2014年05月23日

とりあえず有給休暇取ろうよ

 今日は、ツイッターが「#すき家ストライキ」のハッシュタグで湧いている。今のところ呼びかけ主体が不明なので、筆者自身は、多分、ストは起きないと思っているが、せっかくなので法律的に分析してみよう。

1 ストは労働組合に入ってやるのが王道
 ストライキは日本語で「同盟罷業」というが、労働組合を作らずに個人責任でやるのは勝手だ。しかし、それによって企業が損害を被ったときに、解雇されるだけでなく、損害賠償請求等をされる可能性もある。労働組合の素晴らしいところは
労働組合法
(損害賠償)
第八条  使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。

とされていて、労働組合も、その組合員も最初から免責されている(民事免責)ということだ。また、労働組合が行う正当なストライキは
労働組合法
(目的)
第一条  この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。
2  刑法 (明治四十年法律第四十五号)第三十五条 の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。

とされていて、要するに、刑法の「正当行為」として刑事処罰を受けない(刑事免責)。もちろん、物をぶっ壊したりしたらダメだよ。
 個人加盟労組に明日加入して、明後日ストライキをやっても、組合員の多数決で適法にストライキ権が確立されている限りは問題ない。首都圏青年ユニオンが相談を呼びかけていた。


 もちろん、パート、アルバイト労働者にも労働組合に加入する権利はあるし、現に、東京メトロの“売店のおばちゃん”たちが勇気を持ってストを打った事例が直近の時期にある。→「東部労組メーデー メトロコマース支部ストライキ闘争!」(労働相談センター・スタッフ日記)
 何事も成功体験が必要だ。今なら、かつてプロ野球選手たちがストライキを構えて世論の支持を得たように、支持を得られるのではないだろうか(あのときの古田敦也選手は格好良かったなあ。敵地でも打席に断つと歓声が沸いたりして。)。

2 ストは無理でも有給休暇くらいとったら?
 まあしかし、このエントリを読んだ多くの読者は「でも自分はそこまで・・・」と思っただろう。そういう人は、とりあえず、有給休暇の申請をしてみたらどうだろう。「え?アルバイトに有休とかあるの?」って思ったあなた。あります。厚生労働省のお墨付きです。詳しくはこちら→「年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか。」
 読んで貰えば分かるが、週1のシフト勤務のアルバイト労働者でも、半年間働き続ければ、有給休暇が付与される。1年間の所定労働日数が48日以上なら1日、73日以上なら3日も有給休暇を貰える。所定労働日数、週の労働日数は半年働き続けて有給休暇が付与された時点での実績から判断するようだ(こちらを参照。PDFなので注意。)。
予定されている所定労働日数を算出し難い場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出することとして差し支えありません。したがって、この場合には、雇い入れの日から起算して6か月経過後に付与される年次有給休暇の日数について、過去6か月の労働日の実績を2倍したものを「1年間の所定労働日数」とみなして判断して差し支えありません。

 そして、有給休暇をいつ申請するかは労働者の自由であるのが大原則だ。休暇を取る目的を告げる必要もなく、一方的に連絡するだけで良い。店長が無視するときは、コンビニからFAXで「○月○日は有給休暇を取得します。山田太郎」と送っても良い。この場合、送信レポートを残しておいた方がよい。
 そして労働基準法には
労働基準法附則
第百三十六条  使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

という規定があり、有休休暇を取ったことをもって不利益取扱をしてはならない。有給を取って嫌がらせをしてくるような職場なら、慰謝料請求するとか、一層のこと辞めてしまうのも、昨今の情勢を考えれば一つの手だろう。

3 使用者が時季変更権を行使してきたら
 しかし、アルバイトとはいえ、一度に大量の有休申請が出て、他店からヘルプが来ても回らないような状態になれば、使用者が「時季変更権」を行使することもあり得る。時季変更権が適法に行使されれば、その日自体は有休を取れないことになる(ただし他の日に取ってよい)。しかし、時季変更権の行使をするならその旨の文書を要求しよう。口で言った言わないは禍根を残すことになる。そして、一部上場の大手企業が、アルバイトの有休申請くらいで時季変更権を行使してきたら、その文書をネットで晒してあげればいいんじゃないかしら。
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2014年05月15日

残業代ゼロ法案の「年収1000万円以上」のカラクリ

 この記事で罵声を浴びせられている可能性もある筆者としては非常に胸くその悪い記事だが、それだけに最初に全文引用しておこう。
残業代ゼロと騒ぐマスコミと左派知識人 大半の労働者には無関係な話 
(2014年5月13日 夕刊フジ)
 政府が「残業代ゼロ」を検討しているとマスコミで報道されている。きちんとした制度名としては、「ホワイトカラー・エグゼンプション」といい、いわゆるホワイトカラー労働者に対して、労働時間の上限週40時間などの規制の適用除外とする制度だ。
 その場合、「残業」という概念自体がなくなるので、「残業代ゼロ」というのは正しい表現ではない。
 日本では制度としては未導入であるが、欧米ではこうした労働規制の適用除外がある。正確にいえば、日本でもホワイトカラーエグゼンプションに類するものはなくはないが、はっきりしない部分が多く、使い勝手が悪いのだ。
 欧米の場合、労働者のうち適用除外対象者の占める割合は、アメリカで2割、フランスで1割、ドイツで2%程度といわれている。
 日本でいま適用対象として検討されているのは、年収1000万円以上の労働者と、労組との間で指定された労働者だ。後者の範囲はわからないが、前者の条件である年収1000万円以上との均衡がとられるはずだ。
 前者の割合について、国税庁による2012年の民間給与実態統計調査結果をみると、3・8%しかいない。しかも、この数字は、会社役員をも含むので、労働者に対する割合はもっと低くなるだろう。となると、日本での労働時間規制の適用除外対象者の割合は、ドイツ並みだろう。
 多くの人が「残業代ゼロ」とのメッセージに、自分も対象者だと勘違いして、批判しているようだ。この種の世論調査はあまりないが、そうした反応が多いのはある意味当然だ。しかし、設問の中に「あなたは適用除外の対象者ですか」を入れたら、95%以上の人が対象者ではないと答えるはずで、世論調査にはなり得ないだろう。
 また、対象ではないことを知りつつも、現在自分の置かれている境遇において、十分な残業代が支払われていないと思っている人が多く、それへの不満のはけ口として、反対の意見を言うこともあるようだ。
 「残業代ゼロ」とのマスコミのネーミングで、正しく問題を認識できない人が多いのだ。ホワイトカラーエグゼンプションが導入されず現状維持となっても、対象にならない労働者の残業代が改善されるわけでないのだが。
 ちなみに「残業代ゼロ」の代わりに、「年収1000万円以上の人の残業代に対し所得税課税100%」といえば、反対する人もいなくなるだろう。それでも心配なら、まず公務員で実施してから民間にも適用するとすればいい。
 なお、「残業代ゼロ」を強調するのは、ある特定層に多いことに注目したい。一つは、年収1000万円以上の人が多く存在する大手マスコミや金融関係者だ。その人たちは、ホワイトカラーエグゼンプションが導入されると実際に損をする。
 もう一つは、雇用政策で居場所を失った左派識者だ。金融緩和によって失業率が低下し賃金が上昇してしまったので、労働政策専門家としてはメンツ丸つぶれだ。それを少しでも挽回したいのだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

誰も「所定労働時間に対する賃金が1000万円」なんて言っていない
 政府の「産業競争力会議」で、武田薬品工業社長の長谷川閑史が残業代ゼロ法案議論の口火を切ったことは先日ブログでも書いたが、その後、内閣府がマッチポンプ的な世論調査結果を公表し、産業競争力会議近辺では着実に議論が進んでいるようである。そのあたりは法政大学・上西充子教授の「残業や休日出勤は「評価に影響せず」は、ミスリーディングな報道」をご参照頂きたい。
 高橋洋一は「年収1000万円」が国民の3.8%しかいないという。この3.8%という数字の根拠は国税庁による2012年の民間給与実態統計調査結果だというので国税庁のホームページの該当箇所を見ると、「給与」の定義について「各年における1年間の支給総額(給料・手当及び賞与の合計額をいい、給与所得控除前の収入金額である。)で、通勤手当等の非課税分は含まない。なお、役員の賞与には、企業会計上の役員賞与のほか、税法上役員の賞与と認められるものも含まれている。」とされている。サラリーマン的に言えば源泉徴収票の税引き前の総支給額(支払金額)の欄のことを言っているようだ。
 しかし、日本ではサービス残業や、名ばかり管理職の制度による残業代の不払いが横行し、本来は賃金が1000万円を超えるはずの者が実際にはその金額が貰えていない可能性が高い。この「3.8%しかいない」というのがそもそもミスリーディングだろう。
 産業競争力会議は所定労働時間に対する賃金が1000万円などとは言っていないのであり、何も但し書きがない以上、残業代もボーナスもすべて込みの金額で「年収1000万円」と言っているのである(長谷川閑史が産業競争力会議に提出した資料はこちら。PDFなので注意)。このやり方、どこかで見たことがないだろうか。そう、固定残業代で見かけの賃金を多く見せようとするワタミのやり方と同じなのである。ワタミの新卒賃金の分析については筆者が過去に書いた「離職率は高くないというワタミの新卒賃金を考える」をご参照を。

所定労働時間に対する賃金とボーナスで700万円程度でも十分に導入可能
 現在の労働基準法を前提にして「年収10000万円」というのは、本当はどういう制度なのだろうか。下記の通り使用者側にそう不利でもない、いくつか仮定を置くと実は所定労働時間に対する年収+ボーナスで700万円程度の労働者である。実際に見てみよう。
仮定
月平均所定労働時間 173.8時間(年所定労働時間2085.6時間)
賞与        夏50万円、冬50万円 合計100万円
一月の法定時間外労働 60時間
一月の深夜早朝労働  10時間
一月の法定休日労働   8時間

 残業時間について言えば、筆者が今まで担当した残業代の事件の中ではかなり緩い方だ。また、残業代を払わない制度なので、所定労働時間は労基法の上限ギリギリに設定した。
 まずボーナスの年間100万円は残業代計算には入らない賃金ではないから控除すると900万円となる。これを12(ヶ月)で割ると75万円となり、なかなか高額のようにも見える。
 一方、これに対応する労働時間はどうなるのか。173.8+60×1.25+10×0.25+8×1.35=262.1となり、すべて所定労働時間内の労働であると引き直せば262.1時間分の賃金だということになる。
 そして75万円÷262.1=2862円(1円未満四捨五入)であり、これが残業代の基礎時給となる。これに月平均所定労働時間173.8時間を掛けると49万7416円となる。これが月平均の所定労働時間173.8時間に対する賃金であり、12ヶ月だと596万8992円である。これにボーナス100万円を足せば、696万8992円である。
 所定労働時間を大企業並みの月平均160時間としても、ボーナスを年間150万円とすると745万円程度の数字が出てくる。
 つまり、産業競争力会議のいう「年収1000万円」の本来の意味は、「ボーナス込みで、税引き前の総支給額が年収700万円〜750万円程度の人が月60時間の時間外残業、月10時間の深夜早朝勤務、月8時間の法定休日労働をした場合の賃金」ということなのである。
 そして、一度、この制度が導入されれば、この「年収1000万円」という数字自体がどんどん下がっていくだろう。

そしてAタイプには触れないお約束

 しかも、この記事をよく読むと、高橋は残業代ゼロ法案が適用される労働者が日本の労働者の3.8%だ、などと決して言っていない。もう一度、一番重要なところを引用しよう。「日本でいま適用対象として検討されているのは、年収1000万円以上の労働者と、労組との間で指定された労働者だ。後者の範囲はわからないが、前者の条件である年収1000万円以上との均衡がとられるはずだ。」。この「後者」は長谷川閑史の提案では「Aタイプ」と呼ばれるが、いや、高橋センセ、その「後者」の範囲が無定量に広がることが重大な問題の一つなんですよ。もともと、日本経団連が2005年に発表した「ホワイトカラーエグゼンプション導入に関する提言」(リンク先はPDFなので注意)では、年収400万円以上の者には残業代ゼロを導入できるようにしようとしていた。長谷川提案でも、Aタイプについては賃金額についての要件すらなく、労使合意で導入できることになっている。

まとめ
 高橋はあれこれと言を左右にするが、結局、日本経団連が多くの労働者に対して残業代をゼロにする施策を推進しており、かつ、今回の長谷川閑史提案はそれを実現するものであることは論を俟たない。筆者はこの高橋という御仁をよく知らないので浴びせるべき罵声が思い浮かばないのだが、とりあえず、「嘘つき」と言っておこうと思う。
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2014年04月23日

アベちゃんが冥界から呼び戻す「残業代ゼロ法案」の亡霊

1 ニュース報道
 ヤツが墓場から甦る!長いが新聞報道を引用する。長いのでこの項目は読み飛ばしてもよいです。
「残業代ゼロ」一般社員も 産業競争力会議が提言へ 朝日新聞2014年4月22日
 政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は、労働時間にかかわらず賃金が一定になる働き方を一般社員に広げることを検討する。仕事の成果などで賃金が決まる一方、法律で定める労働時間より働いても「残業代ゼロ」になったり、長時間労働の温床になったりするおそれがある。
 民間議員の長谷川閑史(やすちか)・経済同友会代表幹事らがまとめ、22日夕に開かれる経済財政諮問会議との合同会議に提言する方向で調整している。6月に改訂する安倍政権の成長戦略に盛り込むことを検討する。
〜中略〜
 対象として、年収が1千万円以上など高収入の社員のほか、高収入でなくても労働組合との合意で認められた社員を検討する。いずれも社員本人の同意を前提にするという。また、当初は従業員の過半数が入る労組がある企業に限り、新入社員などは対象から外す。

2 もう一度残業代の基礎をおさらい
 我が日本国は、労働基準法により、労働者の労働時間を週40時間、一日8時間に限定している。意外と知られていないが、これを超えて働かせるのは刑罰が定められた犯罪である。
 これを超えて労働者を働かせることができるのは、災害など臨時の必要がある場合か、職場で残業時間の上限を定めた適法な三六協定(さぶろく協定。労基法36条で定められているのでそう言う。)を定めたなど限定された場合であり、これも意外と知られていないが、政府の基準では月あたりの法廷時間外労働の上限時間は45時間である(リンク先はPDFなので注意。「時間外労働の限度に関する基準」。ただし強制力がないので実際は長時間残業が野放しになっている)。
 そして、あまり語られない残業代の最大の特徴は、月給制だろうとなんだろうと、法所定の計算により1時間当たりの時給単価(基礎時給)を割り出し、基礎時給に割増率を掛けた金額との関係で法定外残業時間に正比例して支払われるということである。しかも、基礎時給計算から除外される賃金も厳しく制限されている。
 基礎時給の計算方法については、以前、ワタミの賃金を例にとって解説したことがあるので、興味がある人はそちらをご覧頂きたい。→「離職率は高くないというワタミの新卒賃金を考える」
 残業代の未払ももちろん犯罪であり、労働者が訴訟を提起した場合は、裁判所は使用者に懲罰的な付加金を命じることができる。労基法の付加金制度は日本の法制度の中では裁判所が民事的な制裁金を科せる珍しい制度である。
 このように、使用者が脱法できないように何重にも規制がかけられているのが法定外残業、深夜早朝労働、法定休日労働なのであり、それでもサービス残業が横行しているのが今の日本の現状なのである。
 今でも、「管理監督者制度」という法定時間外割増賃金を払わなくてよい制度があるが、適用要件は非常に厳しい。このブログを読んでいるほとんどの人には適用できないと思って差し支えない。感覚的には「マクドの店長くらいでは適用されない」と覚えておけば良いだろう。企業の中間管理職になった途端、残業代がつかなくなり、手取りが減る話はよく聞くが、ほとんどの事例で違法だと思って良い。
 また、「裁量労働制」という制度もあるが、この制度も適用要件が非常に厳しい上、あくまで労働時間を「みなす」制度であり、みなされる労働時間が法定労働時間を超える場合は、当然、残業代が支払われる。この制度も脱法的運用が疑われており、疑念がある人は、一度、日本労働弁護団の弁護士に相談した方が良いだろう。

3 一度は葬られた「残業代ゼロ法案」
 このように、払わなければならない残業代を払ってこなかったのが日本の経営者たちであり、その総本山が日本経団連である。日本経団連はそれでも飽き足らず、2005年に「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」を発表して以降、場合によっては年収400万円以上の労働者について適用される残業代ゼロ法案を強力に推進し、第一次安倍政権のときに、ついに法案化まで漕ぎ着けた。彼らの王道楽土(労働者の地獄)が訪れようとしていた・・・(このあたりの経緯は手前味噌ながら『POSSE』2220号の拙稿がフォローしている)。
 この残業代ゼロ法案の凄まじさは、労働時間を「みなす」制度すら放棄し、一定以上の年収がある労働者について、賃金と労働時間(残業時間)の対応関係を完全に切り離そうとする点にあった。この法案が「残業代ゼロ法案」であることはもちろんだが、「過労死促進法案」の異名があったのは周知の事実である。
 この法案は、首相・アベちゃんの下で法案化され、国会提出直前まで行ったが、国民世論の激しい反発に遭い、結局、国会で審議すらできずに葬られ「成仏」した。

4 死の会議・産業競争力会議

(1)トップはまたしてもアベちゃん
 しかしここへ来て、成仏したはずの残業代ゼロ法案を冥界から呼び戻そうとする人々がうごめきはじめた。主導している「産業競争力会議」は歴とした政府機関である。会議の名簿を政府のHPから取得してこのエントリの最後に付けておいたが、またしても、トップはアベちゃんである。この人、本当に懲りないね。産業競争力会議は、残業代ゼロ法案の他にも、今、国会に提出されている労働者派遣法改悪法案の主導するなど(この法案も要注意である。詳細は佐々木亮弁護士の「派遣労働の不安定さの理由と派遣法改正案が持つ危険性」参照)、この間の国民世論の反発でやっと(ほんの少しだけ)まともになった労働法制を、ふたたび地獄に引きずり落とそうとする「死の会議」である。
(2)口火を切ったのは「アリナミンでおなじみの武田薬品」社長
 今回、残業代ゼロ法案議論の口火を切ったのは武田薬品工業社長の長谷川閑史である。この会社は先日、糖尿病の薬「アクトス」の発ガン性リスクを隠していたことで、米国で6200億円の巨額賠償を命じられたばかりだが、一般消費者向けの主力商品は言わずと知れた「アリナミン」である。そうか!労働者が残業代ゼロ法でヘトヘトに疲れれば、アリナミンが沢山売れるかもしれない。さらに疲労が増せば、消費者がグレードアップしてEXゴールドにしてくれるかもね!
 筆者は栄養ドリンクが苦手なのでもともとほとんど買ったことはないが、上記報道に接し、アリナミンだけは絶対に買うまいと固く誓った。もうすぐ5月1日のメーデーだが、連合も、全労連も、全労協も、今年のスローガンは「万国の労働者は団結してアリナミンを不買せよ」でいいんじゃないだろうか。
(3)学者の皮を被ったパソナ会長の竹中平蔵
 政府作成の産業競争力会議の名簿では、竹中平蔵は慶応大学教授となっているが、政府にしろ、マスコミにしろ、この御仁をいつまで学者として扱う気なのだろうか。竹中は2009年に人材派遣会社のパソナの取締役会長に就任しており、少なくともその後、辞任したという報道はない。パソナは、残業代ゼロ法案が成立すれば、主力商材たる派遣社員の賃金を大幅にカットできる可能性がある。バリバリの利害関係者である。生身の人間を中間搾取して儲けている会社の関係者が残業代ゼロ法案を推進する会議の議員をやっているなんて、どういうブラック・ジョークなんだろうか。

5 まとめ
 ところで、アベちゃんも、賃金が上がらないと景気回復しないって、言ってなかったっけ?アベちゃんは、賃金を切り下げ、労働時間を増やすような法律作って、景気が回復すると本気で思っているのだろうか。こういう矛盾することを、政府にごり押しして自分たちだけ儲けようとするのが、今の財界中枢であり、日本経団連である。しかも、前回で懲りず、むしろ、適用される労働者を大幅に拡大しようとしているようである。最大限の批判を加えて、労働者派遣法改悪案に加え、残業代ゼロ法案をもう一度「成仏」させ、選挙でも自民党にお灸を据え、二度と甦らないようにする必要があると思う次第。

産業競争力会議 議員名簿(平成25年1月23日現在)
議長   安倍 晋三 内閣総理大臣
議長代理 麻生 太郎 副総理
副議長  甘利  明 経済再生担当大臣兼内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
副議長  菅  義偉 内閣官房長官
副議長  茂木 敏充 経済産業大臣
議員   山本 一太 内閣府特命担当大臣(科学技術政策)
議員   稲田 朋美 内閣府特命担当大臣(規制改革)
議員   秋山 咲恵 株式会社サキコーポレーション代表取締役社長
議員   岡  素之 住友商事株式会社 相談役
議員   榊原 定征 東レ株式会社代表取締役 取締役会長
議員   坂根 正弘 コマツ取締役会長
議員   佐藤 康博 株式会社みずほフィナンシャルグループ取締役社長 グループCEO
議員   竹中 平蔵 慶應義塾大学総合政策学部教授
議員   新浪 剛史 株式会社ローソン代表取締役社長CEO
議員   橋本 和仁 東京大学大学院工学系研究科教授
議員   長谷川 閑史 武田薬品工業株式会社代表取締役社長
議員   三木谷 浩史 楽天株式会社代表取締役会長兼社長
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2014年02月25日

NHK会長が理事の辞表を預かることの意味

 NHK会長の籾井勝人が相変わらず物議を醸し続けている。今度は、NHKの理事全員の辞表を預かっていたというのだ。
NHK理事10人全員「辞表出した」 国会で次々答弁 朝日新聞 2014年2月25日11時16分
NHKの籾井勝人会長が就任後、10人の理事全員に日付欄を空白にした辞表を提出させていたことが25日、わかった。この日午前の衆院総務委員会に参考人として招かれた理事10人が提出を認めた。理事の任期満了前も罷免(ひめん)できるようにし、会長の人事権を強める狙いがあるとみられる。

 衆院総務委で福田昭夫氏(民主)の質問に理事10人が辞表提出を認めた。籾井氏は当初、人事案件を理由に答えなかったが、理事の答弁後は「各理事は事実をそのまま述べた。それはそれでけっこう。私がどう思うかは別問題」と述べた。

NHKの役員の役割
 上記の記事だけでは分かりにくいので、NHKの会長と理事の関係を調べた。NHKの業務執行体制は端からは非常に分かりにくいのだが、経営委員会が執行機関議決機関(重要事項の意思決定はここでする。会社でいえば取締役会のようなものか)であり、会長は経営委員会を総理し、NHKを代表する。会長、副会長、理事の集合体である「理事会」は重要事項を審議し(議決権はないようだ)、個別の理事は会長の下で、部分的にNHKを代表する権限を持ったり、会長・副会長の業務を補佐し業務を掌理する立場のようだ。
放送法
(役員)
第四十九条  協会に、役員として、経営委員会の委員のほか、会長一人、副会長一人及び理事七人以上十人以内を置く。
(理事会)
第五十条  会長、副会長及び理事をもつて理事会を構成する。
2  理事会は、定款の定めるところにより、協会の重要業務の執行について審議する。
(会長等)
第五十一条  会長は、協会を代表し、経営委員会の定めるところに従い、その業務を総理する。
2  副会長は、会長の定めるところにより、協会を代表し、会長を補佐して協会の業務を掌理し、会長に事故があるときはその職務を代行し、会長が欠員のときはその職務を行う。
3  理事は、会長の定めるところにより、協会を代表し、会長及び副会長を補佐して協会の業務を掌理し、会長及び副会長に事故があるときはその職務を代行し、会長及び副会長が欠員のときはその職務を行う。
4  会長、副会長及び理事は、協会に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに、当該事実を監査委員に報告しなければならない。
日本放送協会定款(リンク先はPDFなので注意)
(理事会)
第43条
会長、副会長及び理事をもって理事会を構成する。
2 理事会は、次の事項を審議する。ただし、定例に属する事項及び会長が軽微と認めた事項については、この限りでない。
(1) 第13条第1項第1号に掲げる経営委員会が議決する事項
(2) 第66条第2項の規定により経営委員会の同意を得る事項(第67条第2項において準用する場合を含む。)
(3) 理事会の運営に関する規程
(4) その他会長が特に必要と認めた事項
 ホームページで経営委員の顔ぶれを見ると(こちらを参照)、ほとんどがいわゆる「有識者」であるのに対し、より業務に近い理事の顔ぶれを見ると(こちらを参照)、生え抜きばかりであることが分かる。

会長は理事を罷免できるのか
 まず、理事の任命に関しては放送法52条3項で「副会長及び理事は、経営委員会の同意を得て、会長が任命する。」とされており、そもそも、会長の一存で任命できるものではない。そして、理事の罷免については放送法で以下のようになっている。
第五十四条  経営委員会又は会長は、それぞれ第五十二条第一項から第三項までの規定により任命した役員が同条第四項において準用する第三十一条第三項各号のいずれかに該当するに至つたときは、当該役員が同項第六号の事業者又はその団体のうち協会がその構成員であるものの役員となつたことにより同項第六号又は第七号に該当するに至つた場合を除くほか、これを罷免しなければならない。
第五十五条  1項略
2  会長は、副会長若しくは理事が職務執行の任にたえないと認めるとき、又は副会長若しくは理事に職務上の義務違反その他副会長若しくは理事たるに適しない非行があると認めるときは、経営委員会の同意を得て、これを罷免することができる。
 要するに、会長が理事を罷免できるのは、(1)理事が下記の放送法第31条3項各号(一部読み替え規定あり)に該当する場合、(2)理事が職務執行の任にたえないと認めるときもしくは理事たるに適しない非行があるときに経営委員会の同意を得て罷免する場合だけであり、逆に言えば、それ以外の場合に、会長が理事を勝手に罷免できないのである。これを裏返せば(追記:理事の側から見れば)、会長との関係で、理事はそれだけ身分を保障されている、ということになる。
放送法31条
(中略)
3  次の各号のいずれかに該当する者は、委員となることができない。
一  禁錮以上の刑に処せられた者
二  国家公務員として懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三  国家公務員(審議会、協議会等の委員その他これに準ずる地位にある者であつて非常勤のものを除く。)
四  政党の役員(任命の日以前一年間においてこれに該当した者を含む。)
五  放送用の送信機若しくは放送受信用の受信機の製造業者若しくは販売業者又はこれらの者が法人であるときはその役員(いかなる名称によるかを問わずこれと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。以下この条において同じ。)若しくはその法人の議決権の十分の一以上を有する者(任命の日以前一年間においてこれらに該当した者を含む。)
六  放送事業者、第百五十二条第二項に規定する有料放送管理事業者、第百六十条に規定する認定放送持株会社若しくは新聞社、通信社その他ニュース若しくは情報の頒布を業とする事業者又はこれらの事業者が法人であるときはその役員若しくは職員若しくはその法人の議決権の十分の一以上を有する者
七  前二号に掲げる事業者の団体の役員

脱法行為許すまじ
 そうであるにも関わらず、会長が理事に対して日付空欄の辞表を書かせることには、どういう意味があるのか。
 これは、会長からは罷免できないものを「理事が勝手に辞めた」という体裁をとることで、脱法的に離職に追い込むことにある。もちろん、実際にそのようなことが実際に可能かは疑問がなくはないし、勝手に辞めさせられたことになった理事が裁判でも起こせば、大いに論点になるだろう。しかし、理事たちは、自分で辞表を書いてしまった負い目があるのに、訴訟までやって理事の座を守ろうとするだろうか?それは、まず、ないことだろう。日付白紙の辞表を預かるということは、そのように、法的に争われたら効果に疑問があるが実際には法的に争うことなんか(ほぼ)できない実態を前提に、「オレが辞表を預かっていて、いつでも「〜〜理事は自らの意思で辞任しました」と発表できるんだから、オレの言うこと聞けよ」という露骨な恫喝なのであり、放送法の仕組みを脱法する悪質な行為だ。朝日新聞がいうような「会長の人事権を強める狙い」などという生やさしい話ではないのである。
 そして、籾井勝人が就任時に「「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない。国際放送にはそういうニュアンスがある」と言ったことは公知の事実であり、実際の現場の職務により近い理事の独立性を脱法的に奪うことで、放送現場に介入していくことは想像に難くないのである。
 こんな暴挙は、絶対に、許してはならない。

2014.2.25追記
 毎日新聞で下記のような記事を見つけた。筆者は、個人的には抗議しようと思う。
NHK:半沢直樹より面白い!? 籾井会長の“剛腕”ぶり 毎日新聞2014年02月25日15時17分(最終更新 02月25日 15時33分)
 「今直ちに電話とファクスで籾井会長解任を求める声をNHKに集中しよう。これから1〜2週間で何万人もにやってもらいたい。声が力になる。声の民主主義だ」。東京都内で22日に開かれた、市民の立場からNHK問題を考える緊急集会で醍醐聡東大名誉教授が訴えた。集会には全国から市民団体や放送関係者ら約200人が参加。醍醐氏がNHK窓口電話(0570・066・066)を紹介すると、拍手がわき起こった。

2014.2.26追記
 今日は下記のごとき発言をしたらしい。ソレナンテブラック企業?しかも、民間で勝手にやってるのと、それが放送法で縛られたNHKでもやっていいかどうかは全く別次元の話であるはずだが・・・・。
辞表提出の要求「一般社会ではよくある」 NHK会長 2014/2/26 11:21 日経新聞(共同通信配信)
 籾井勝人NHK会長は26日の衆院予算委員会の分科会で、理事に辞職届を書くよう求めたことについて「辞表を預かったことで萎縮するとは思わない。一般社会ではよくある」と述べ、問題はないとの認識を示した。
posted by ナベテル at 18:18| Comment(28) | TrackBack(1) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月13日

安倍の安倍による安倍のための憲法解釈

 安倍首相が国会答弁で立憲主義を否定する発言をしたという。
首相、立憲主義を否定 解釈改憲「最高責任者は私」(東京新聞2014年2月13日)
 安倍晋三首相は十二日の衆院予算委員会で、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更をめぐり「(政府の)最高責任者は私だ。政府の答弁に私が責任を持って、その上で選挙で審判を受ける」と述べた。憲法解釈に関する政府見解は整合性が求められ、歴代内閣は内閣法制局の議論の積み重ねを尊重してきた。首相の発言は、それを覆して自ら解釈改憲を進める考えを示したものだ。首相主導で解釈改憲に踏み切れば、国民の自由や権利を守るため、政府を縛る憲法の立憲主義の否定になる。 

 首相は集団的自衛権の行使容認に向けて検討を進めている政府の有識者会議について、「(内閣法制局の議論の)積み上げのままで行くなら、そもそも会議を作る必要はない」と指摘した。

 政府はこれまで、集団的自衛権の行使について、戦争放棄と戦力の不保持を定めた憲法九条から「許容された必要最小限の範囲を超える」と解釈し、一貫して禁じてきた。

 憲法の文言には確かに幅があり、その範囲内での解釈のずれというのはあり得る、とされる。学術的に「憲法の変遷」などともいうようだ(実はそのことをちゃんと勉強してない)。しかし、憲法は国民が国家権力という凶暴なバケモノに対して科した“拘束具”であり、憲法解釈が憲法の文言解釈の問題である以上、権力者が勝手に文言を離れた解釈をすることはあり得ない。憲法で「黒」と書いてあるものを解釈で「白」とすることはできないのだ。
 憲法9条が集団的自衛権を否定しているのは、まさにこのレベルの話で、日米安保を推進し、自衛隊強化を推進してきた歴代自民党政権ですら、集団的自衛権(典型例はアメリカ軍が攻撃を受けたら自衛隊が参戦するということである)は憲法上行使できないとしてきたのだ。
 また、解釈上許されないものを、内閣が勝手に表明して、衆院選、参院選で勝ったからといって、解釈を変更できるものでもない。憲法を変えたいのなら、所定の手続による憲法改正の国民投票(憲法96条)をしなければならない。憲法というのはそういうものだし、憲法まで崇高な話を持ち出さなくても、ルール一般がそういうものだろう。野球で巨人が何回連続リーグ優勝しても、巨人だけで勝手に「野球は三角ベースとする」とはできないのである。

ついに憲法自体を破壊し始めた安倍晋三
 安倍晋三の上記発言は、このような憲法の解釈を一切無視し「憲法の解釈は、憲法の解釈上、オレが決めることができる。ソースはオレ。」と言っているに等しい。しかし、文言上無理だと言われいている憲法解釈を、時の政権の勝手な判断でOKとできると言うことが、どれだけ危険な発言か、皆さんよく考えて欲しい。例えば憲法で言う「国民」について、時の政権が「ただし生活保護受給者は除く」「ただし非正規労働者は除く」「ただし後期高齢者は除く」などと勝手に解釈し、人権を剥奪して、強制収容所送りにすることだって可能だろう。安倍晋三の発言は、まさにその類のものであり、国民が憲法という拘束具を権力者にはめて、暴走をストップしようとする立憲主義そのものの否定であり、独裁者の発想そのものである。また、安倍晋三を支持するみなさんは、そのようなオールマイティーの権力を、「ルーピー鳩山」のごとき人物が手にしたときに何が起こるのかを考えてみればよいのではないか。
 思い起こせば、安倍政権は発足直後から、改憲手続を定めた憲法96条を緩和しようだの、法律で集団的自衛権を認めようだの、憲法をネグレクトしてきた。安倍政権がこういうセコイ迂回路を考えざるを得ないのも、実は、国民が今の憲法を支持しているからでもある。いよいよ、安倍晋三の本質が明らかになってきた上記発言、決して許してはならない。そして、昨年5月に憲法96条改憲が頓挫したように、国民世論が反発すれば、安倍晋三の危険な発言を潰すことも十分に可能なことだ。右翼も、左翼も、中道も、高齢者も、若者も、みんなで批判しよう。
posted by ナベテル at 13:58| Comment(3) | TrackBack(1) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする