2010年01月20日

可視化やれ、政治的駆け引きは御免

 民主党が今国会に取調可視化法案を提出する可能性があるという。これはこれで是非やってもらいたいし、結構なニュースだ。しかし、今、このタイミングで民主党幹部がこの発言をするのは、政治的な文脈があるような気がしてならない。

 検察庁と警察は取調が可視化されることを極度に嫌がっている。なだめすかし、脅し、場合によっては嘘までついて自白を獲得している実態が国民にばれるのが嫌なのだろう。司法修習中、検察官は「取調の中で被疑者と信頼関係が生まれて話してくれる」という話を真面目にしていたが、この手の話は僕は何となく気持ち悪くて好きになれなかった。権力者と権力者から現に追求を受けている者の間に本質的な意味で信頼感が生まれるとは容易には受け入れられない。被疑者にそう誤信させているのではないのか。

 小沢氏の身辺に捜査が及んでいる状況で、検察庁が嫌がる話題を持ち出してプレッシャーをかけているような気がしてならない。現に、自白をしたにもかかわらず、本当は無罪だった例がここ2〜3年の間にも沢山現れている。被疑者、被告人の人権を全うするためには取調の可視化は必須だ。検察との取引に使われる材料ではない。そういうことは、止めていただきたい。法案を提出する、と宣言した民主党の今後の姿勢が問われる。


可視化法案、今国会提出を検討=輿石氏「国民は民主激励」

1月20日12時47分配信 時事通信
 民主党の輿石東参院議員会長は20日午前の参院議員総会で、同党が衆院選マニフェスト(政権公約)に掲げた容疑者取り調べの過程を録音・録画して可視化する法案について、「(今国会に)提出すべきではないかという意見がある。ここは冷静な判断の上にきちんとした対応が必要だ」と述べ、今国会に議員立法で提出することを検討していく考えを示した。
 可視化法案については、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体の土地購入をめぐる事件で、元秘書の石川知裕衆院議員が逮捕されたことを受け、同党内で提出の機運が高まっている。
 輿石氏は、同事件に関して「『民主党頑張れ』というファクス、電子メールが来ている。一連の目に余る情報漏えい、過剰なマスコミ情報に、国民もようやく本質に気付きつつある」と指摘した。
 
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2009年12月17日

布川事件再審開始おめでとう!

 最高裁判所が布川事件の再審の開始決定をした。
 事件の概要は「守る会」のホームページを参照して欲しい。僕も桜井さん、杉山さんの話を伺ったことがあるが、本当におめでとう!と言いたい。長年にわたって執念の弁護活動を続けた弁護団にも心から敬意を表したい。

 僕がこの件で印象に残っているのは弁護団長の柴田弁護士が言っていた「桜井さんと杉山さんは仲が悪い(そりが合わない)。この二人が一緒になって殺人をやるなんて考えられない」という言葉だ。桜井さんも杉山さんも若い頃に田舎の町でチンピラ(失礼!)のような存在だったから警察にありもしない嫌疑を掛けられたのだが、実は二人は仲が悪く、大した知り合いでもなかったのだという。警察の捜査は初期段階から見当違いな思い込みに基づいていたのだろう。

 話がずれたが、刑事訴訟法では再審の要件について以下のように規定している。
刑事訴訟法
第四百三十五条  再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
〜省略〜
六  有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
〜省略〜

 再審を開始するということは、もともとの有罪判決を言い渡した際の証拠が揺らいで意味のないものになっているということだ。再審公判では二人に対して無罪が言い渡される可能性が極めて高い。

 許せないのは検察の態度だ。朝日新聞2009年12月16日の35面の記事を引用すると「検察幹部の一人は「一からの裁判になる」と述べ、再審の場で争う可能性を示した。足利事件の再審では、有罪の決め手となったDNA型鑑定の結果が覆ったため検察側は無罪を争わない方針だ。だが布川事件について、この幹部は「かつて自白は『証拠の王』と言われた。今でも強力な証拠で、それを得ようと努力するのは当然のこと。再審ではその内容の信用性が争点になるだろう。」と話した。」とのことだ。二人の人生を台無しにした責任などみじんも感じない態度をとり続けている。このような態度は再審公判において厳しく糾弾されるべきだ。

 最近明らかになっている数々のえん罪事件を見れば、警察の誘導によって虚偽の自白を得ることはそれほど難しくないことは周知の事実になっている。裁判所は正面から認めようとはしないが、裁判員裁判の導入を契機として自白調書に偏重した調書裁判を止めようとしている。その中で、検察庁だけが旧態依然の態度を貫いているのである。検察庁は自分たちの誤りを素直に認め、自白調書偏重主義を卒業すべきだ。

 そして、この件で僕がもう一つ指摘したいのは、裁判所が様々な変化を起こしている大きな動機になっているのが裁判員裁判の導入だということだ。裁判所は、国民の目から見れば、従前の自分たちのやり方が通用しないことを理解しているのだ。だからこそ、裁判員裁判の導入に前後して、今までの裁判所なら考えられなかったような無罪判決や再審決定を連発しているのだ。裁判員制度に反対する人達は裁判員制度のプラスの要素を余り語らないけど、この点はよくよく注目すべきだと思う。
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2009年11月30日

ビラ撒きが犯罪なら日本は犯罪大国

 今日は、共用玄関があるマンションの各戸のドアポストに共産党の区議会便り、都議会報告、共産党葛飾区議団作成の区民アンケート、アンケート返信用封筒を配布していたところ、住民に見咎められて警察に通報され現行犯逮捕された荒川庸生さんが住居侵入罪に問われた事件の最高裁判決があった。上告棄却で荒川さんの有罪確定だ。

 最高裁第二小法廷の裁判官今井功、中川了滋、古田佑紀、竹内行夫の各氏は人生で一度もビラ撒きのバイトをしたこと無いのだろうか。ボランティアや政治活動でビラ撒きやったこと無いのだろうか。ドアポストへのビラ撒きが犯罪なら僕も含めた多くの国民が犯罪者だったことになってしまう。自分でやったことある人なら今回の判決は書けないのではないか?だって自分も犯罪者だったことになるんだから。逆に、その程度の活動の経験もない人間が最高裁の判事になっているとすれば、社会を成熟させるための活動に携わったことない未熟者が国民の活動を上から目線で犯罪視するのは本当に馬鹿げていて漫画的な滑稽さすらある。この人たちは、きっと、官舎に入っていたピザ屋のビラや蕎麦屋のチラシで出前も頼んだことないんだろうな。これだけの判決を書いておいて「犯罪業者」からピザや蕎麦を買うなど許されん。
 
 法律を離れた非難はこれくらいにして、僕も判決文を読んでみたが、何でマンション管理組合の理事会(総会ではない)の決定があるとビラ撒き禁止が「住民の総意」になるんだ?住民は理事会が決めるとビラを受け取る権利(憲法21条は表現の自由のみならず表現を受け取る自由も保障していると言われる)を喪失するのか?憲法上の権利って理事会の決定ごときで奪えるだろうか。

 世紀の悪判決を書いた裁判官たちを永久に顕彰するためにささやかながら全員の名前をタグに入れておくことにした。あなたたちが死んでも、僕はあなたたちを批判し続ける。
共産党ビラ配布 有罪確定へ「私生活の平穏、侵害」
11月30日12時11分配信 毎日新聞

 共産党のビラをドアポストに配布するため東京都葛飾区のマンションに立ち入ったとして、住居侵入罪に問われた僧侶、荒川庸生(ようせい)被告(62)の上告審判決で、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は30日、被告側の上告を棄却した。無罪の1審判決を破棄し罰金5万円の逆転有罪とした2審・東京高裁判決(07年12月)が確定する。小法廷は「住居侵入罪に問うことは、表現の自由を保障した憲法に違反しない」と述べた。

 判決によると荒川被告は04年12月、オートロックのない7階建て分譲マンションで共産党の都議会報告などをドアポストに入れた。

 弁護側は「ビラ配布を住居侵入罪で処罰するのは憲法違反」と上告した。小法廷は、2審の「管理組合が立ち入りを禁止し、被告も認識していた」との認定を踏襲。「立ち入りが管理組合の意思に反するのは明らか。7階から3階までの廊下などに入っており、侵害の程度が極めて軽微とは言えない」と住居侵入罪の成立を認めた。表現の自由について「その手段が他人の権利を不当に害するものは許されない。共用部分への立ち入りは、住人の私生活の平穏を侵害する」と指摘した。

 このマンションは、玄関ホール南側の掲示板に、管理組合名義で「チラシ・パンフレット等広告の投かんは固く禁じます」「敷地内に立ち入りパンフレットの投かんなどを行うことは厳禁」と張り紙をしていた。

 東京地裁は06年8月、「ビラ配布目的だけなら、共用部分への立ち入りを刑事罰の対象とする社会通念は確立していない」と住居侵入罪の成立を認めなかった。

 ビラ配布を巡っては最高裁が08年4月、東京都立川市の防衛庁(当時)官舎に立ち入った市民団体メンバー3人について住居侵入罪の成立を認め、罰金刑が確定している。

 判決後、荒川被告は「表現、言論の自由に配慮しているとは思えない。ビラ配りをいつでも摘発できる条件が整ってしまう。市民常識を一顧だにしない不当な判決」と憤った。【銭場裕司、伊藤一郎】

 ■解説 表現の自由 制限を踏襲

 判決は表現の自由も一定の制限を受けるとの判例を踏襲し、居住者の権利を重視した。08年4月に最高裁が有罪とした東京都立川市の防衛庁(当時)宿舎へのビラ配り事件では、被告は住民に抗議を受けたのに官舎への立ち入りを繰り返したが、今回注意されたのは現行犯逮捕時だけ。それでも住居侵入罪の成立を認めており、商業用ビラの配布も有罪となることを意味する、配布側にとって厳しい判断と言える。

 ただし、防衛庁の事案も今回も、配布先が玄関の集合ポストではなく、各戸のドアポストだった。今回の判決はあえて「7〜3階までの廊下などに立ち入った」と侵入の程度に詳しく言及しており、集合ポストへの投函(とうかん)は刑事罰に問われない可能性は残っている。

 日本弁護士連合会は11月の大会で「ビラ配布を過度に制限することは表現の自由に対する重大な危機」との宣言を決議した。一方でプライバシー保護の高まりもある。表現の自由との調整は今後も図られなければならないが、ビラ配りだけで23日間身柄を拘束し起訴した対応の妥当性には疑問が残り、ビラ配りを萎縮(いしゅく)させる側面があることは否定できない。【銭場裕司】



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2009年11月27日

ネットカフェ利用者の偽名を処罰する計画

 家に帰ってきたら、警視庁がネットカフェで偽名宿泊した人に罰則を科すための条例制定を考えている、というニュースが流れた。
全国初のネットカフェ規制条例=年明けにも案提出へ―メールで意見募集・警視庁
11月27日20時38分配信 時事通信
 インターネットカフェの匿名性を利用した犯罪の続発を受け、警視庁は27日、年明けにも、東京都議会に、利用客の本人確認などを義務付ける条例案を提出する方針を固めた。罰則も検討しており、実現すれば全国初という。
 これに先立ち、28日から来月11日にかけ、同庁ホームページを通じ、メールで意見を募集する。
 同庁によると、規制対象は個室や個室に準じた閉鎖的な施設を設けたネットカフェなどで、都公安委員会への届け出制を導入する。
 運転免許証などによる利用客の本人確認や利用記録の作成、保存などを義務付けるほか、客にも住所や名前を偽ってはならない義務を課す。
 保存するのは、どのパソコンを利用したかなどで、サイトの閲覧履歴やメールの送受信内容などは保存しない。
 店への立ち入り検査や営業停止命令のほか、罰則を科すことも検討している。

 え?そもそも現行法体系でそんなこと出来るのか?人には本名と異なる名前を名乗る自由があるはず、と思って、隣接業種の旅館業法を調べたら、偽名は1万円未満の科料か30日未満の拘留になることが分かった。
旅館業法
第六条  営業者は、宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、職業その他の事項を記載し、当該職員の要求があつたときは、これを提出しなければならない。
2  宿泊者は、営業者から請求があつたときは、前項に規定する事項を告げなければならない。
第十二条  第六条第二項の規定に違反して同条第一項の事項を偽つて告げた者は、これを拘留又は科料に処する。

刑法
(拘留)
第十六条  拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
(科料)
第十七条  科料は、千円以上一万円未満とする。

 今時、こんな形で自由を制限する法律があったことも意外だが、それに輪を掛けてさらに規制しようとする警察の考え方はどうも納得がいかない。日本を警察が思うままの監視社会にしてよいのだろうか。警察に武器を渡すと、犯罪者をあぶり出すための網のはずが、犯罪者ではない市民に襲いかかってくることだってあるのだ。


posted by ナベテル at 23:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 刑事法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする