2013年04月26日

産経新聞の「国民の憲法」が激しくやらかしている件

 今日、産経新聞が「国民の憲法」なるものを発表した。一見してもの凄いかび臭いにおいが飛んでいるため、筆を取らずにはいられなくなった。

憲法とは何か
 現行の日本国憲法は言うまでも無く憲法である訳だが、ここで言う「憲法」には歴史的に鍛え上げられてきた概念がある。それを余すことなく説明する能力は筆者には無いが、学生の頃、ゼミで教授が口酸っぱく言っていた言葉がこれである。
フランス人権宣言
第16条(権利の保障と権力分立)
権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていないすべての社会は、憲法をもたない。
 国家に対する国民の権利保障が確保され、国民の権利を侵害する国家権力の分立(これによって人権侵害の元凶である国家権力自体を弱体化する)が定められていなければ、憲法という名前を名乗っていても、日本国憲法も含まれるフランス人権宣言以来の「憲法」には含まれない、ということなのだ。
 皆さん、学校で勉強したと思うが、日本国憲法の三大柱は「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」であり、三権分立もしっかり規定しているから、フランス人権宣言以来の立憲主義の思想を正統に受け継いだ「憲法」であることは疑いがない。

産経新聞の「国民の憲法」の特徴
 産経新聞が自分でまとめ画像を作っているので引用しよう。
産経新聞「国民の憲法」の「特徴」.jpg
 見ての通りだが、産経新聞の「国民の憲法」の12個の特徴に国民の国家に対する権利は何も記載されていない。日本国憲法の三大柱と比べて貰えば、産経新聞の発想がいかにフランス人権宣言以来の立憲主義の考え方から外れているかが分かるだろう。

人権規定もひどい
 これに対しては「改正点の特徴を示しただけで人権はちゃんと書いてある!」という反論が予想されるので、人権規定の総則的な部分だけ検討しておく。
第18条(基本的人権の制限) PDFだがリンクはこちら
権利は義務を伴う。国民は互いに権利及び自由を尊重し、これを濫用してはならない。
2 自由及び権利の行使については、国の安全、公共の利益または公の秩序の維持のため、法律で規制することができる。
 これは「国民の憲法」の人権規定の二番目に登場する重要な条文なのだが、それが「基本的人権の制限」というのはいかにも振るっているではないか。これでは明治憲法が定めた「法律の範囲」での人権と何も変わらない。明治憲法は「外形的立憲主義」とも言われ、フランス革命以来の「憲法」とは似て非なるまがい物なのだが、法律でいくらでも制限できる“人権”がフランス人権宣言で言うところの人権とは相容れないまがい物であることは言うまでも無い。
 なお、「権利は義務が伴う」というのは、権利を行使する国民に対して、国家がそれを受け入れる義務を有している、ということなら正しいが、国民が行使する権利そのものにコバンザメのように義務がくっついているという意味なら、全くの誤りである。

まとめ
 産経新聞の「国民の憲法」なるものが、フランス革命以来の「憲法」から外れたものであり、日本国民の人権を『蟹工船』や、小学館の『まんが日本の歴史』に出てくる「弁士中止!」の時代に逆行させるものであることはご理解頂けたと思う。
 今、国会では国民の参政権を侵害している定数是正が遅々として進まず、自民党が出してきた衆議院の「0増5減」なるものは提案の時点で最高裁の判決に違反していることはすでに周知の事実である。産経新聞は、こんな落書きレベルの憲法草案を提案するくらいだったら、目の前で現に権力者(国会議員)が行っている憲法違反を是正するための選挙制度か区割りの方法でも提案したらどうかと思うが、「憲法、憲法」と声高に叫びながら、目の前の憲法違反を放置して、こういういかがわしい落書きを提示するところに、産経新聞の産経新聞たる憲法観がよく見えると思うのだ。
posted by ナベテル at 13:34| Comment(31) | TrackBack(1) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月17日

「ワタミの新卒賃金」アフターケア

 昨日書いた「離職率は高くないというワタミの新卒賃金を考える」は今日も合わせて7000pvを超え、反響の大きさに驚いている。ツイッターでRTしてくれた方やはてなブックマークでコメントを付けた人については一通りめを通し、「なるほどな」と思う点も沢山あったので、書いた甲斐はあったなと思う。その中で、いくつか誤解や疑問が生じている点もあったので、アフターケア的に書いておこうと思う。まあ、もはや「祭りの後」なので、読む人は少ないかもだが。

月給制の基礎時給の計算の仕方の詳細
 昨日の記事では、話の流れを重視して、月給制の基礎時給の計算の仕方を詳細に記載しなかったので、ここに記しておく。これについては労働基準法施行規則第19条にまとめて書いてある。
第十九条  法第三十七条第一項 の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条 若しくは法第三十六条第一項 の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。
一  時間によつて定められた賃金については、その金額
二  日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額
三  週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額
四  月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額
五  月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額
六  出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
七  労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額
 月給制は4号の計算方法による。原則として全ての賃金を合計した合計金額を月の平均所定労働時間で割ることになる。ただし、交通費、家賃補助、家族手当、別居手当、子女教育手当、ボーナス、祝い金が実態を伴って支給されている場合は合計額から除く(労基法施行規則21条)。実態がないとだめなので、家賃補助と言いながら、家持ちの人にも一律に支払われているような場合は除く必要はない。
 そして、所定労働時間は事業所によって違うから自分で調べるしかないが、困ったらとりあえず173.8で割ってみると良い。これは労基法が定める最低水準なので、これより所定労働時間が多い場合はアウトで、173.8に修正されるからだ。
 はてブでは「計算するのが怖い」的な意見もあったが、勇気を持ってやってみて欲しい。

固定残業代は必ずOKな訳ではない

 前回の記事はワタミフードサービス株式会社の45時間分の固定残業代について、適法に導入されている前提で記事を書いたが、この種の固定残業代がすべてOKなわけではなく、むしろよく分析すれば違法な事例の方が多い。以下は昨年、筆者と事務所の同僚が弁護した事件で勝訴した事例だ。
高級ホテルの長時間未払い残業事件に勝訴!〜「給与第一」を活用
過労死ライン超過の残業
 2012年10月16日、京都地裁において、ホテル「THE SCREEN」を経営する株式会社トレーダー愛に対して、280万円あまりの残業代の支払いを命じる判決(既に確定)が下されました。元ホテルマンの原告Oさんが勤務していた「THE SCREEN」は、ミシュランガイド日本版にも紹介された高級ホテルです。  判決が認定したOさんの時間外勤務は、少ない月で72時間、多い月では112時間を超えました。また、過労死ラインを超過する80時間超の残業が常態化していました。

アルバイトより低い時給?
 被告は、Oさんの給与を、基本給月額14万円、成果給13万円とし、この成果給と1回3000円の宿日直手当を時間外手当として支払い済みであると主張しました。被告の主張ではOさんの時給は890円ほどにしかならず、担当業務が少ないアルバイトスタッフの賃金の方が高いくらいです。

成果給は時間外手当ではない

 これに対して判決は、(宿日直手当を含めると)時間外手当が基本給を上回るような被告の賃金体系は不合理であることを指摘し、時間外手当と定められた成果給の中には基本給部分が混在しているとして、既に時間外手当を支払っているという被告の反論を否定し、成果給と宿日直手当を割増賃金計算の基礎に入れました。被告の就業規則では、成果給を時間外手当とし、割増賃金計算から除外することが明記されているものの、役職者手当と通勤手当を除く他の7つもの手当が全て時間外手当とされていること、また、各地の基本給がほぼ最低賃金に合わせて設定されており、よほど長時間労働をしない限り時間外手当が発生しない仕組みになっていることなどからも、被告の給与体系は、時間外手当を支払わないための便法であると断罪したのです。
 様々な実態を分析して、固定残業代が残業代としての実態を有していないということになれば、上記事例のように残業代としての支払いが無効とされ、固定残業代だった賃金も基礎時給に入れ込んで(すなわち基礎時給が大幅にアップして)一から残業代を払いなおさせることができる場合もある。なので、
id:tikani_nemuru_M
補足すると、「残業代込みの基本給」という賃金体系では、計算に入っていた残業時間をオーバーしても支払われないことが多いです。そういう誤魔化しのための有効な手段となってますね、現実。
みたいな実態がある場合は、諦めずに労働者側で労働事件をやる弁護士(日本労働弁護団のHPで紹介されている事務所なら頑張ってくれるだろう)に相談する価値がある。一方、
id:nextworker
自分は経営者側の人間だけども、この賃金体系って、自分の観測範囲だとジワジワと広がってる印象を受ける。意図はやっぱり総賃金の圧縮。
という意見もある。この印象は筆者も感じていて、一部の社労士がそういう就業規則の導入を奨励しているようにも見える。しかし、固定残業代は、本来は管理が難しいものだ。管理がずさんで実態が薄ければ、残業代請求する余地も出てくる。諦めずに頑張って欲しい。

悲痛な叫びが聞こえる

 はてブのコメントで「何か実感こもってるな〜」と思ったのがこれ。
id:Dursan
集計の中でなかったことにされる勤務時間。その虚ろに人は酔い、泣く。人それをサービス残業という。、、、、、、、、、貴様らに名乗る名前はないっ!
 夜遅くに居酒屋で働いているスタッフを見ると、陰ではそう思ってるんだろうな〜と思う。この意見に限らず、『蟹工船』的な意見が漏れてくる。やはり、日本の労働のあり方を見直さないといけないし、夜中までコンビニとか飲食店が開いているのが当たり前の生活を変えていく必要もあるのではないかと思う。三大都市圏の地下鉄の営業時間を24時間にする、というニュースがあったが、それは過労死を増やすだけだろう。
 そして最後に一言。ワタミにしろ、他の企業にしろ、ネット上で批判しても大して痛くないんだよ。やっぱり、職場で労働組合を作って待遇改善を勝ち取っていくのが一番重要だと思う。相談にはいくらでも乗りますよ。
posted by ナベテル at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月16日

離職率は高くないというワタミの新卒賃金を考える

 今、日経ビジネスオンラインに、ワタミ株式会社代表取締役の桑原豊氏が語る「「我々の離職率は高くない」ワタミ・桑原豊社長が、若手教育について語る」という記事が載っている。確かに、「ブラック企業」という言葉は概念が定義されている訳ではないので、レッテル貼りになりかねない側面はある。しかし、ワタミ(というか居酒屋の従業員が所属しているのは桑原氏が代表取締役を務める子会社の「ワタミフードサービス株式会社」ではないだろうか。会社概要はこちら)の労働条件が実際にどんなものかを分析することは、この問題を考える上では有益なのではないだろうか。まあ、この運営子会社という方式自体が、すでになんとなくピンとくるものがあるんですが。
 幸いワタミフードサービス株式会社はホームページで労働者を募集しており、相当詳細に書いてあるので、労働条件を分析することが出来るのだ。

ワタミフードサービスの賃金
 ワタミフードサービス株式会社の「新卒募集要項」で賃金を見ると初任給について
基 本 給 :190,000円(うち深夜手当30,000円含む)
超過勤務手当:52,335円(時間外勤務45時間)
年勤務日数258日(平年の場合。休暇日数が107日なので)
であることが分かる。「深夜手当」の意味が明確では無いが、労基法の定める深夜早朝勤務手当の意味だとして話を進める。

基礎時給の算出
 では、この会社の新卒採用社員の賃金の時間単価(以下「基礎時給」とする)はいくらだろうか。社会人でも、これの算出方法は知らない人の方が圧倒的に多いと思うので、この機会に計算方法を知っておいて欲しい。
 この会社の平年の年間所定労働日は365日−107日=258日である。断りがない以上、一日8時間労働制だと思われるので、年所定労働時間は2064時間となる。これを12で割ると各月の所定労働時間が得られるが、これは172時間ぴったりとなる。ちなみに、変形労働時間制が適法に導入されていない限り、平年の月所定労働時間の上限は173.8時間(=週40時間労働制÷週7日×年365日÷12ヶ月で得られる)である。
 話が脇にそれたが、月給をこの172で割れば、基礎時給の額を得ることが出来る。しかし、ここで大きなポイントがある。上記の新卒賃金のうち、深夜早朝勤務手当、残業代はあくまで超過勤務をした場合の割増賃金に過ぎないので上記の「月給」との関係では「除外賃金」となる(こういう紛らわしい記載が禁止されていないのが一つの問題なのです)。結局、これらを除いた16万円を172で割った930円(四捨五入)がこの会社の新卒職員の基礎時給となる。ちなみに東京都の最低賃金は850円(2012年10月1日時点)である。

給与に含まれる深夜早朝勤務時間

 一方、深夜早朝勤務の単価は930円×0.25=約234円。深夜手当として支払われる3万円を割ると約128時間分の賃金が先払いされていることになる。新卒の正社員は月128時間の深夜早朝勤務(夜10時から早朝5時までの時間帯)をすることが期待されていると言えるし、ここまでは給与で最初から支給済みで、深夜早朝金手当は別途支給されない。
 ところで、一日の深夜早朝勤務時間の上限は理論上7時間だ(午後10時から午前5時までが7時間しかないから)。年労働日258日を12ヶ月で割ると月平均21.5日勤務。仮に全部の勤務日でフル夜勤で働くとすると、21.5×7=150.5で、一月の深夜早朝勤務の時間は150.5時間となる。これと128時間と比べると、すべての勤務日において約6時間の深夜早朝勤務することがあらかじめ想定されていると言える。もちろん、シフト制だから、深夜早朝勤務を7時間フルでやる日や、5時間とする日などがあるということだろう。

時間外勤務手当の計算
 一方、超過勤務手当(残業代)の先払いが45時間分で5万2335円。時給930円×1.25=約1163円となり、これで割ると45時間ちょうどとなり検算も正しい。繰り返すが、この分の残業代は給与で先払いされている。

月100時間残業したときの賃金
 さて、この給与体系で月100時間の残業をすると、賃金は一体いくらになるのか。45時間分の残業代は支払済みなので1163円×55時間=6万3965円が別途支払われる残業代となる。これに16万+3万円+5万2335円=30万6300円となる。すべての勤務日にフルの深夜早朝勤務をすると仮定して、深夜手当を22時間分プラスすると5148円。合計で31万1448円となる。
 月100時間の残業があって、その多くが深夜早朝勤務というのは、厚生労働省の基準で言えば過労死ラインを超えているし、いかに20代でもかなりきつい勤務だろう。ただ、ワタミでは過去に現に過労自死事件が発生しているので、そういう労働も少なくとも過去にはあったということだ。そして、それだけ働いて31万1448円の月給というのがワタミフードサービスの賃金ということになる。

みんなで考えよう
 さて、読者の皆さんは、この賃金体系についてどう思っただろうか。それがブラックなのか、ホワイトなのかは、それぞれの判断にお任せする。
 ここで一つだけ指摘したいのは、残業代込みで総額を大きく見せる賃金の提示ってずるくない?ということ。しかし、そういう賃金の提示方式は禁止されていない。そうだとすると、労働者の側が勉強をして、ワタミフードサービスの新卒正社員の時給は理屈の上では930円くらいになるし、提示されている賃金からしてかなりの長時間残業、深夜早朝勤務を期待されている、ということを学んでいかないとならないと思うのだ。

2013.4.16 19:20追記
 18時台だけで400pv(忍者ツール測定)もあり、反響に驚いているが、「なぜ深夜早朝勤務手当の計算が1.25ではなく0.25」なのかについて。
 月給制の場合、深夜早朝勤務が週40時間、日8時間以内の所定労働に含まれている場合は、基本の1.00の部分は基本給の16万円でカウントされ、支払済みとなる。一方、深夜早朝勤務が時間外勤務の時は、1.00の部分は時間外勤務手当の1.25のうちの1.00に含まれている。結局、計算としては基礎時給に0.25を掛けることになるのだ。
 学生のアルバイトだと大概は時給計算だから、深夜早朝勤務手当は基礎部分も含めて「1.25」と覚えがちなのだが、計算の上では上記のようになる。

2013.4.16 21:50追記
 コメント欄とはてぶで60時間超の残業代について5割増ではないか、というご指摘を頂いた。この規定は一定の大企業にのみ適用があり、その要件は労基法138条で決まっているが、
(1)資本金3億円以下(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)の事業主
(2)常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業 を主たる事業とする事業主については百人)以下の事業
の(1)(2)のどちらにも該当しない企業のみだ。ワタミフードサービスは(1)は満たすようだが、(2)については、事業所の単位をどうみるのか(店舗単位なのか、地域単位なのか)と絡み、簡単に確定できない。公表されている情報だけでは適用の有る無しは必ずしも分からない。
 また、「残業代込みの基本給はあり」的なコメントが散見されるが、過去の判例によると、明確に計算ができる場合でないとダメということになっている。賃金体系が合法か、脱法かは非常に難しい判断なので、自分の賃金体系に疑問を持ったら、労働事件が専門の弁護士にどんどん相談した方が良いとおもう。というか、自分の基礎時給を知るためだけでも、法律相談を受ける意味はある(ただし、基礎時給の計算をすぐにできる弁護士は限られていると思うので労働者側で労働事件を専門にやっている弁護士に相談する必要がある。)。
 仮に60時間超5割増が適用されるとすると、はてブで「caq」さんにご指摘頂いた通り、既払45時間+追加残業55時間で、\1163x15h+\1395x40h=7万3245円となり、月100時間残業で、月給32万0728円となる。
posted by ナベテル at 17:50| Comment(4) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月04日

橋下市長の負け惜しみが新喜劇みたいな件

 昨年、大阪市が職員の思想調査を調査した件について、3月25日に、大阪府労働委員会が大阪市に対して再発防止の誓約文を労働組合に出すように命令した。橋下市長は一度は府労委の命令を受け入れるかのような発言をしたのに、夜には掌を返して中央労働委員会に再審査の申立をすると言い出した。このことについて、4月1日の記者会見で突っ込まれた際の橋下市長の言い訳が吉本新喜劇並みに面白いと筆者の周りで話題になっている。
 大阪市の調査の問題点、大阪府労委の命令については、3月25日に書いた「橋下市長、反省だけならサルでもできるのですぞ」をご参照頂きたい。

橋下市長の言い訳語録

 全文を確認したい方は大阪市のホームページをどうぞ。以下、強調点は筆者がしたものです。
読売新聞 木下記者
 この点でもう1回ちょっと確認なんですけれども、市長はこの命令が出た直後はですね、きちんとした第三者機関が判断したことなのでルール違反があったということであれば受け入れると。
市長
 そうですね。
読売新聞 木下記者
 で、その時点ではそのご発言からすると違法性の指摘について受け止められたというふうにこちら受け取ったんですけれども、そのあとその組合側の態度振る舞いが問題なので不服申し立てをすると。そうすると当初はその違法性についての認識は一定程度受け入れるというお話だったのが、組合の態度いかんによってはその態度を変えるということのその整合性と言いますか、対応ということにちょっとこう違和感を感じるんですけれども。
市長
 そんなことないですよ。だってそれは本来であれば違法性のね、認識の問題というものがあったとしても、それは最終の所まできちんと手続きを踏むってのが本来の原則ですから。だって今回は労働委員会のその仕組み、僕も頭に入ってないのでわかりませんけども、何回か不服申し立てができる中でね、そういう手続きの権利を与えられてる訳ですね。でもその権利を放棄するかどうかっていうのは、これは労使の問題な訳ですから相手方の態度振る舞いも影響されるのは当然じゃないですか。だって相手の方が僕がね、これあそこ謝罪命令も何にもでてないのに僕が謝罪やって不服申してもしないって言ってるのに追及の手は緩めないとか今までやってきたことが全部間違いだって言うんであれば、やっぱりきちんと僕の持ってる不服申し立て権を使ってね、その事実については明らかにしないと、そらあんな労使関係なにも改善しないじゃないですか。

 筆者の周りでは、橋下市長が最初に大阪府労委の命令を受け入れる旨の発言をしたことについて「中労委に再審査申立が出来ることや、大阪地裁に取消訴訟を提起できることを知らなかったのではないか」という噂が流れた。大阪府労委自体は大阪府の組織なので、府知事をやっていた橋下氏は府労委の人件費とかそういうものを目にしているはずだ。だから、府の人事委員会の決定のように、大阪の内で完結してしまう手続だと思っていた可能性があるのだ。そして、どうやらそれは本当だったようだ。そして、この発言自体にも誤りがあり「再審査」自体は中労委に1回できるだけで、その命令に対して地裁に取消訴訟を提起できる。最初の性急な受け入れ発言自体がいかに迂闊かが理解できる。
読売新聞 木下記者
 その判断の内容についての事実誤認があるからとか、そういうことではなくて、あくまでも労働組合の態度について問題があるから不服申し立ての権利を使うと、こういうことですか。
市長
 それは事実誤認とかそうでなくも、事実誤認とかそういうことがね、事実誤認でなくてもその最終の判断、評価の部分についてはやっぱりここは争っておかないと組合がああいう態度だったらもう丸っきし不服申し立て権使わずにあのままそうですって訳にはいきませんね。その事実を認めてルールはきちんと守らなきゃいけないってことは分かりましたけれども、そのあそこまでの救済命令が必要なのかね。どうなのかっていうところは争うべきだと思いますね。そうじゃないと他のもう組合のあの弁護士なんてもうその辺り何にもわかってないから学生運動のノリで、この労使の関係ってものをどう作っていくのかなんていうのは組合のあっちの弁護士ってのは権力者相手に戦えばいいっていうね、どうしようもない弁護士集団ですから。あれは組合ね、ちょっと考えないと本当に労使をきちんとね、労使関係を適正にしようと思ったら自分たちのつける弁護士ってのを選ばなければいけないですね。あんなことやって労使関係なんかうまくいく訳ないじゃないですか、そんなの。
 だからそれは他の訴訟とか手続きとか、もっと言ったら僕がやってきたことを全否定しにきてる訳ですから。そうであればやっぱりあの救済命令についてはね、しっかりこっちが主張してあの救済命令あそこまで踏み込まれないようにやっぱり防御しないとね。そうじゃなくて組合の方もこちらのメッセージもわかってもらってね、これまで1年間組合も頑張ってくれたところを僕は評価するところを評価してた訳ですから。そういうところはやっぱり労使の関係の中で、やっぱり組織の問題なんでね。どうも公務員の労働組合ってのは市長のことを自分の組織のトップというよりも批判の対象だっていうものを思ってる節もあるみたいなんでそういうところはやっぱり正さなきゃいけないですよ。

 前回のエントリに書いたことにも関わるが、使用者が不当労働行為をやらず、労働組合と誠実に協議、団交することこそ「適正」な労使関係だ。しかし、橋下氏の手にかかると、不当労働行為の是正を徹底的に追及する労働組合の態度が問題だ、ということになる。
読売新聞 木下記者
 そうするとルール違反の指摘については受け入れる部分もあるかもしれないけれども、誓約書じゃないですけども、もうしませんみたいなものを出す出さないという部分については争いの余地があると。
市長
 ルール違反のところについても全部認める必要もないでしょうからね。もっと精査して僕がある意味政治的にね、トップとしてもう全部飲み込んで全部認めようという話とね、行政的に全部チェックをして本当にそういうルール違反があったのかどうなのか、こういう事実があったのかってことをきちんとチェックする話ってのは別ですから。僕はもう、もういいかなと、全部飲み込んでもそこまでチェックしなくてもね、これで新しい新年度を迎えるにあたってもう全部飲み込んでしまえばいいのかなと思ったんですけれども。どうも大阪市の公務員の組合ってのはその辺りがわかってないっていうかね。変な弁護士つけちゃって可哀そうだと思いますけどもね。全部ぐじゃぐじゃにしましたね、あの弁護士が。
 でも弁護士を選ぶのも本人たちの責任ですから、どういう弁護士を選んだのかっていうのもね、本人たちの責任なんで仕方ないです。この1年くらいで25年度お互いにやっぱりそこは主張し合うところは主張し合いながらでも、うまく大阪市政きりもりできるような労使関係になるのかなっていうか、そういうことをめざしたつもりの最大のメッセージを送ったのに、あの弁護士に任してたらぐじゃぐじゃになっちゃいますよ。

 なんつーか、ここまで来ると、吉本新喜劇で、喧嘩でボコボコにされた後に「今日はこれくらいにしといたる!」と負け惜しみを言うレベルですな。ださー。
司会
 他にご質問ございますでしょうか。
市長
 あれは弁護士が悪いんです、あれは。組合の委員長の発言は全部文言を文字起こししたやつ僕の所に来ましたけども、いろいろ考えてるところがあるのかもわかりませんが、弁護士がいただけない。あれ何のために弁護士あれ入ってるのか、揉めさせるためにと言うか、市長相手に勝訴の判決を勝ち取るためになんかあの弁護士集団やってるとしか思いませんね。本当にうまく労使の関係をまとめるということが目的なんじゃなくて、権力相手に訴訟とか裁判手続きをやって勝つことが目的になってるっていうね。まさに勝利至上主義のなんか弁護士集団じゃないですか。労使関係をきちんと適正化することを目的に掲げるんじゃなくて、勝つことだけを目的にすればいいって。あんなことやったらそんなの労使なんてうまくいく訳ないじゃないですか。大体僕の性格知ってたらあんなこと言われたらそれは僕は言い返すに決まってるんだから。でもそういう弁護士を選んでしまったのもこれはやっぱり組合の責任な訳ですから、いくら委員長がそこまで発言してないって言ってもそういう弁護士選んだのはあなたでしょってことになってしまうんでね。仕方ないですね、これは。ちょうど僕がアンケート調査やった時だってそういう調査部隊を選んだのは僕なんだからってことで今回、労働委員会からそういう指摘をされてしまった訳ですから。やっぱり、選んだ責任ってものはあるんでしょうね。

 記者から質問がないのに、怒りが収まらないのか、労働組合の代理人弁護士を執拗に攻撃している。橋下市長は「学生運動のノリ」というが、市長のノリこそ小学生の喧嘩で「お前の母ちゃんデベソ」というレベルに見えてならない。

謝罪発言と掌返しについての弁護士的評価
 前回のエントリに引用した新聞記事で、橋下市長は「大変申し訳ない。」と明確に謝罪している。橋下氏長自体が記者会見で言っているが、本件は事実の(法的な)「評価」が問題となる。評価の前提となる事実関係は、マスコミに晒しながらやっているだけに争いがあまりないはずで、今回の思想調査についての市当局の行為と橋下市長の指示は客観面で見たら濃厚なクロだろう。それについて(法的な)「評価」に逃げ込んでおきながら、一方で弁護士である市長が「大変申し訳ない」と謝ったら、法的評価でもクロと認めたようなものだ。壮大な自爆である。筆者が大阪市の代理人弁護士だったら、ニュース報道に接するなり市長の秘書に電話してすぐに止めさせるようにどやすレベル。このように、いまさら記者会見で評価の問題と居直っても、挽回が難しくなる局面を自ら作り出しているのである。
 また、橋下市長は今でも現役の弁護士である。弁護士には、弁護士職務基本規程というものがあり、下記のように定める。
第九章他の弁護士との関係における規律
(名誉の尊重)
第七十条 弁護士は他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護士(以下弁護士等という)との関係において、相互に名誉と信義を重んじる。
(弁護士に対する不利益行為)
第七十一条 弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れてはならない。

 大阪市の職員の労働組合は(いくつかあるようだが)それぞれ数千単位の組合員がいるはずだ。全ての組合員が(というか多くの組合員は)自分の組合が選任している弁護士の素顔を知っている訳ではないだろう。そのような場面で、市長がマスコミの前で紛争の相手方の弁護士をそれこそ何の根拠もなく貶め、依頼者である組合との分断を計るような発言をすることは言語道断であろう。

再審査申立自体が不当労働行為かもしれないというオチ
 使用者には、府労委の命令について、中労委に対して再審査の申立をする権利がある。しかし、橋下市長の再審査の理由は「自らの非を全部棚に上げて、正義づらするのはおかしい。」「「対立でいくなら、雇用の確保を僕にお願いされても困る。執行部は(労使関係の良好化の)チャンスを壊した。組合員は不幸だ」というものであり(3月26日付zakzak)、「これまでは雇用を守ってきたが、対立構造でいくなら分限免職適用について厳格にやっていく」などという脅かし文句も述べている。組合や代理人弁護士は不当労働行為を繰り返す橋下市長に対して「白旗をあげるだけでなく、(組合への対応を)是正することを求めていく」(3月30日産経新聞)と述べたのであり、それを足がかりにして、再審査手続や分限免職処分を組合との「対決構造」の手段に使うとなると、再審査の申立自体が不当労働行為になるという希有な事例になるのではないかという危惧を感じ、元々マスコミ頼みで売り出したのに露出が低下してオワコン化しつつある橋下市長の行く末を案じる今日この頃である。

2013.4.5追記
 記者会見全体を読んでいると、ABCの記者が橋下市長におもねるような気持ちの悪い質問をする一方、読売新聞の木下記者が鋭く追及し、このエントリで言及した橋下市長の滅茶苦茶な供述を引き出しているのが印象的だった。直前に感じの悪い質問をされ、市長自身もキレて記者を攻撃する可能性がある中で、上記供述を引き出した木下記者は素晴らしいと思う。
posted by ナベテル at 16:07| Comment(2) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月25日

橋下市長、反省だけならサルでもできるのですぞ

 橋下市長の関与の下行われた大阪市職員に対する思想調査について、大阪府労働委員会が「支配介入行為」に該当し、「不当労働行為」になるから、組合に対して再発防止を誓え、という命令を出した。
<大阪府労委>職員調査は「不当行為」 橋下市長が謝罪
毎日新聞 3月25日(月)12時34分配信
 大阪市が昨年2月、全職員を対象に実施した政治・組合活動に関するアンケートは、労働組合法が禁止する不当労働行為に当たるとして、大阪府労働委員会は25日、今後はしないとの誓約文を組合側に渡すよう市に命令した。府労委は、橋下徹市長が組合活動に否定的な見解を表明している状況で強制力を背景にアンケートを実施したとして、「組合活動に対する支配介入だった」と違法性を指摘した。

 橋下市長は記者団に「大変申し訳ない。法に基づいた行政運営をしていく」と謝罪し、不服申し立てをしない意向を表明した。

 命令書によると、府労委は組合加入の有無や加入のメリットなどをアンケートで尋ねたことについて「組合員に動揺を与え、加入していない者にも加入をためらわせかねない」と指摘し、不当労働行為に当たると認定した。

 市側は調査主体は第三者チームと主張したが、府労委は同チームは市の影響下にあり、調査主体は市だったと判断。また、市は「不適切な組合活動の解明が目的」などと正当性を主張したが、府労委はアンケート自体が支配介入に当たるとして、市の主張を退けた。

 アンケートは昨年2月、市特別顧問らで作る第三者チームが実施。組合加入の有無や選挙活動への関与など22項目を尋ね、橋下市長が「業務命令」として回答を義務付けた。市職員約2万8000人が加入する市労働組合連合会(市労連)が救済を申し立て、府労委は同月、「支配介入に該当する恐れがある」として中断を勧告。市は4月、収集したアンケートを廃棄した。

 市労連など複数の組合が昨年、組合の団結権や思想・信条の自由を侵害されたとして、市などに損害賠償を求めて大阪地裁に提訴。府労委の命令が影響を与える可能性がある。

 橋下市長は、11年の市長選で労組が現職候補を支援したことを問題視し、第三者チームを設置。アンケートの他、職員の公用メールを調べるなどした。

 記者会見した市労連の上谷高正・執行委員長は「橋下市長はアンケート以外にも、組合への不当な介入を続けている。市はすぐ謝罪し、健全な労使関係を築く努力をすべきだ」と話した。市労連は今後、アンケートの経緯の検証や、再発防止を市に求める方針。【原田啓之、茶谷亮、津久井達】

不当労働行為、支配介入行為とはなんぞや
 基本的な用語を確認しておくと、労働法の最も基本的な法律の一つである労働組合法に以下のような規定がある。
(不当労働行為)
第七条  使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一  労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二  使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
三  労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四  労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法 (昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。

 意外に知られていない事実だが、戦後の日本の労働法制の制定の歴史を紐解くと、労働基準法よりも労働組合法が先に作られている。これは、使用者と労働者との「労使自治」によって労働基準が作られていくことが原則とされたからでもある。後に作られた労働基準法は、法律の一番最初に書いてあるとおり、あくまで労働条件に関する最低基準を強制的に定めたにすぎず、それを超える労働環境は、使用者と労働組合が話し合いして決めてね、というのが我が国の労働法制の基本中の基本なのである。(蛇足だが労働組合を嫌う労働者の労働条件が悪化するのもこの法制度からすればある意味必然なのである)
 そして、そのような正常な労使関係を作る上で最も基本になるのは、立場の弱い労働者が労働組合を作ったり運営したりすることについて、使用者から差別を受けたり、使用者にコントロールされたりしてはならない、ということである。労働組合からの話し合いの申し入れ(団体交渉の申し入れ)について使用者が拒んではならないことは言うまでも無い。上記労働組合法7条はこの大原則を定めたもので、これらをまとめて「不当労働行為」という。日本国憲法の直接の委任によって作られた根本的な法である労働組合法の中でも最も重要な条文の一つである。「支配介入行為」とはこのうち7条3号の「労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」をいう。これらが禁止されるのは、言うまでもなく使用者からの労働組合への影響力行使(団結権侵害)を排除し、労働組合の自主性を保持するためである。しかし、支配介入が現実に労働組合の結成・運営に影響を及ぼしたかどうかは問題ではなく、客観的に支配介入の意味を持つ行為がなされれば、不当労働行為が成立しうる(『労働組合法 第2版』西谷敏 2006年11月30日 有斐閣p198)。

大阪府労働委員会の命令の重さ
 大阪府労働委員会とは、労働組合法19条の12と大阪府の条例によって設置される大阪府の機関であり、上級機関は東京にある中央労働委員会(こちらは国の組織)である。府労委も中労委も、労働組合が不当労働行為を受けたときに「救済命令の申立」をしたのに対して、訴訟のような手続を経た後、「救済命令」という行政命令を出すことができる。これは使用者と労働者の権利義務関係を役所の命令で形成してしまうもので、強力な力を持つ(命令の是非について裁判所で争うことは、当然、できる)。今回、大阪府労委が大阪市に対して再発防止の誓約書を発行するように求めたのはこの権限に基づくもので「ポスト・ノーティス」と言われるものである。実は公務員は労働組合法の適用が除外されているのだが、現業職員については回り回って労働組合法の適用がある。今回の救済命令はそういう現業職員の組合に対するものであろう。
 労働組合法に基づく歴とした公的機関による強制力のある命令が非常に重いものであることは言うまでもない。

市長、反省だけならサルでもできるのですぞ
 橋下市長は、これ以上争っても勝ち目がないとみたのだろう。即日、負けを認める発言をした。橋下市長はそれで幕引きをしたいだろうが、市長、反省だけならサルでもできるのですぞ。労働組合法は、すでに述べたように日本国憲法の直接の要請に基づいて作られた法律であり、それを遵守すべきことは使用者の義務である。まして、憲法尊重擁護義務、法令遵守義務を負う大阪市長があえてそれに違反するようなことをしたことは極めて重大な問題なのである(橋下市長は職員に対する思想調査の指示書にわざわざ下手くそな直筆で署名している)。簡単な幕引きは到底許されない。
 すなおに謝罪できない橋下市長に代わって、本来あるべき謝罪文言を考えてみたので、こういう方向で発言することを検討されたい。また、大阪市の思想調査については、別途、職員が慰謝料請求をする訴訟等も提起されており、まもなく山場を迎えると聞いている。こちらでどのような判決が出るかも注目である。
「本日、大阪府労働委員会で、私が直筆で署名した文書によって指示された大阪市職員に対する思想調査について、労働組合法が定める不当労働行為(支配介入行為)に当たるので、組合に対して再発を防止する誓約書を提出するように、命令を受けました。大阪府労働委員会の判断は大変重く、私としても、正面から受け止めなければなりません。そもそも、私は憲法と法令を遵守すべき大阪市長であり、法律の専門家である弁護士でもあります。そのような大阪市の法律的なマネジメントを預かる者として、憲法が定める思想良心の自由、憲法・労働組合法が定める労働組合活動の自由について、熟知しなければならない立場です。そのような私が直筆の署名までして憲法、法令に違反する思想調査を行ったことについては深く反省しており、私のマネジメント能力の欠如を指摘されても致し方ないものと考えます。関係各位にはご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。また、このような明白な違法行為をした以上、本日、潔く、大阪市長の職を辞する決意を致しました。」

追記。
 なんつーか、この人、自分の前言を撤回して上訴するのまで他人のせいかよ。言ってて恥ずかしくならないのかな。僕の周りの邪推では、ひょっとして中労委(or地裁)に持って行けることを知らなかったんじゃないか説が有力に主張されております。
橋下氏「正義づらはおかしい」 アンケート問題で謝罪撤回、不服申し立ての意向
産経新聞 3月25日(月)22時2分配信

 大阪府労働委員会が不当労働行為と認定した大阪市による職員へのアンケート問題について、橋下徹市長は25日、午前中にいったん不服申し立てを行わない方針を示したが、同日夜になって撤回した。

 橋下市長は同日午前、「労働組合に対する不当介入ということであれば、大変申し訳なかったと思っている」と陳謝し、不服申し立てをしない意向を示していた。

 だが、橋下市長は、府労委が命じた再発防止の誓約書以上の措置を求めていくなどとした組合側の記者会見を受け、方針を撤回。市役所内で記者団に対し、組合が選挙でビラ配りを行っていた実態などを指摘した上で「自らの非を全部棚に上げて、正義づらするのはおかしい。正すべきところは正していく」などと述べ、人事室に不服申し立てを行うよう指示したことを明らかにした。
posted by ナベテル at 16:35| Comment(4) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。