

 しかし、その後に流れてくる情報は「万全を期す」とはほど遠い、というか、東電が高放射線が出ていることを下請会社に教えず、現場でもアラームを無視したり、そもそも放射線量を量ってすらいないことが次々に明らかになった。
福島第1原発:作業員被ばく 線量計警報、故障と思い無視(毎日新聞 2011年3月25日 11時42分)
 東京電力福島第1原発3号機で作業中の作業員3人が被ばくした問題で、東電は25日、線量計は正常に警報が鳴ったものの、3人は線量計の故障と思って作業を続けていたと説明していることを明らかにした。

東電、2号機の高放射線量を事前把握 作業員らに伝えず(朝日新聞2011年3月26日18時32分)
東京電力福島第一原子力発電所(福島県大熊町、双葉町)3号機のタービン建屋内で起きた作業員3人の被曝(ひばく)で、3人が作業に入る6日前の18日、2号機のタービン建屋地下で、通常時に比べて異常に高い放射線量を確認しながら、東電は作業員に注意喚起をしていなかったことがわかった。東電は「情報共有が早ければ被曝を防げた可能性がある」と認め、謝罪した。

一部作業員の被ばく量量れず(NHK2011年3月31日 19時8分)
 東電福島事務所によると、6日前の18日、2号機のタービン建屋地下1階で放射線量を測定したところ、作業員の被曝線量の上限(250ミリシーベルト)を上回る毎時500ミリシーベルトだった。
東京電力では、被ばく量を量るのに必要な線量計の多くが地震で壊れたとして、一部の作業グループでは代表者にしか持たせず、作業員一人一人の被ばく量の管理ができていないことが分かりました。

 東電が現場の労働者に高放射線のゾーンをあえて教えず、現場では下請会社が放射線量を計らず、計っても無視したら、放射線量の基準なんてあっても意味がない。

体力を回復できない劣悪な作業環境
 放射線で傷ついた遺伝子(DNA)は健康な人については休息(睡眠)を取ることで回復する。しかし、十分な睡眠や食事を取れず、体力の回復を図れない状態が続けば、規定以下の放射線でもDNAはダメージを受けやすくなる。そして、現場の人たちが置かれている状況は正にそういうものだ。
東電「決死隊」1日2食の劣悪環境 一時は水も1・5リットルのみ(産経新聞3月28日(月)15時13分)
横田氏<渡辺註:原子力安全・保安院の横田一磨統括原子力保安検査官>は作業状況などの確認のため、22〜26日に福島第1原発を視察。現場では新たな水、食糧などが入手困難な状況で、一時は1日あたり1人に提供される水の量は「1・5リットル入りペットボトル1本」だったという。
 水に関しては、その後改善されたが、食事は朝、夜の1日2食で、朝食は非常用ビスケットと小さなパック入り野菜ジュース1本、夕食は「マジックライス」と呼ばれる温かい非常用ご飯1パックと、サバや鶏肉などの缶詰1つだけだという。
 マジックライスは「ワカメ」「ゴボウ」「キノコ」「ドライカレー」の4種類から選べるという。
〜中略〜
 下着など衣服も不十分で「着替えも難しい」(同)ほか、免震棟内は暖房が入っているとはいえ、夜間は毛布1枚づつしか与えられず、底冷えする中で眠っているという。

 この記事では、労働者の環境に対して責任を持とうとしない原子力安全・保安院の担当者の「協力したいが基本的には事業者(東電)の問題。大変厳しい環境で作業に必要なエネルギーを得られていないと思う」という発言も特徴的だ。そして、こういう作業環境は偶然に生まれたものではなく、どうも現場の感覚がそういう風になっている気がしてならない。
福島第二原発で勤務する労働者のブログ
所長の言葉:「福島第一、第二原子力発電所所員に『人権』なし!!」

 今、福島第一原発では、圧力容器の中にあったはずのウラン燃料が水を通して直接外気に放出される状態になっていて、あちらこちらで超高濃度の放射線が計測されている。このような極めて過酷な環境下で、不健康な労働者が勤務すれば、健康を害す可能性は非常に高くなるだろう。

強引な労働者募集・生活のために辞められない労働者

 しかも、下請業者の労働者たちは、もともと、好きで働いているわけではなく、生活のためにやむなく危険な仕事をしている。今、福島第一原発での仕事を拒否すれば、職を失う不安を抱えているのだ。
福島第1原発:英雄でも何でもない…交代で懸命の復旧作業(毎日新聞2011年3月21日 13時41分)
 それでも現場行きを決めたのは「原発の仕事をしてきた職業人としてのプライドより、沈静化した後のこと」だという。「これからもこの仕事で食べてい きたいという気持ち。断ったら後々の立場が悪くなるというか。今の会社で、またこういう仕事を続けていきたい気持ちなんで、少しでも協力し、会社の指示に できることは従って(やっていきたい)」と淡々と話した。
 現在、現場で作業に携わっているのは東電と子会社の東電工業、原子炉メーカーの東芝、日立のほか、鹿島、関電工やそれらの関係会社など。電源復旧 では送電で4社、変電で5社、配電で3社という。地震発生直後に約800人いた作業員は15日の4号機の爆発による退避で一時約50人まで減ったとされる が、それ以降は300〜500人で推移。18日に米軍に借りた高圧放水車で3号機に放水したのも、東電工業の社員2人だった。
 また、一度現場を離れた労働者たちも、高額の日当で頼み込まれて現場に戻っている状況がある。

 危険な環境で作業する労働者たちの募集は命の値段としてはあまりにも安いが、生活する上では相当高額な日当だ。
下請け会社職員原発に戻る覚悟 日当8万円で復帰の同僚も(スポニチ2011年3月31日 06:00)
 福島県双葉町の町民が集団避難しているさいたまスーパーアリーナには、東電が「協力企業」と呼び、福島第1原発で復旧作業を続ける下請け会社の職員も避難。40代の男性は社長から「手伝ってくれないか」と懇願され、近く第1原発に戻るつもりだ。「覚悟はしている。仲間が現場で戦い、交代を待っている。今 すぐにでも行ってやりたい」と話した。別の男性によると、日当8万円という条件で既に職場に戻った同僚もいるという。

 菅首相は福島第一原発からの撤退はあり得ない、と明言した。言うまでもないが、菅首相は民主的に選ばれた僕らの代表だ。僕は、当初、「安全」な原発の上にあぐらをかいて快適な生活をしてきた自分がこの人たちを無理矢理働かせる側にいることに戦慄したが、誰かがこの「汚れ役」を引き受けないと、日本全体、人類全体が生物学的に重大な危機にさらされることも自明だ。今は、安全圏にいる日本国民全体が「殺す側」に回っていることの自覚とその立場を引き受ける覚悟も必要だと思う。

労働者の健康管理の徹底と長期の医療・生活補償を
 国、東電が「安全だ」と言い続けた結果の今回の事故だ。その尻ぬぐいを経済的や社会的な状況から不本意ながらやらされる労働者を、国が責任をもって手厚く保護しなければならないのは言うまでもない。しかし、そもそも、国、東電は、今、福島第一原発で働いている下請労働者たちの氏名を把握しているのだろうか。今のような無茶苦茶な環境で働かせれば、将来、健康を害する労働者が出てきてもおかしくない。国と東電に求められるのは、今働いている労働者の健康管理の徹底と、将来にわたる医療補償、健康を害したときの生活補償だと思う。
 実際、医療関係者から、生涯にわたる医療補償の提言がなされている。

「英雄」ではない「被害者」である原発事故作業員に、生涯にわたって医療補償を
有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
木村 知
2011年3月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 この問題、現場の深刻さに比べて、まだまだ社会的な関心が集まってないように思う。多くの人が声を上げて、政府が対策を取ることを願う。
(2011.4.1追記)

資料編
原発で勤務していた労働者の現場の実態についての証言
http://www.iam-t.jp/HIRAI/pageall.html#page2

日本の原発労働者の実態についての調査番組(イギリス・チャンネル4放送)
http://ow.ly/4eVny
http://ow.ly/4eVnz
http://ow.ly/4eVnA
 
原発労働者の安全衛生に関する厚労省のパンフ
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-4a.pdf
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-4b.pdf
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-4c.pdf
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2010年08月18日

阿久根・仙波副市長が組合差別をやる気

 阿久根市の副市長になった仙波敏郎さんが早くも暴走を始めている。竹原市長と気が合う時点で嫌な感じはしていたんだが・・・
3課職員、市職労から脱退を=仙波氏が求める−鹿児島県阿久根市
8月17日11時41分配信 時事通信

 鹿児島県阿久根市副市長に市長の専決処分により就任した仙波敏郎氏は17日までに、市総務課、企画調整課、財政課に所属する職員全員に、市職員労働組合からの脱退を求める方針を同市課長会で示した。竹原信一市長も同意しているという。
 市によると、これら3課には35人の職員がいる。仙波氏は「市組織の中枢部に職員労組の人がいるのは考えられない」と発言。さらに「職員労組の顔色をうかがい行政改革を断行できないのはおかしい」とした上で、「市職労を脱会しない人は課を異動してもらう」と述べたという。これに対し、自治労鹿児島県本部は「組合員であることを理由に不利益な取り扱いをすることを禁じた地方公務員法の規定に違反する」との見解を示している。

 これ、法律に違反して、だめでしょ。
 公務員の場合、労働組合のことを「職員団体」というが、職員団体に加入していることをもって他の職員と差別的に取り扱うと、56条の「不利益取り扱い禁止の原則」に反する。地公法には、民間労働者みたいな「不当労働行為」の救済措置がない。法律を無視した不利益取り扱いはあり得ないし、想定されていない。救済措置がないことと、差別が想定されていないことは裏表の関係だ。罰則がないのをいいことに、法律を破ることは、絶対にしてはいけないのだ。
地方公務員法
(職員団体)
第五十二条  この法律において「職員団体」とは、職員がその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体をいう。
2  前項の「職員」とは、第五項に規定する職員以外の職員をいう。
3  職員は、職員団体を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができる。ただし、重要な行政上の決定を行う職員、重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員、職員の任免に関して直接の権限を持つ監督的地位にある職員、職員の任免、分限、懲戒若しくは服務、職員の給与その他の勤務条件又は職員団体との関係についての当局の計画及び方針に関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが職員団体の構成員としての誠意と責任とに直接に抵触すると認められる監督的地位にある職員その他職員団体との関係において当局の立場に立つて遂行すべき職務を担当する職員(以下「管理職員等」という。)と管理職員等以外の職員とは、同一の職員団体を組織することができず、管理職員等と管理職員等以外の職員とが組織する団体は、この法律にいう「職員団体」ではない。
4  前項ただし書に規定する管理職員等の範囲は、人事委員会規則又は公平委員会規則で定める。
5  警察職員及び消防職員は、職員の勤務条件の維持改善を図ることを目的とし、かつ、地方公共団体の当局と交渉する団体を結成し、又はこれに加入してはならない。

(不利益取扱の禁止)
第五十六条  職員は、職員団体の構成員であること、職員団体を結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと又は職員団体のために正当な行為をしたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。

 仙波敏郎さんは、警察のヤミ金を暴いた勇気ある人として尊敬してたんだけど、それが、がらがらと崩れ始めている。無法を強行するようなら、市長と、副市長相手と市を相手に損害賠償請求をするべきだろう。
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2010年07月24日

社会保険庁の分限免職問題で提訴した感想

 旧社会保険庁の職員が分限免職処分(民間の整理解雇みたいなもの)されていた事件で、今日、京都地裁に集団提訴してきた。
元社保庁「解雇」職員、初の集団提訴 
日本経済新聞2010/7/23 20:12

 昨年12月末の旧社会保険庁廃止に伴い、民間の解雇に当たる「分限免職」処分となった旧社保庁の元職員15人が23日、国に処分取り消しを求めて京都地裁に集団提訴した。元職員が分限免職処分を巡って集団提訴するのは初めて。今後、全国に広がる可能性もある。

 訴状では、(1)旧社保庁の後継組織、日本年金機構で1千人超の民間人を採用したのに元職員を分限免職処分とする必要性はない(2)国は分限免職を回避する努力義務を怠った(3)過去の処分歴を実質的な理由とする不採用は違法な二重処分だ――などと主張している。

 提訴を支援する全厚生労働組合は「年金記録問題などの制度的・組織的な責任を職員に転嫁し、身分まで奪うのは許せない」としている。

 年金記録をのぞき見したなどで懲戒免職を受けていた元職員ら525人は昨年末、日本年金機構などに移れず、分限免職処分で失職した。法律などで身分が保障された公務員の大量解雇は終戦直後を除き過去に例はない。

 杜撰な年金行政に対する国民の怒りはとても強い。それは保険料を納めた者の権利として当然だと思うが、全体としては「誰か」に上手く誘導されてしまって、問題の本質とは関係なく、「生け贄」にされた個々の職員が袋だたきの状態になっている。それで年金の様々な問題が解決するわけでもないのに。

 そういう世論の批判の矢面に立つのは、「代理人」という立場ですら、正直辛いものがある。しかし、嵐のような世論に耐え、中には精神を患いながらも、自分が生まれる前からあった(年金記録の杜撰な管理は1950年代から指摘されていたことだ)年金記録問題に、昼夜を分かたず必死に立ち向かっていた人たち、そうであるにも関わらず、「生け贄」にされた人たちの無念に向き合ってしまうと、俄然、火が付く自分がいるのもまた確かだ。

 さて、上の記事だが、間違っている箇所がいくつかある。分限免職処分された525人の中には、処分歴が全くない人も相当数含まれている。あと、懲戒処分は受けても、懲戒「免職」はされてないと思うぞ。

 処分歴がある人でも、処分自体がでっち上げに近いものである人も多い。代表的には「のぞき見」による処分だが、カードを事実上共有して使っているような状況で、自分のカードで他人が「のぞき見」したことで責任を問われた人も多い。そもそも「のぞき見」といっても情報を外に漏らしたわけでもない。職場でその種の「のぞき見」禁止が徹底されていたわけでもない。もちろん、「のぞき見」自体は是正されなければならないが、そんな厳しい規律で人を裁いていたら、民間の職場だって、処分の連続で崩壊するだろう。

 そういうことで「問題職員」を仕立て上げて、税金で養成した専門家を「生け贄」として職場から排除することは、まさに税金の無駄に他ならない。年金記録問題は超複雑な世界だ。専門家は記録の統合作業に当たって頂くのが一番、国民の為になるのだ。

 この裁判、苦しい闘いになっていくと思うが、頑張ろうと思う次第。
posted by ナベテル at 02:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 労働問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする