2013年01月18日

橋下市長が桜宮高校の教員の給与をストップしたらどうなるか

1 クラブ活動の顧問は多くの場合教員の職務ではない
 誤解されがちだが、公立学校ではクラブ活動の顧問は多くの場合、教員の職務ではない。残業代が支払われない代わりに、ごく一部の例外的な理由を除いて残業を命じてはいけないことになっているからだ。これは法律に書いてある。教員に残業を命じられないのは、その業務の性質上、自主的な研鑽が不可欠だし、業務じゃなくても実際は「自主的に」自分の生徒たちに様々な形でふれあったり、生徒たちのために何かをせざるを得ないからだ。それらの時間に加えて(命令として)残業を命じれば教員の生活も、命も破綻するから駄目なのだ。
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)
(教育職員の正規の勤務時間を超える勤務等)
第六条  教育職員(管理職手当を受ける者を除く。以下この条において同じ。)を正規の勤務時間(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律 (平成六年法律第三十三号)第五条 から第八条 まで、第十一条及び第十二条の規定に相当する条例の規定による勤務時間をいう。第三項において同じ。)を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。
2  前項の政令を定める場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない。

法律家じゃない人のためにまとめると
(1)正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は国と大阪府が定める基準に従ってね
(2)基準は教員の健康と福祉を害さないようにしてね
ということになる。
 そして、(1)について、大阪市立学校の教員の「正規の勤務時間」については(詳しい説明はすっ飛ばして)大阪市の条例、規則で決められることになっているので(追記2参照)、これをみると
学校の市費負担教員の勤務時間、休日、休暇等に関する規則
(勤務時間)
第2条 職員の勤務時間は、休憩時間を除き、4週間を超えない期間につき1週間当たり38時間45分とする。
〜中略〜
2 職員の勤務時間の割振りは、次の各号に掲げる職員の区分に応じ、当該各号に定める時間とする。
(1) 昼間において授業を行う学校又は課程に勤務する職員 午前8時30分から午後5時までの7時間45分(休憩時間を除く。)。ただし、略

 大阪市立高校の教員の一日の労働時間は7時間45分であることが分かる。そうすると、朝の職員朝礼前の部活の朝練は一日普通に勤務すれば早出残業になってしまうからアウトだ。
 一方、8時半に職員朝礼開始(始業)とし、休憩時間を合計45分とすると、終業時刻は17時。それ以降の時間に部活に参加することは残業になってしまうからアウトだ。では、17時までに部活の顧問をやればいいかというと、教員としての仕事は山ほどあり、そんなに暇ではない。日常の職務だけでもパンクしているのに、職務と部活の顧問を両方時間内にこなすのは(部活を熱心にやるほど)不可能だろう。
 そして、もちろん、土日の部活動の顧問は完全に時間外勤務になってしまうからアウト。
 次に(2)については、
公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令
二  教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。
イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

とされ、部活動など入り込む余地がない。結局、職務として命令してやらせる部活動の顧問など、法令上はほとんど余地がないのだ。
 しかし、皆さんご承知のように、実際は多くの教員が部活動はもちろん、生徒指導やテストの採点などを夜遅くまでやっている。持ち帰りの残業も沢山している。これらは、校長が残業を命じてはいけない建前になっているため、すべて教員の自主的な活動として行われている。「自主的活動」とされてしまった仕事は歯止めが利かなくなるため、給特法は教員の過労死の温床になっている。京都の何人かの教員が過労死ラインを超える慢性的な「自主的」残業をさせられていることについて損害賠償請求訴訟をやったが、最高裁で逆転敗訴してしまった。部活動の顧問が「自主的な」活動であることは最高裁のお墨付きなのである。詳しく知りたい人は最高裁のホームページで判例を見て下さい。
 いずれにせよ賃金が支払われず残業を命じることも出来ない以上、多くの場合、部活動の顧問としての活動は職務ではないのだ。

2 橋下市長は入試を中止したり教員を配転したり出来ない
 次に、大阪市立学校(これは小中も含む)の教員の人事や入試の実施について権限を有しているのは誰かというと、大阪市教育委員会だ。これについては詳しい説明はしないが、地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条、24条、他ならぬ橋下市長が作った大阪市教育行政基本条例(PDF)に定められている。
 教員の配転を決める権限は大阪市教委のみにあって橋下市長にはないし、試験の実施については大阪市教委のみが決定権を持っていて、橋下市長はあれこれ指図する法的根拠を持っていない。言うまでもなく日本は法治国家だ。権限もないのに口出しして行政をねじ曲げるのは中国や北朝鮮のレベルではないのか、と思う。まして、もともと教員の「自主的活動」である部活動で起きた問題については教員の任命権者である市教委の指揮命令に基づく職務ではないことを踏まえないとならないし、部活動で起きた問題を理由に学校の教員全体の給与の不支給や入試の中止を画策するなど、いかに無理筋の主張かが自然と理解されるだろう(念のため言っておくが筆者は教員の暴力には大反対であり学校から暴力を排除するためには様々な工夫がされるべきだと思う)。

3 給与について予算の執行停止はできないし不法にやると大阪市に損害が生じる
 では、権限もないのに勝手に予算を執行停止して、教員に給与が支払われなかったらどうなるか。
 これは理由のない単なる賃金の不払いであり、大阪市は不払いをしている間、年利5%の利息を支払う義務を負う。今時なかなか高い利率ではないか。橋下市長の無茶により損害を被るのは大阪市民なのである。
 そして、地方公務員の場合、労働基準法は適用除外になっていないので、単なる賃金不払いには、労働基準法120条で罰則もある(と思われる。考えたことないがそうなるはず)。(追記1参照)
 また、このような本来であれば不要な利息を支払った場合は、地方自治法242条で住民監査請求の対象となり、橋下市長は自腹を切って市に返還しなければならない可能性もあるだろう。
 橋下市長は自分に強い権限があるように振る舞っているし、報道でも橋下市長の振るまいが許されるのか否かはあまり言及されないが、何のことはない、単なる違法行為なのである。

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追記1 コメント欄で地方公務員法58条3項により、地方公務員には労基法24条1項(賃金全額払いの原則)の適用がない、ということを教えて頂いたので訂正します。一応、スクリーニングを掛けたつもりだったが、ゴチャゴチャしているので見落としたようだ。ありがとうございます。

追記2 市町村立学校職員給与負担法という法律があり、大阪市の教員の賃金は原則として大阪府が負担することになっている。一方、地方教育行政の組織に関する法律58条は「指定都市の県費負担教職員の〜給与(略)の決定」については大阪市の権限としている。つまり、給与額を決定するのは大阪市教委で、実際に支払うのは大阪府ということになる。そういう意味で、そもそも大阪市には(市教委にすら)いかなる意味でも教員の給与について予算の執行を止める権限はないのではないか、という疑問もある。この辺は実際のお金の流れなどは知らないので、中の人に教えて貰うのが一番近道かもしれない。正直、よく分からない。
→これについては自分で解明した。趣旨も結論も全く変わらないが、適用される条例が微妙に違ったので訂正した。結論的には全日制の市立高校は市町村立学校職員給与負担法の県費負担職員にならず、市費負担職員なので、地方教育行政の組織及び運営に関する法律37条1項が適用されず、同法58条とは関係なく最初から市が任命権者となるから、職員に対して市の条例が直接的・全面的に適用される。予算措置も大阪市の責任となる。橋下市長が「予算を執行しない」と言っていたのは、法令上の予算の執行権限は教委にあるのに、教員の給与口座(またはそこに送金するための教委の口座)に送金をする職員が(おそらく)市長部局にいるため、そこに指示して送金を止める、ということなのだろう。教育公務員の法令はややこしい。
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2012年07月11日

「橋下現象」を巡る朝日新聞記者の嘆きを読んだ感想

 朝日新聞のWEB RONZAで同社大阪社会部の稲垣えみ子記者が「橋下現象」に引きずられて読者基盤を掘り崩している朝日新聞の現状を憂いて嘆く記事が載っていた。僕もここ2年以内に朝日新聞の購読を止めてせいせいした人間なので、この記事について思うところを書きたい。まあ、稲垣さんがこのページを見るかは分かりませんが。
 原文はこちら↓
「世の中が見えていたのは橋下氏」朝日新聞大阪社会部デスクの嘆き
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/special/2012070900007.html

1 朝日新聞は橋下の政策を前提にした批判すら(十分に)していない
(1)内在的批判という考え方
 稲垣記者は、一度、橋下氏を肯定した上で、批判するのが重要だと気付いた、という。これを「内在的批判」といい、橋下氏の言動を法廷での証言だと仮定すると「自己矛盾供述」という。相手の供述を自己の主張の正当性を基礎づける資料に使う場合は「対人立証」ともいう。いずれにせよ、弁護士が準備書面を書いたり、証人尋問をしたりするときは多用する技法だが、僕としては朝日新聞の記者がこの技法を使おうと思わなかったこともいささか衝撃だ。
(2)橋下氏の政策不履行は問題とされてこなかった
 それはさておき、橋下氏は大阪府知事の頃から、政策的にはポカを繰り返しているし、自らが掲げた政策を何回も反故にしたり、不履行してきた。
 大阪府知事選挙のときに掲げた政策は、当選後に本人が「無理だと分かりました」みたいな軽いノリであらかた反故にしたが、朝日新聞を含めたメディアはほとんど問題にしなかった。
 橋下氏が「大阪府を財政再建した」というのも何の根拠もない真っ赤な嘘だったが、朝日新聞を含めたメディアは橋下氏の粉飾まがいな決算を「財政再建」と書き続け、最後までまともな検証をしなかった(※)。多くの大阪府民は、今でも橋下氏が大阪府を財政再建したと信じているのではないだろうか。そういえば松井知事になってからの大阪府の決算も報道されていない。
 また、橋下氏が高速道路建設などの大型プロジェクトを断行し、またWTCを買い取ることで大赤字を作ったこともほとんど問題にされてこなかった。
(3)メディアが検証しなかった結果できあがった虚構の「デキる政治家」像
 当選した政治家の資質がもっともよく分かるのは、自らが掲げた政策をしっかり履行しているか否かの検証の場面でだろう。もちろん、政策がすぐの実現するとは限らないから、僕はマニフェストに数値目標を掲げるのは愚かだと思っている(イギリスでもそんなアホなことはしない)。ただ、少なくとも、政治家が自らの掲げた目標に向かって努力しているかどうかは検証可能だ。そして、この検証はその政治家の存在を百パーセント肯定してもできるし、弁護士が法廷で多用するように実に強力な批判なのだ。
 この点、稲垣記者の記事は橋下氏が府知事当選直後に選挙公約をあらかた放擲したことについて何も批判しておらず「思えば当時の橋下サンは愛らしい存在だったなあ! 当選直後から聖域なき財政再建を打ち出し、文化施設や私学への助成金、市町村への補助金など誰も踏み込まなかった支出の大幅見直しを主張して物議をかもしていたが、議会や庁内に味方は少なく、物事は一筋縄では動かなかった。市町村長との会合では、四面楚歌のなか感極まって涙を流す場面すらあったのである。いま思えば100年くらい前のことのようだ。」と懐かしむばかりだ。これがすでにアウトなのだ。そして、上記のように、橋下氏の大阪府知事時代は「財政再建」を含めたその後の政策も結局不履行でおおかた失格点なのに、朝日新聞を含めたメディアは橋下氏の粉飾を見逃してきた。そしてそのような結果出来上がった虚構の「デキる政治家像」が一人歩きして肥大化すると、ついにはそれにあらがえなくなってしまった。

※橋下氏が大阪府を財政再建したと喧伝していたころ、僕が大阪府のホームページで府債の投資家向けに出している資料をもとに、ツイッターで橋下氏にリプライを送りながらそのウソを指摘すると、しばらくして府のページからその資料自体が消えたことがあった。因果関係は不明だが、少なくとも朝日新聞よりは鋭い内在的批判をしたと思っている。

追※橋下氏が提起する問題について、鋭い問いかけが含まれているものがあることは否定しない。例えば、市役所がぐるみで現職候補を応援する風景は全国各地で見られるが、これは適法、違法、グレーゾーンに関わらず問題が多い。しかし、その問題は以前から提起されてきた。朝日新聞をはじめとするメディアがまじめにこの問題を取り上げ、しかるべき批判してきたらここまでひどくはならなかったかもしれないし、橋下氏がそれを利用して職員いじめをする余地もなかったのではないだろうか。

2 名前が出るほど人気が上がるね ぽぽぽぽ〜ん
 ここで僕もちょっとした対人立証を試みてみよう。「週刊朝日」に山藤章二さんの似顔絵塾のコーナーがある。このコーナーの投稿ハガキをまとめた本を読んだことがあるのだが、その中で、自民党の政治家だった渡辺美智雄(ミッチー。渡辺喜美の親父だ)のエピソードがあった。ミッチーを墓場のお化け提灯に似せた似顔絵を掲載したら、ミッチーが山藤さんのところに電話してきて、「後援会の新聞に載せるから絵を貸してくれ」という趣旨のことを言ってきたそうだ。政治家というのは、深刻な批判でなければ、メディアに名前が載るほど有名になるし、結局は人気が高まる種族なのだ。これは、つまらない芸人でも、テレビに出ているだけで人気者のように感じることにも通じる。
 この間、朝日新聞を含めたメディアは、橋下氏周辺が何かを言うと、小学生の戯れ言のレベルの発言でも垂れ流してきた。稲垣記者の記事の全体のトーンも「橋下現象について一生懸命報道してきた」というもののように見える。これが失敗なのだ。橋下氏は最初からメディア対策をしていたし、メディアを利用して戯れ言レベルの突拍子もない発言を発信すればするほど自分に注目が集まり、支持が高まる事を知っていたのだ。その一方で、深刻な批判をされると記者を恫喝することも厭わなかった。朝日新聞も完全にこの術中にはまり、しかも橋下氏の発言の「その後」を真面目に検証しないから、ますます虚像の人気が膨れあがることに手を貸してしまったのだ。この点については、稲垣記者は特ダネ主義の弊害という形で自己批判をしているが、いかにも検証が浅いように思える。
 なお、橋下氏は弁護士だが、彼が展開している法律論はテレビタレントだった時代からトンデモが多く、実際、最近も大阪市職員の思想調査問題で大失態をやらかした。それらしい肩書の人間が自信満々に法律っぽいことを言ったときに、記者が現場で反論できる力をもっていないことも問題だと思う。

3 まとめ
 稲垣記者が朝日新聞の「存亡の危機」ともいうべき事態を感じているのは悪いことではないし、橋下を無批判に持ち上げてきた責任を反省するのは大いに結構なのだが、いかんせん遅すぎた。その結果、押しても引いても読者が減る状況を朝日新聞が作ってしまったのではないのか、と思う。これを自業自得という。仕方ないので、せいぜい苦しんでもらいたい。
 あと、朝日新聞の読者が離れていくのは、橋下問題がきっかけになっていても、それだけには到底止まらない問題があることも指摘したい。消費税増税にしろ、TPPにしろ、朝日新聞の読者を含む国民の多くが反対していて、客観的には他にも選択肢が存在するのに、朝日新聞はこれらを無理矢理国民に押しつける役回りを率先して果たしてきた。そういうことでわき上がったぬぐいがたい朝日不信が、橋下問題をきっかけに噴出して朝日新聞の購読を止めているのだ。今、朝日はそういう問題をあちこちに抱えていて、記事を書く度に読者を減らしているのではないか。僕もそういう元読者の一人だ。僕はもう手遅れだと思ったので購読を止めたが、手遅れでないというのなら、内部で、それこそ、死にものぐるいで改革して頂きたい。
posted by ナベテル at 20:47| Comment(1) | TrackBack(0) | 社会・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月31日

偽名簿問題を整理し、橋下市長・杉村市議らの責任を考える

 大阪維新の会の杉村幸太郎・大阪市議の偽名簿による疑惑でっち上げと、それを利用した橋下市長や大阪維新の会市議団の責任逃れと開き直りがあまりにひどいので、久しぶりにブログを書くことにした。

1 事実経過
 この件で重要なのは事実経過だと思うので、この間の報道や、当事者の証言をもとに事実経過をまとめてみた。

2月1日
杉村市議が元職員から「知人・友人紹介カード配布回収リスト」を郵便で受け取る(※10 3.31読売)

2月6日
杉村市議が「知人・友人紹介カード配布回収リスト」の存在をマスコミにリーク。当日の夕刊、夕方のニュースから大きく報道された。一方、交通労組は「根も葉もない話で、弁護士と協議して対応を決める」(※1 2.6毎日)

この日の橋下市長のつぶやき

橋下徹(@t_ishin)
国が何もルールを作らないか ら大阪市では条例を作ります。以下、大阪市職員組合の実態です。http://t.co/Oble56b8 http://t.co/TJqOnfvG
posted at 16:25:31

橋下徹(@t_ishin)
大阪維新の会が情報収集したものですが、今回のえげつなさは、地公法の対象である幹部職員も含まれていること。そして何よりも組合が幹部職員も含めて、従わない場合は不利益を与えると脅していること。一体どちらが上司なんだ?そしてこの証拠書類に関して市長選挙後上司から廃棄命令が出ていた。
posted at 16:28:57

橋下徹(@t_ishin)
職員組合が、選挙戦に協力しなければ不利益があると組合員に脅しをかけている。この不利益とは何なんだ?考えれば 簡単。人事上の不利益でしょう。と言うことは、組合が人事に関与しているということ。一体大阪市の組合とはどういう存在なんだ?
posted at 17:02:41


2月7日
橋下市長がリストの信憑性について調査する方針表明(※6 3.27毎日)

2月8日
元職員が「偽物をつかませてしまったかもしれず、申し訳ないことをした」とのメールを杉村市議に送信(※10 3.31読売)

2月9日
橋下市長が市職員に対する実名でのアンケート調査の実施を表明。職員基本条例づくりの参考にすると表明(※2 2.10産経)

2月10日以前
杉村市議は美延映夫・維新市議団幹事長に市議会での質問内容の相談を受けた。独断ではなく、団の指示で質問(※11 3.31読売)

2月10日
杉村市議が「知人・友人紹介カード配布回収リスト」問題について大阪市議会市政改革特別委員会で「交通局と組合が組織ぐるみで市長選挙に関与していたことを裏付ける」「信憑性が高い」と交通局を追及(後述の反訳参照)

3月2日
大阪交通労組が氏名不詳者について偽造公文書行使、偽造私文書行使などの罪で大阪地検に告発状提出(※3 3.3産経)

3月14日
維新市議団が地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで大阪地検に告発(※6 3.27毎日)

3月27日
元職員が名簿のねつ造を認める。交通局が懲戒免職処分。
橋下市長「議員の仕事は問題提起だ。捜査機関と同じだけの容疑を裏付けてからじゃないと質問もできないなら、役所の追及はできない。維新の指摘を受けて市が調査し、組合のぬれぎぬを晴らした。何の問題もない」(※7 2.27読売)

3月30日
杉村市議、坂井良和維新市議団長、美延映夫・維新市議団幹事長の記者会見。
坂井団長「組合を犯人扱いしたことは一度もない」として謝罪を拒否
杉村市議「組合に聞いたら誠実な答えが返ってくるのか」(※11 3.31読売)

橋下市長記者会見
「委員会は疑惑について確認する場であり問題はない」
「(組合側に)ウラを取らなかったという責任はもちろん維新の会として正当化するつもりはないが、組合に対する印象を悪くしたというのであれば、それはメディアが報じたことが最大の原因」(※13 3.31MBS)

2 ポイント
 一連の事実経過についてポイントは下記各点だと思っている。
(1)杉村市議はリストの信憑性(民事訴訟法で「成立の真正」という)を確かめずにマスメディアに公表したこと。
(2)橋下市長も杉村市議がマスコミに提供した事実を前提に労組批判をしたこと
(3)リスト作成問題が憲法違反の疑いのある職員アンケート調査の呼び水となり政治的な正当化根拠になっていること
(4)杉村市議は情報提供者である元職員が偽物の可能性を指摘しているのに、それを市会の委員会で取り上げ、リストが真正のものであることを前提に交通局を追及し、労組批判をしたこと
(5)杉村市議の市会での質問は大阪維新の会市議団執行部との相談の上、市議団の指示によるものであること。
(6)おそらく、橋下市長も質問の前に事実関係を把握していたこと

3 杉村市議、橋下市長、維新市議団の政治責任を考える
(1)法律上の責任は・・
 僕は法律家なので、法律上の責任についてちょっと調べてみたが、せいぜい、民事上の損害賠償、謝罪広告の可否の問題のようだ。これは所詮、銭金の問題だし、答えが出るのに時間がかかるので省略する。政治家の政治活動について刑法上の名誉毀損罪に問うこともかなり困難が予想される。

(2)杉村市議の議会発言を反訳してやった
 問題は政治責任だ。ここで確認しておくべきなのは、杉村市議はこの問題で一体どんな発言をしていたか、ということだ。頭に来たので市会ホームページの動画を反訳してしまった。
2012年2月10日大阪市議会市政改革特別委員会杉村幸太郎市議の質疑
動画の23:42〜
杉村:維新の杉村でございます。市政改革特別委員会の目的にあります「市民の信頼回復、市民の意見を反映した市政運営の確立に向けて市政改革を総合的かつ着実に推進するため調査研究を行う」とります。その目的をもって質疑に移らせていただきます。よろしくお願いいたします。
市政改革をするにあたっては、市長も言っておられるように、大阪市役所と組合の体質についてリセットする必要が絶対不可欠であると考えます。私は年末の交通水道委員会において、交通局本局庁舎内で、市長選挙前には平松・前市長の推薦者カードが勤務時間内に配布されたり、選挙期間中には候補者を支援する内容の労働組合の新聞が卓上に数回にわたり配布されているとの指摘をさせていただきました。この事に関して、今般、「知人・友人紹介カード配布回収リスト」という、まるでそれを裏付けるような書類がある交通局職員から私に提供されました。交通局本局庁舎内にあったとのことです。内部告発であります。このA4用紙からなる書類は、鉄道事業本部、車両部などに所属する職員1867人もの名簿リストで、三十数枚に及びます。氏名だけではなく、職員一人一人に設定された7桁の氏名コードとともに、カードの配布・回収状況までが記載されております。そして、名簿リスト下段にはこのような文言が記載されておりました。「大阪市労連では組合員が一丸となって知人・友人紹介活動に取り組み、平松市長を積極的に支援していくことが決定しています。知人・友人紹介カードを提出しない等の非協力的な組合員がいた場合は、今後不利益になることを本人に伝え、それでも協力しない場合は、各組合の執行委員まで連絡してください」との文言。このような名簿リストが局内に存在したということは、交通局と組合が組織ぐるみで市長選挙に関与していたことを裏付けるものだと考えます。この名簿リストが当局内に存在していたことについて、交通局としての見解はいかがでしょうか。

交通局職員課長:お答え申し上げます。委員ご指摘の名簿につきましては、今回お示しいただいて初めて存在を知ったものでございまして、これまでもこのような名簿の存在については、承知していなかったところでございます。

杉村この情報は匿名ではなく、氏名等を名乗った上での提供であり、私自身も提供者に度々会ってお話をお伺いいたしております。告発者が名簿リストを入手した日時・タイミング・経緯等から勘案しても、信憑性も非常に高いと思われますし、名簿原本の紙(ペーパー)の材質は、ぱっと見たところ、局庁舎で使用されている再生紙に酷似しているとお見受け致しました。また百歩譲って出所が怪しいというのならば、告発者が提供情報をねつ造しようにも、しようがないお立場の方だ、ということだけは申し伝えておきます。このような情報を流用できるとは到底思えません。ちなみに誰の手元からどのような状況で出たものかということも私は聞き及んでおります。が、しかし、告発者保護の観点から、告発者が特定される恐れがあるため、差し控えさせていただきます。その職員さんによると、執務場所においてこの名簿リストを入手したとのことであります。そもそも執務場所にこのようなものが存在すること自体が大きな大きな問題であると考えます。市民の皆様に大いなる疑惑を抱かせてしまったと思われますが、当局としてはどのようにお考えですか。
〜以下、交通局、組合ぐるみの名簿作成を追及〜

 すでに述べたように、この時点では情報を提供した元職員自身から虚偽の可能性を指摘されていた。そうであるにもかかわらず、杉村市議は、上記の通り、リストの信憑性は非常に高く本物であることを前提に交通局と労働組合の「組織ぐるみ」の選挙を批判し、大阪交通労組が職員の締め付けをやっていた虚偽の事実まで明確に述べている。これは橋下氏が言い訳するような「市会で真偽を明らかにする」というスタンスではない。リストが真正なものであることを前提に交通局、大阪交通労組の責任追及をしているのである。

(3)橋下市長も杉村市議も自らの行為責任をまともに認めていない
 しかし、橋下市長はこの件について、市民に対して謝罪はするものの、それは、情報漏洩した職員=杉村市議に密告した元職員が市民を「お騒がせ」して迷惑をかけたから上司である市長として相済まぬ、というスタンスのものであるように見受けられる(※5 3.26読売)。自らがツイッターを含めて虚偽の事実を流布して交通局や大阪交通労組を批判したことについては何も謝罪していないし、虚偽の事実をもとに正当化した職員へのアンケート調査についても何も誤りを認めていない。要するに自らの行為について何も責任は取っていないのである。もちろん、大阪維新の会の代表としても組織と所属議員の責任を何も認めていない。組織のマネジメント云々を力説する橋下市長が自らと自分が代表を務める組織の一員がやった行為について異常に甘い、というか誤りすら認めないことは、言行不一致だし、甚だしい不正義だ。
 これは杉村市議にも共通した姿勢で、上記のように「市議団の指示でやったので個人責任はない」と開き直っている(※11 3.31読売)。

(4)類似、近接事例との比較
 この件と比較したい事例がある。一つは例の民主党・永田議員のメール問題(wikiでは「堀江メール問題」となっている)。もう一つは九州電力の再稼働に関連して、経産省が主催した佐賀県民への「説明番組」についての九州電力によるやらせ指示メールを追及した共産党の事例だ。

 永田議員メール問題では、虚偽のメールに基づいて永田議員が国会質問を行ったことで、当時の前原誠司・民主党代表は辞任に追い込まれた。Wikiによると辞任理由は「永田議員を辞職させられなかった」らしい。そして、それを受けて永田議員も辞職に追い込まれている。当時、民主党は国会で野党であり、政府の不正を率先して追及する立場だったが、それでも「本物かどうか確かめていたら政府与党を追及できない」などという醜い言い訳はしなかったと記憶している。

 共産党が追及した九州電力のやらせ指示メールでは、2011年7月2日にしんぶん赤旗がスクープ記事を飛ばし(※14)、7月6日の衆議院予算委員会で党所属の笠井議員が政府を追及した。この追及で九州電力の社長を辞任に追い込み、再稼働間近とされていた玄海原発2,3号機はこの記事を書いている今でも再稼働できないままになっている。共産党はこのやらせ指示メールの曝露で政府の原子力政策に大激震を与えたのだ。
 この先は「もしも」の世界だが、もしこの「やらせ指示メール」が虚偽だったら、志位委員長を始め共産党の執行部や、国会で追及した笠井議員は「本物かどうか確かめていたら原子力政策の追及はできない」と開き直れただろうか?答えは永田メール問題を見ても分かるように明白に「否」だろう。党委員長と国会議員の首が飛んでいてもおかしくない。共産党もそれは分かっていたはずで、念入りに真偽の調査をしているはずだ。

(5)橋下市長、杉村市議は責任を取りなさい
 政治家は正当な政治活動上の発言について名誉毀損に問われることはほとんどない。そうである以上、その発言の裏付けは厳重に行われなければならないし、失敗したときの政治責任は明確に取らなければならない。
 まず、杉村議員は裏付けも取らずに、交通局、大阪交通労組の名誉を毀損し、マスコミ公表と議会質問を通じて大阪市民と国民に虚偽の事実を流布したことについて、責任を取って辞職すべきだ。質問を事前に把握していたのにそれを許容し、指示した美延映夫・維新市議団幹事長ら市議団執行部も同罪であり、総辞職すべきだ。
 次に、橋下市長は、維新の会代表として杉村市議の質問予定を事前に知っていたはずだし、知らなければそれはそれで管理責任がある。前原氏の前例からいっても、最低限、大阪維新の会の代表を辞任すべきだろう。また、いつの時点でそう思ったのか定かではないが、橋下市長自身も「法律家として危ないと感じていた」(※5 3.26読売)のだそうである。そうであるのに尻馬に乗って労組を批判したのであれば、市長としての政治責任も問われる。味噌も糞も一緒くたにして公務員攻撃をし、それを足場にして憲法違反の疑いがある思想調査を行い、今も様々な形で公務員バッシングを続けていることについても、職員と市民に謝罪し、けじめを付けるべきだ。この際、いさぎよく辞職されてはいかがか、というのは言い過ぎだろうか。

参考にした新聞記事
※1:大阪市長選:組合が選挙協力強要か 拒否「不利益」、維新市議が文書公表(2012年2月6日毎日新聞)
※2:大阪市「政治活動から決別」宣言 全職員の実態調査実施へ(2012年2月10日産経新聞)
※3:職員リストは「中傷目的の捏造」大阪交通労組、告発状提出(2012年3月3日産経新聞)
※4:大阪市長選職員リスト、嘱託職員の捏造と断定(2012年3月26日読売新聞)
※5:橋下市長「法律家として危ないなと感じていた」(2012年3月26日読売新聞)
※6:大阪市交通局:市長選リスト問題 捏造断定 何のため 組合「犯人視責任を」、維新「追及問題ない」(2012年3月27日毎日新聞)
※7:支援リスト 嘱託職員、捏造・告発認める(2012年3月27日読売新聞)
※8:橋下市長、無責任すぎないか 労組攻撃材料の捏造問題 大阪 「組合が脅している」と断言 思想調査の口実にも(2012年3月28日しんぶん赤旗)
※9;リスト問題で維新「見抜くの至難」 他会派は「開き直り」と反発(2012年3月30日産経新聞)
※10:元職員「偽物かも」と維新市議にメール…追及前(2012年3月31日読売新聞)
※11:捏造リスト 「質問は市議団の指示」(2012年3月31日読売新聞)
※12:橋下市長「市民をお騒がせした」…捏造問題陳謝(2012年3月31日読売新聞)
※13:リストねつ造問題 橋下市長「質問には問題なし」(2012年3月31日MBSニュース)
※14:九電が“やらせ”メール 玄海原発再稼働求める投稿 関係会社に依頼 国主催の説明会(2011年7月2日しんぶん赤旗)
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2011年05月14日

原子炉は津波の前に地震で壊れた?

 一昨日あたりから、福島第一原発の1号機について、一番内側の圧力容器だけではなく、その外側にある原子炉格納容器についても穴があいていて、そこから外(すなわち防護のない外界だ)に水が漏れている、という報道がされている。
1号機は「メルトダウン」…底部の穴から漏水
読売新聞 5月12日(木)22時55分配信
東電は、圧力容器の温度は100〜120度と安定しているため、事態がさらに悪化する可能性は低いと見ているが、圧力容器を覆う格納容器からも水が漏れだしている可能性が高く、格納容器を水で満たす「冠水(水棺)」など事故収束に向けた作業は難航も予想される。

 あれ?これ、いつ壊れたの?今まで聞いたことがない話だし、記事では原因に言及されてないので、東電は原因を説明しなかったのだろう。

 格納容器はとても頑丈な容器である、と聞いている。最近になってぽっかりと穴があいたとは考えがたい。さかのぼると、1号機が水素爆発したときか、さらにさかのぼって震災そのもので壊れたと考えるのが分かりやすい。そして、震災の報道をたどっていくと、ごく初期に次のような報道がされていたことを思い出した。
福島第1原発・正門付近の放射線量、午前8時前に73倍に激増
産経新聞2011.3.12 10:20
 原子力安全・保安院は12日、福島第1原発正門付近の放射線量が同日午前7時40分現在で通常時の約73倍に当たる5・1マイクロシーベルト時だったと発表した。前回の発表では通常の約8倍で、放射線量は急激に増加している。

 また、次のような報道もあった。
福島第一原発、中央制御室で1千倍の放射線量
読売新聞 2011年3月12日07時10分
 東日本巨大地震で自動停止した東京電力福島第一原子力発電所(福島県大熊町、双葉町)の正門前で、放射線量が通常時の約8倍、1号機の中央制御室では、同約1000倍に達していることがわかった。

 経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭院長が12日午前6時過ぎ、記者会会見して明らかにした。

 制御室の線量は毎時150マイクロ・シーベルト。そこに1時間いた場合の線量は、胃のレントゲン検診の約4分の1程度に当たる。

 同原発1号機では、格納容器内(建屋)の圧力が異常に上昇し、同日午前6時現在、設計値の約2倍に達している。経済産業省原子力安全・保安院によると、この圧力の異常上昇は、圧力容器(原子炉)から放射性物質を含んだ水蒸気が建屋内に漏れたことで起きていると見られる。圧力の高まった水蒸気が建屋から漏れ出し、施設外建屋外の放射能レベルを上げている可能性が高い。

 wikiによると、1号機でベント(弁の開放)に成功したのは3月12日の14時30分とのことだ。1号機の原子炉建屋内にあった中央制御室や1号機周辺では、ベントの前からかなり高いレベルの放射能が漏れていたことが分かる。震災当時、第一原発で勤務していた作業員の証言でも、配管が壊れたりする状況が目撃されている。

4号機の爆発原因は水素ではない?
 福島第一原発については、もう一つ気になっているのが次のニュース。
4号機の激しい損壊、水素爆発以外の原因か
読売新聞 5月10日(火)0時14分配信
 東京電力は9日、福島第一原子力発電所で、原子炉建屋が激しく壊れた4号機について水素爆発以外の可能性があるとみて調査していることを明らかにした。

 建屋5階の使用済み核燃料一時貯蔵プールで、水素を発生させる空だきの形跡がないことなどが判明。別の原因との見方が浮上した。

 建屋内には、原子炉内のポンプを動かす発電機の潤滑油貯蔵タンク(約100トン)があるほか、溶接作業などに使うプロパンガスのボンベもあったとみられ、東電で関連を調べている。

 東電はプールの水を調査。その結果、放射性物質の濃度が比較的低く、水中カメラの映像でも、燃料を収めた金属製ラックに異常が見られないことから、空だきが起きていたとは考えにくいことがわかった。

 この記事に書いてある潤滑油のタンクが壊れたとすれば、それは地震の時と考えるのが妥当だろう。4号機は地震で内部が滅茶苦茶になっていた可能性がある。

 福島第一原発は、津波による電源喪失と電源復旧が出来なかったことが、大事故の原因とされていて、もちろん、それは間違ってないと思う。しかし、少なくとも1号機については、津波が襲来する前にかなり壊れていて、事故が不可避な状態になっていた可能性もあるのではないだろうか。もちろん、これは新聞記事の断片を拾い集めた推測に過ぎないが、柏崎刈羽原発の一部が新潟県中越沖地震で壊れたことを考えても、あり得ない話ではないと思う。この点については、今後も注目していく必要があると思っている。

追記:だから何なのだ
 だから何なのだ、という指摘が身近なところからあったので追記する。仮に、津波襲来前に地震だけで原発が大きく壊れていたとすると「地震は想定内(で被害も防いだ)。津波は想定外(で被害が出た)」という主張が完全に崩れることになり、原発の安全神話が根本的に間違ってたことになる。日本は地震列島だから、原発が地震に耐えられるかどうかは重大問題なのだ。

追記(2011.5.16)
同じ事を考えていた記者がいたようで、ブログを書いた後に新聞記事になった。予測的中。
1号機、津波前に重要設備損傷か 原子炉建屋で高線量蒸気
2011/05/15 02:02 【共同通信】
 東京電力福島第1原発1号機の原子炉建屋内で東日本大震災発生当日の3月11日夜、毎時300ミリシーベルト相当の高い放射線量が検出されていたことが14日、東電関係者への取材で分かった。高い線量は原子炉の燃料の放射性物質が大量に漏れていたためとみられる。

 1号機では、津波による電源喪失によって冷却ができなくなり、原子炉圧力容器から高濃度の放射性物質を含む蒸気が漏れたとされていたが、原子炉内の圧力が高まって配管などが破損したと仮定するには、あまりに短時間で建屋内に充満したことになる。東電関係者は「地震の揺れで圧力容器や配管に損傷があったかもしれない」と、津波より前に重要設備が被害を受けていた可能性を認めた。

 第1原発の事故で東電と経済産業省原子力安全・保安院はこれまで、原子炉は揺れに耐えたが、想定外の大きさの津波に襲われたことで電源が失われ、爆発事故に至ったとの見方を示していた。

 地震による重要設備への被害がなかったことを前提に、第1原発の事故後、各地の原発では予備電源確保や防波堤設置など津波対策を強化する動きが広がっているが、原発の耐震指針についても再検討を迫られそうだ。

 関係者によると、3月11日夜、1号機の状態を確認するため作業員が原子炉建屋に入ったところ、線量計のアラームが数秒で鳴った。建屋内には高線量の蒸気が充満していたとみられ、作業員は退避。線量計の数値から放射線量は毎時300ミリシーベルト程度だったと推定される。

 この時点ではまだ、格納容器の弁を開けて内部圧力を下げる「ベント」措置は取られていなかった。1号機の炉内では11日夜から水位が低下、東電は大量注水を続けたが水位は回復せず、燃料が露出してメルトダウン(全炉心溶融)につながったとみられる。

 さらに炉心溶融により、燃料を覆う被覆管のジルコニウムという金属が水蒸気と化学反応して水素が発生、3月12日午後3時36分の原子炉建屋爆発の原因となった。

追記2011.5.25
地震前に壊れていたことを示唆する情報の続報が出てきた。
3号機の冷却配管、地震で破損か 津波前に
朝日新聞2011年5月25日5時14分
東日本大震災で被災した東京電力福島第一原子力発電所3号機で、炉心を冷やす緊急システムの配管が破損した疑いがあることが、24日に公表された東電の解析結果からわかった。東電は「想定を大幅に超える大きさの津波」が事故原因だとしてきたが、解析が正しければ、津波の到着前に重要機器が地震の揺れで壊れていた可能性がある。

 解析によると損傷の可能性があるのは、過熱した核燃料が空だき状態になるのを防ぐため、原子炉の水位を保つ緊急炉心冷却システム(ECCS)の一つ。「高圧注水系」と呼ばれる冷却システムだ。核燃料の余熱による水蒸気が主な動力源なので、電源がなくても動く。

 東電によると、3号機では3月11日の津波で外部からの電源がなくなった後、別の装置で原子炉を冷やしていたが、翌12日昼ごろに止まった。水位低下を感知して冷却方法が高圧注水系に切りかわると、水位はいったん回復。その後、電池が尽きて動作に必要な弁の開閉ができなくなった。水位はふたたび下がっていき、大規模な炉心溶融(メルトダウン)につながった。

 高圧注水系の作動時には、それまで75気圧ほどだった原子炉圧力容器内の圧力が、6時間程度で10気圧程度まで下がった。通常なら、ここまで急速な圧力低下は考えにくいため、東電は水蒸気を送る配管のどこかに損傷があり圧力が下がったと仮定して解析。結果は圧力変化が実際の測定値とほぼ一致し、配管からの水蒸気漏れが起きた可能性が出てきたという。
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2010年09月07日

社保庁職員の首を切った懲戒歴保有長官が大使に

 すでに旧聞に属するが、僕が夏休みで日本にいない間に、ザ・ラスト・社保庁長官の渡辺芳樹氏がスウェーデン大使に任命された。
失業の元社保庁長官、スウェーデン大使に 民間枠で採用
朝日新聞 2010年8月20日19時55分

 昨年末に厚生労働省を退職した渡辺芳樹・元社会保険庁長官(57)のスウェーデン大使就任が、20日の閣議で決まった。社会保険庁が解体された際に、天下りを原則認めない政府の方針で失業したが、民間枠で登用された。

 渡辺氏は、今年発足した日本年金機構の副理事長就任が有力視されていたが、懲戒処分歴を理由に長妻昭厚労相が「例外を認めない」と起用を見送った。スウェーデンは高福祉で知られ、渡辺氏は年金局長の経験などを買われたとみられる。

 閣議決定は全閣僚の署名が必要。長妻氏は20日の閣議後会見で「昨日聞いた。基本的には外務省の人事なので、淡々とサインした」と語った。

 この人の懲戒処分は業者から接待を受けていた関係のものと聞いている。

 僕は、この人がスウェーデン大使になったことについて異議はない。社保庁勤務の経歴を活かして、是非、日本とスウェーデンの架け橋になって頂きたい。まさか、10年以上前に業者から接待を受けた「自分自身の若さゆえの過ち」くらいで、大使としての資質が失われることはないだろう。
 でも、問題はある。懲戒歴のある職員がほぼ一律に首切りになったこととの不均衡だ。首を切られた職員が復職を求めて提訴したことについては7月24日に書いた「社会保険庁の分限免職問題で提訴した感想」を参照して欲しい。渡辺氏の眼差しは、首を切られた職員たちには全く向けられていないと言っていい。ザ・ラスト・サムライの渡辺謙は部下とともに突撃して運命をともにしたが、ザ・ラスト・社保庁長官の渡辺芳樹は2009年の年末に自らの名で525名の部下を「斬首」し、自分だけ生き残ったのだ。これは頂けない。彼は、大使になる前に、部下がちゃんと職を全うできるように全力を尽くすべきだったと思う。彼がスウェーデン大使になることについて本質的な問題がないのと同様、生まれる前からあった年金記録問題でバッシングされて首を切られた職員たちには、年金業務を行う上で何の欠格理由もないのだ。

 一方の長妻厚労大臣は口ではぶつぶつ言いながら渡辺氏の大使就任を承認していて、一般の職員に対する厳しい対応とは全く対照的だ。全く二枚舌としか言いようがない。この程度の御仁が日本の年金行政を預かり、日々、問題を深刻化させている状況を見るにつけ、腹立たしいやら、情けないやら、是非とも、訴訟で一泡吹かせたくなるのだ。
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